接近遭遇
私たちは音の波長を利用して活動するラファース・ルファースの原生生物の生態を調査後、次の目的地まで宇宙を旅している途中の出来事でした。
私たちの観測母船は人工恒星ヘリオスを中心に複数の研究室がヘリオスを周回する疑似星系を形成しています。冬眠といった概念はありません。長期航行中も、採取した試料の解析、実験、観測研究は常に稼働継続しているからです。
その空域は安定期の恒星がまばらに浮かぶ空域で、乗組員の大半が天磐船の研究室に集まってラファース・ルファースで収集した音の分析をしているところでした。
突然。私たちが生活する母船イムドゥグド、観測船ヴィマーナ、データベース収納艦天磐船に恒星風警報が発令されました。
進行方向1時の方角の恒星が、巨大な焔を噴き上げている様子が研究室の大モニターに映し出されました。イムドゥグドの窓からも壮大な天体ショーを見ることができました。
フレアというのは言うまでもなく磁力線同士の干渉が生み出す現象です。ですから恒星を観測したときに磁力スポットがあれば、その大きさからどの規模のフレアが発生するか予測がつきますし、ヴィマーナからプローヴを出して、発生の様子を観測することもできますが、その恒星は違いました。黒点の無い場所で起きるハイダーフレアという現象でした。
橙色から暗い赤の鮮やかなグラデーションの炎がゆっくりと恒星から噴き上がって膨らんで巨大な弧を描き、磁力から解き放たれた希薄なガスは宇宙空間に溶けて消えていきます。素晴らしい天体ショーです。
ところがそのプロミネンスは違いました。一番高く立ち上った頂点に中心にまばゆい光の点が現れました。
輝点の中心温度が上昇していると温度センサーが伝えてきて、稼働できる観測機器をすべてプロミネンスの中で光る点に向けました。
発生した青白い光輝はだんだん大きく輝きを増していきます。形状も縦に長く横に短い菱型に近い放射状に伸びていきます。不思議な光景です。
紅炎のアーチは完全に消え去り、そこにいたのは長大な首、巨大な翼、優雅に伸びた複数の尾羽を持つ、鳥としか言いようのない存在でした。
飛翔体は、二度三度翼を羽ばたかせ、観測母船の脇をゆっくりとすれ違い、闇の深淵に消えていきました。