人違いですね
別のお話を書いてたら浮かんできて楽しくなってきてしまったお話です。
不定期更新ですが最後まで書きあがってはいますのでお付き合いいただければ嬉しいです。
妖精と魔法の国、フェアノスティ王国。
その王都エリサールは王城を最上部に、いくつかの区画が層を重ねるようにしてできている。
王都の一番外周部には多くの店が立ち並んで賑やかな商業区と王立騎士団詰所が置かれている。
王城のある最上層の区画と商業層の間にあるのが、貴族街と一般市民の住む居住層である。
貴族街の端っこ、ギリギリ一般市民区画に入るか入らないかという場所に、バーリエ伯爵家のタウンハウスはある。
伯爵家のタウンハウス、とはいうものの、その実普通の平民宅である。
それでも、バーリエ伯爵家の長女と双子の弟が一緒に住まっているのだからそうとしか呼びようがない。
バーリエ伯爵領は王都から北に行ったところにある、そこそこの農地とそこそこの市街地がある平凡な田舎である。
数年前、夏の天候不順により作物の実りが大幅に落ち込んだことがあった。
領民たちの生活を護るためと領主であるバーリエ伯爵は私財をはたきつつ借金もして他領から食料を買い付けた。
何とか当面の危機を回避できたものの、もともと裕福とは言い難かった伯爵家の家計は火の車。
双子の長男次男が揃って王立学院に入学する歳になってもまだ借金は残っており、学費はともかく、二人分の寮費を払う余裕はなかった。
優秀な学生であればそれらも免除になるのだが、残念ながら双子は能力的にそこまで秀でてはいなかった。
そこで、その時点ですでに王都にて貴族家の家庭教師の職を得ていた長女の元に双子を送り、一緒に住まいながら学院に通う、ということになった。
独り住まいのアパートに三人は手狭に過ぎるので、安い物件を探しに探して古いながらも一軒家を借り、そこでの共同生活を始めた。
もちろんメイドを雇う余裕なんてまったくないので、家事も姉弟共同で行っている。
ただ、寮費は浮いたが食べ盛りの男児二人を含む三人分の食費は馬鹿にならず、長女はそれまでの家庭教師に加え、王都に訪れた貴族が使う宿泊施設でのメイドの仕事もするようになった。
貴族街のはずれの道を歩きながら、バーリエ家長女、オーロラ・バーリエは今月の支払い分と受け取る給料の予定額を計算していた。
「今月も何とかなりそうね、よかったー」
華奢な手でぐっと握りこぶしを作り満足げに笑う姿は、貴族令嬢というよりは普通の町娘だ。
特に今はドレスではなく、宿泊施設での仕事帰りなのでメイドのお仕着せの上に外套を羽織っているものだから輪をかけて平民にしか見えない。
まあ持っているドレスはどれも流行遅れで着古した地味なものばかりだから着替えてもあまり貴族感は出せないだろうが。
オーロラは今年で23歳。
背は小さくやせ型ではあるが、くりっとした大きめの碧眼と健康そうな色を乗せた丸みのある頬が見る者に溌溂とした印象を与える。
緩くうねりのある金髪はそれほど手入れしてないにしては綺麗に保てているし、美容関係にお金は掛けられないからと申し訳程度の薄化粧しか施してないものの、整った可愛い顔をしている。
23歳といえば、貴族の令嬢ならとっくに結婚している年齢だ。
実際結婚の予定はあったのだが訳あって立ち消えになったため、王都で職を得て独り暮らしをしていた。
子供の頃に礼儀作法を教えてくれていた婦人の紹介で子爵家の令嬢の家庭教師の口を紹介してもらえたのは本当に運が良かったと、オーロラは思っている。
子爵家とはいえれっきとした王都の貴族家だ。
格上の伯爵家の令嬢とはいえ、実績なんてまったくないぽっと出の田舎貴族出身の若い娘をいきなり家庭教師として雇うことなどまずないだろうに。
今でも、そちらの子爵家には週に二日家庭教師として通わせていただいている。
家計が厳しいので弟たちを寮に入れずに一緒に住むことにしたと話したら、貴族向け宿泊施設での仕事を紹介してくださったのも子爵夫人だ。
王都に来たばかりの頃はまだ、陰でこそこそと行き遅れだのなんだのと言われるのに一喜一憂していた。
だが、元来オーロラはあまり深く悩んだりしないタイプの娘だった。
他人がどう言おうと知らない、好きに言わせておけばいい。
そう割り切ってしまえば楽なもの。
結婚への意欲がもともと希薄だったのもあり、このまま独身を貫いて働いて自立していくのもアリだと思っている。
何より今は、三年間の弟たちの学院生活を支えるので手一杯だから。
「その三年間もあと半年。
いやぁ頑張ったよね私ー」
来年春には二人とも15歳で学院中等部を卒業して実家のバーリエ伯爵領へ帰る予定だ。
そうなったら、一人でいた頃のようにこぢんまりしたアパート暮らしに戻って、自分のための時間も持てるようになるだろう。
「まずは、買い貯めてて時間なくて読めずにいる本を片っ端から読んで、
それから何しよう……そうだわ!
久々に南大陸やソランの島を旅行、はしばらくは厳しいから。
せめて、王都にきた劇団公演鑑賞くらいはしたいなぁ…ふふふ」
外国文学を読むのが趣味のオーロラがそんなことを一人でちょっと怪しい笑顔になりながら歩いていたら、家のある方向から誰かが走ってくるのが見えた。
夕刻を少し過ぎ、人通りもまばらな時間だ。
オーロラは後ろに下ろしていたフードをかぶって顔を隠しながら、財布が入ったカバンをぎゅっと胸に抱え込むようにした。
緊張しながら様子を窺っていると、やってくる人物が自分を呼んでいるのが聞こえた。
「ねえさーんっっ!」
「…リント?」
走ってきたのは双子の弟の方、リントだった。
「ちょっと、リント!声がおっきい!
今何時だと思ってんの、ご近所迷惑でしょ!?」
声量を落としながら早口に説教するオーロラに、「あ、ごめ」と小さく謝りながらもリントは上気した顔で訴えた。
「いやそれどこじゃないっ、大変なんだってば!」
「大変、って!?
また学院で何かやらかしたんじゃ…!」
「俺たちじゃないよ、やらかしたのは姉さん!」
「え……?
私、とくに仕事でへましたりしてないけど?」
「そうじゃなくて、やらかしたっていうかなんていうか、んあーーもうっ
とにかく!早く家に帰って!!」
「え??え??
ちょっ、リント!?」
リントに手首を掴まれて引き摺られるように自宅に帰ると、困惑顔をしておろおろするもう一人の弟フォルツと一緒に、見知らぬ男性が待っていた。
パッと見ただけで高そうと分かる仕立ての良い執事服をびしっと着込んだ、オーロラよりも少し年上であろう年頃の男だった。
庶民じみた手狭なタウンハウスの中で、そのいでたちは何とも場違いである。
リントとともに息を切らせながら走り込んできたオーロラを一瞥し、男性は片眉をくいっと上げた。
「用が済みましたらすぐにお暇しますので、茶の接待等は不要です」
一瞬何を言われたかぽかんとしたが、走って着崩れてしまった外套からメイドのお仕着せが見えているのに気づいて理解した。
接待のために通いのメイドを呼び戻してきたとでも思われたのだろう。
息を整えながら外套と、お仕着せのエプロンのみを外して黒いワンピース姿になり、小さく膝を折ってお辞儀をした。
「留守にしており失礼をいたしました。
当タウンハウスを任されております、バーリエ伯爵家長女、オーロラ・バーリエと申します」
伯爵家長女、と名乗ると、男性は一瞬「嘘だろ」と言わんばかりの表情をのぞかせたが、すぐに居住まいを正してお辞儀を返してきた。
「こちらこそ、大変失礼をいたしました。
私はリンデルト侯爵家に仕えております、執事のトレバンと申します。
本日は我が主、ミハイル・リンデルト侯爵閣下より、バーリエ伯爵令嬢オーロラ様への求婚状をお届けに上がった次第です」
「…………………はい?」
執事殿が流れるように述べたセリフをバーリエ姉弟が理解するまでたっぷり数秒かかった。
リンデルト侯爵家は、ザクト南方辺境伯領に隣接した、王国南東部に領地を持つ屈指の大富豪として有名だ。
当然、田舎の貧乏伯爵家とは関わり合いになることは、過去にもこの先の未来にもないだろう。
もちろん縁談が舞い込むなんてことは想定外にもほどがある。
「あの、失礼を承知で申し上げますが、お訪ねになる家をお間違えでは?」
「こちらはバーリエ伯爵家のタウンハウスで間違いないと、弟君からお聞きしましたが?」
「ええ、当家はバーリエ伯爵家で間違いはありません。
ですが、その、私は侯爵閣下とは面識もなにもありませんし、当家もリンデルト侯爵家とお取引できるような家ではありません。
やはり人違いではないでしょうか…?」
「私は侯爵閣下より、間違いなくオーロラ・バーリエ伯爵令嬢に求婚状をお渡しし、返事の手紙を頂戴して戻るようにと仰せつかっております」
(ありえないわ)
声には出さなかったものの、オーロラは困惑を隠しきれなかった。
面識のない相手と結婚するのは、貴族間での政略結婚ならままあることだ。
でもそれは結婚により縁を得ることに経済的に、もしくは政治的に何らかの利益がある、というのが大前提。
その場合は、両家の親、もしくは男性本人と女性の親の間での合意のもとで話をまとめ、その後に当人同士を引き合わせることが多い。
つまり、求婚状を送るなら女性本人ではなく、まずは父親のバーリエ伯爵宛にするのが普通である。
しかも、どう考えてもバーリエ伯爵家と縁づくことでリンデルト侯爵家に何か益があるとは考えられない。
流麗な文字で自分の名前が書かれている書状を見下ろし、オーロラはもう一度確認する。
「本当に、絶対に人違いだとは思うんですが……」
「お返事をいただくまで、戻ることはできません」
頑なな返事とは裏腹に、使者の顔には『間違いだよなぁ、俺もそう思うわ』という表情が浮かんでいる。
彼としても、そうは思いつつも主人の命は絶対なので、返書を貰うまで帰れないのだろう。
「……では、お手紙を確認させていただきますけど。
内容を見てやっぱり人違いだったと分かった場合、他人の私が開封したことで罪に問われたりは……」
「いたしませんので、ご安心ください」
「はぁ……」
渋々、オーロラは使いの者の手から書状を受け取った。
部屋の隅にある小さな文机の抽斗からペーパーナイフを取り出し、慎重に書状を開封する。
開くとそこには宛名と同じ美しい書体の文字が綴られていた。
曰く、自分たちは幼少の頃に王城で子供だけを集めて開かれた茶会で出会って将来を誓い合った仲である。
ずっとその頃から貴女を想い続けてきた。
約束通り、求婚状を送るからどうか身一つで侯爵家に嫁いできてほしい、と。
「…………」
熱烈な文章は目から情報として入って来るものの、読んでいるオーロラの心には全く響いてこなかった。
オーロラは小さい頃からずっとバーリエ伯爵領からほとんど出ることなく大きくなっていて、初めて王都に来たのは学院に入学した12歳の時である。
幼少の折も、もちろん王都に来て以降も、王城で開かれた茶会になど参加していない、
そもそも地方の名ばかり貴族であるバーリエ伯爵家宛てに茶会の招待状が届いたかどうかも怪しい。
「……やはり、人違いですね」
ですよね、とこれまた顔に出しまくった使者が、「お返事を」と催促してきた。
(まだ若いから、かしらね。私も人のことはとても言えないけど)
侯爵家家臣としてはもうちょっと表情をコントロールする訓練をした方がいいんじゃないかな、とオーロラは思う。
思うが、口にも顔にも出すことなく、無言のまま文机で短い返書を認めた。
「こちらを。
私はご覧のとおりしがない伯爵家の身、高位貴族の方と書信をやり取りできるような身分ではございません。
ですので、不敬と取れるような内容になっていたとしてもどうかご寛恕くださいとお伝え願います」
「かしこまりました」
返書を受け取ると、侯爵家の使者は用は済んだと言わんばかりにささっと帰っていった。
残されたバーリエ家の姉弟は去っていく豪奢な馬車を見送りながら小首を傾げる。
「いったい、なんだったの???」
やれやれと言った顔でリントがオーロラに尋ねてくる。
「さぁね……盛大に、人違いをなさっただけみたい。
まあ、済んだことは忘れましょ。
貴方たち、今日の事は口外無用よ、いいわね!?」
「はぁーい」
「なんか面倒ごとに巻き込まれそーだもんねぇ」
口々に言いながらタウンハウスに入っていく双子を追いながら、オーロラも突然来てすぐ去っていった奇妙な来客に首を傾げていた。
(ほんと、なんなの??)
その翌日、家庭教師をしている子爵家からの帰り道。
オーロラは、教え子の子爵令嬢アリス様との会話を思い出していた。
「先生は結婚はなさらないの?」
「ええ、今のところは考えてはいません」
「もしかして、先生もあれかしら?
運命の恋のお相手に巡り合うのを待ってらっしゃるの?」
「運命の恋の…?
アリス様、また小説か何かを読まれましたのね?」
「だって素敵じゃない。
それに物語の中だけじゃなくて、現実にもあるじゃない。
ルシアン王太子様ご夫妻とか、あと、『約束の令嬢』をずっと探していらっしゃるリンデルト侯爵様とか!」
リンデルト侯爵、と聞いて、持っていた茶器を置こうとしていたオーロラの手が止まった。
(なんだろ、つい最近聞いた覚えが……)
考えて、昨日訪ねてきた珍客の名乗った家門がリンデルト家であったと思い至った。
「アリス様、リンデルト侯爵家の『約束の令嬢』、って??」
「あら、先生ご存じない?
お母さまから聞いたの。王都の社交界じゃ有名なお話らしいわ。
なんでも、幼き頃に出会って結婚の約束をしたご令嬢を想って、侯爵家御当主のミハイル様は未だに独身を貫いていらっしゃるとか。
リンデルト侯爵家と言えば富豪で有名で、しかも侯爵様ご本人は大変見目麗しい方らしいんだけど。
降り注ぐ花弁のように舞い込む縁談を『約束の令嬢』を理由に悉くお断りされてるんですって!素敵よねぇ」
「………」
ソウデスカと曖昧に返事をしながら、オーロラは口元が引き攣らないように注意を払わなければならなかった。
話の内容に、心当たりがありすぎる。
いや、自分自身の記憶ではなく、昨日読んだばかりの求婚状に綴られていた熱烈な文章の内容と状況が酷似していた。
(他人の話ならいざ知らず、本人のことだから状況がそのままであたりまえか)
幼い頃に結婚の約束をした令嬢がいる。
なのに他から縁談がわんさか持ち込まれてる、というなら、当人同士の口約束だけで正式に婚約を交わすまでには至っていないということか。
(それってほんとに、子供同士で指切りげんまんしたってレベル、ってこと?
その令嬢を理由に、数多の縁談をお断りされ続けてる、と??)
聞いたところ、侯爵閣下はオーロラより年上の27歳とのこと。
アリス嬢から聞いた話と、昨日自分宛のはずがないと思いながらも読まざるを得なかった手紙の内容からして、リンデルト侯爵閣下はたいへんなロマンチストであられるようだ。
悪く言えば…いい歳をしてちょっと痛々しいかも?、とも思う。
(まぁいいか、人違いですとちゃんとお断りしたのだし。
ビンボーなうちとお金持ちの侯爵家、今後は関わることもないでしょ)
昼間の会話を脳内再生しながら歩いているうち、貴族街を抜けてそろそろ平民たちのいる一般居住区が近くなってきた。
買い物一つするにも、貴族街より一般居住区の方が質は劣れども格段にお値打ちだ。
台所に残っている食材を思い出しながら買い出しのために商店の方へと向かい角を曲がろうとして立ち止まった。
行く先の道路脇に、昨日タウンハウスを訪ねてきたよりさらに豪華な造りの馬車が停まっているのが見えたからだ。
御者台と、それと馬車内にも人影があるから、中に貴族が乗っているようだ。
夕刻に差し掛かったばかりの時間だったので、まだ人通りがある。
この辺りを歩いているのは平民やそれに近い暮らしぶりの下級貴族ばかり。
めったに見かけない豪奢な馬車を、みな遠巻きにしながらも視線の端で捉えるようにして観察し、失礼がない程度にひそひそと話をしている。
(誰かを迎えに?
でもここは、こんな馬車に乗る方が待ち合わせに使うような場所じゃないと思うけど)
買い物は諦めて引き返し直接家に帰ろうかとも思ったが、別に自分に疚しいことがあるわけでなし避ける必要もないかと思い直した。
おなかにぐっと力を籠め、背筋を伸ばしながら毅然と通り過ぎようとした、その時に。
「開けろ」
馬車の中から若い男の声が掛かった。
命令を受けた御者が素早く降り、恭しく馬車の扉を開けようとする。
(え、ちょっと、嫌なタイミング……
走って通りすぎ…るのは偉い人の行く手を遮るみたいで失礼かしら?)
一瞬の判断でオーロラは歩みを止め、壁際に寄ってすっと視線を下げながら馬車から貴族らしき人物が降りるのを待った。
微かに扉が開く音に続いて、馬車のステップと、続いて石畳を踏みしめる硬い靴音が聞こえた。
視線を上げないようにしながら、オーロラは早く通り過ぎてくださいとだけ願っていた、のだが。
(え…なんで……?)
コツコツと響く靴音が、近づいてくるように思うのは気のせいか。
思い違いであってくれ、とのオーロラの願いも空しく、下げた視界の端に繊細な意匠を施し綺麗に磨き上げられた靴先が入ってきて止まった。
「どうか顔を上げてください」
男性の落ち着いたよく通る声がした。
顔を上げろと言われたのにうっとなりつつも、高位の者から言われたら従うしかない。
ゆっくりと、伏せていた目を上げていく。
ライトグレーを基調とし、銀糸や宝石を惜しみなく使って装飾を施された貴族服。
そして、その煌びやかな衣装にも全く霞むことない、美麗な顔立ちの青年が穏やかな笑みを浮かべてオーロラの目の前に立っていた。
白に近いプラチナブロンドのさらりとした直毛の長い髪を背中に流し、同じ色の長い睫毛が夏の空を思わせる澄んだ青い瞳をこれまた美しく縁取っている。
まさに貴公子といういでたちの青年だった。
それにどこか、その面差しに見覚えがある気がする。
どこで見たっけ?と記憶をさらっているオーロラに、青年はふわりと笑った。
「オーロラ・バーリエ伯爵令嬢、でいらっしゃいますね?」
「……はい、相違ございません」
名前を呼ばれると思っていなくて一瞬固まった後、膝を少し折りながらオーロラは答えた。
何故この貴公子が自分のことを知っているのか理解できない。
何かを咎められるというわけでもなさそうだが、考えていることとは裏腹に表情や言葉を使いこなすのが貴族というもの。
しかも、どう見ても相手は伯爵よりも高位の貴族。
いったい何を言われるのだろうと身構えていると、目の前の貴公子は春の日差しのように柔らかく微笑んだ。
「先日お手紙を遣り取りしました、ミハイル・リンデルトと申します。
今日はバーリエ伯爵令嬢に直接会ってお話がしたく、失礼ながらこうして出向いてまいりました」
楽しみつつも頑張って最後まで仕上げていこうと思ってます。
どうぞよろしくお願いします。