人形劇
「なあ、ここはどういう場所なんだ」
そこそこの規模感の町。普通であればもう少し活気があってもいいものだが、ほとんど人がいない。
「前に来たときはこんな静かじゃなかったんだけど」
リネアも不気味なほど静かなこの町の様子に疑問を抱いてるようだ。とりあえず宿屋で部屋を借りてそこの人に聞けば事情も分かるだろう。
「とりあえず宿に行こう、リネア」
宿屋まではそう遠くなかった、いやしかしここに来るまで見かけたのはせいぜい3人か。変なことに巻き込まれなければいいが。
「二人で」
宿屋のオーナーは悩んだような顔をしている。部屋数の問題だろうか、それともこの町の様子に関わることだろうか。であれば
「この町の様子が前来た時に比べてだいぶ寂しいようなんだけど何かあったんですか」
オーナーは俺の質問にすぐに答えてくれた。
「近頃、ここ一ヶ月くらいだったか、この町で殺人が起きていてね。犯人の見当もつかないような状態で。そんな中出歩こうなんて人はそういない。いつもなら大歓迎なんだがね、今はこの町を出た方が賢明だよ」
なるほどな、しかし犯人の見当もつかないというのは変だな。物理的に殺されているなら物的証拠が残っているだろうし、魔術も相当の練度でない限り魔力から使用者を特定できてしまう。
「そうだ、ここに竜人に関する記録って在ったりしないですか」
そもそもの旅の目的はこれだ。とりあえずそれさえ手に入ればここに長居する理由もないのだから。
「竜人についてのものは、五竜戦争の一節にあるかもしれないがそれ単体のものはないねえ」
ずっと黙っていたリネアが突然口を開いた
「五竜戦争、ね。レイ、あなたが歴史を辿るなら、五竜戦争のことは知っておいた方がいい」
「お前は何か知っているのか」
純粋な疑問を投げかける。生まれてから聞いたこともなかったが、まあうちの村には外のことはほとんどなかったから仕方ない。
「私は、別に。ただ有名な歴史というだけ」
なるほどな。まあいい。とりあえずその記録をもらってここを出発すればいい。
「その記録書はもらってもいいんですか」
「いいとも、うちの倉庫に眠ってただけで誰も読む人なんていなかったからな」
「ありがとうございます」
こうして無事本は手に入ったことだし早めにこの町とはさよならだな。
「まずい」
リネアが深刻そうな顔で呟く。何かあったのだろうか。
「どうした、急に」
「閉じ込められた」
「は?」
唐突すぎて意味が分からない。閉じ込められた?誰に?まずはどうにかして解決策を考えないとだ。
考えを巡らせようとしたとき、上の方から幼げな少女の声がした。
「ほんとに来たんだ~、びっくりー。私が求めているのは精霊の子だから」
上を見ると10歳くらいの鎌を持った少女が浮いていた。リネアが目的なのか。本当に面倒なのを拾ってしまったらしい。改めてそう思った。だとして案内役をしてくれているのだからこの程度は許容範囲だ。
「あなたはいらない」
その瞬間体が前に倒れる。おいおいマジか、一瞬で両足を切断されたようだ。床に突っ伏したまま聞く。
「町の人を殺してたのもお前か」
「そうだよ~、ただ待っているだけじゃ退屈だったんだもん。」
イカレてやがる。こんなのが町にいるとは。だが少し変だ、生命反応を感じない。生き物じゃないのか。
「とりあえず逃げる。話はそれから」
リネアが言うものの閉じ込められた今の状況、しかも俺は足がない。
「オールクリア。これで結界は破壊した。足を直すのはあとで」
こいつはなんなんだ一体。魔術に精通してるにしたって封鎖結界をこうも簡単に解除できるものか。それに足を直すのは後でって。
「そう簡単に逃がすわけないでしょ」
少女はそういって鎌をリネアに向け引いた。刃は空を切ったがその瞬間リネアの身体が真っ二つに切れた、ように見えたが何事もなかった。
「今確かに切ったはず。私の鎌は照準さえ合えばたとえ当たってなくとも遠隔で切れる。確かに切った感触は合った。けれど無傷、おかしい」
少女は動揺を隠しきれない様子だ。正直俺もリネアが何をしたのか全く分からない。