1か0か
猫は立ち止まる。 私の家の近所。 よく見る景色。 ……私の苦手な場所。 行った事は何度かはあるのだが、極力立ち入りたく無い場所である。
『ここにゃあ』
「こ……ここにいくの?」
大きな、それでいて古い鳥居の前で佇む私と猫。 正直何が嫌なのかもわからない。 それは怖いとか、恐ろしいとかそう言う感情ではなく、とにかく何かが嫌なのだ。
「まぁ……いいけど」
鳥居の奥は石の階段が続いている。 両脇には気 木が生い茂っているので不気味と言えば不気味だ。 猫はそそくさと一段ずつ登っては、早く来いと言うようにこちらを振り返る。
「はぁ……」
思わず溜め息を溢すが、猫も一緒だと言う事で踏ん切りがついた。
私は階段を登る。嫌々ながらも一歩ずつ。
『にゃんだお前。にゃにを躊躇っている』
「いやぁ。なんかここって苦手なんだよね」
『そうか。まぁそうにゃのだろうにゃ』
猫はそりゃあそうだろう。と言うように答える。 そこに少し違和感を覚えるが、気にし過ぎだとすぐに改める。
ようやく頂上だ。
頂上にはまたしても、堂々と大きな鳥居。そして奥には古い社殿がある。 立派と言う訳では無い。 どちらかと言うと小さく感じる。
「!!!」
私の視界の左側に何やら理解できないものが立っていた。なんだろうあれ。 3〜4メートルくらいはあろうかと言う大きな柱?のようなもの。 石……というよりは金属のようにみえる。 どちらにせよこのような神社には似つかわしくない佇まいだ。 というか以前このようなもの不自然なものは無かった。
『お前……』
「え?」
『それもそうか。そうかそうか。いやいやそうだにゃ。』
「え?なに?どうしたの?」
『いやいや、気にするにゃ。 んでそこのそれ、見えるのだろう。お前には。 まあ、アレも気にするにゃ。今は近寄らんでおくにゃ』
「気にするなって……物凄く気になるんだけど」
『まあ、そのうちにゃ。 今はまだその時ではにゃいと言う事にゃ』
こうなったら猫は口を割らない。教えてくれない。 チュールをあげてもダメなのだろうか? とは言え、これもまた不自然な事なのだけれども、少なからずこんな物があるのならかなり話題になっていてもおかしく無いのに、話すら聞いた事がない。不思議だ。
そんなことを思っていると、猫が心を読んだかのように口を開く。
『これはニンゲンにゃあ見えにゃい。 ボクがそうにゃらにゃいように結界を張ったにゃん。お前が見えるとは思わにゃかったんだけど、考えてみれば今とにゃっては、まあ完全ではにゃいにしろお前はボクでボクはお前……にゃ。見えても不思議ではにゃいにゃ』
「はにゃ?どゆこと?」
『話しても理解できにゃいさ。人智を超えている。 さ、もう用は済んだ。帰るにゃ』
「え? 用が済んだって、まだ何もしてないよね?」
『いやぁもういいにゃん。お前にも来たるべき時には教えるにゃん。今はまだ何も考えるにゃ。』
「……わかったよ」
帰り際、銀色の不思議な柱は光っていた。
*
私は考えるのをやめた。 猫がそう言うのだからそう言うことだろう。 今は私にとっては不要な事なのだろう。 興味はある。 正直あのような不思議なものには何となく心奪われる。 だがしかし、触らぬ神に祟り無し。 私は普通でいいのだ。普通に過ごして居られればそれでいいのだ。
あれから2日経った。アレを目撃してから2日。 猫は語る事なくいつも通りだ。 もちろん私も聞くことも無く、日常を過ごしている。
「猫ちゃんただいまー!」
返事がない。
「猫ちゃん?」
返事がない。……屍もない。
おかしい。こんな事は一度もなかった。 とは言えまだまだ短い付き合いだ。 こんな事もあるのだろう。あるとは思うのだけど嫌な予感がする。私の第六感がざわつく。
脳裏に浮かぶのはやはりあの神社。あの正体不明だ。 そう思うと居ても立っても居られない。 こうなった時の私の行動は速いものだ。いつもは優柔不断なのだが即決即断を発揮する。
速攻で家を出て、私はあの石の階段を駆け上がる。 一人では来たくない場所なのだけれどそんな事は言ってられない。 考えられない。 嫌な予感がより一層私を包む。 その度に私は逆らうように足を前に出す。 予感を否定するように足を前に出す。
大きな鳥居の先。 居る。 間違いなくアレが有り。 猫が居る。 確かに居るのだが様子がおかしい。
「ね、猫ちゃん? ……猫ちゃん! 猫ちゃん」
無意識だった。 私の目に映ったのはグッタリしている猫。 圧倒的な存在感を出すアレの前で倒れている猫が、そこには居た。 何故? どうして? なにがあったの? 頭の中がグルグルしたと思ったら、途端に何も考えられなくなり。 私は無意識的に駆け寄った。
そして……。
私は倒れた。