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御伽猫  作者: うるばっきー
6/9

君のにゃは?



 とても気持ちの良い朝だった。いや、少し暑いくらいか……。そういえば7月も後半戦に差し掛かって来たんだった。 大人になると月日が過ぎ去っていくのが物凄く早く感じる。




 そう。私はもう大人……。気持ち的にも精神的にも、とても胸を張って、決して張り詰めているとは言えないこの胸を、それでも頑張って張ってはみても、私はまだまだ子供だ。 年齢に精神がついて行けていない。




 季節も小暑。鷹乃学習。 



 鷹のヒナもこの頃には、独り立ちの準備として、飛び方とか狩りの仕方を覚え始めるらしいのだけど、私はまだまだ爪を隠しっぱなしである。 と言っても、能があるとも思えない。隠す以前に、もともと爪は無いのかもしれない。……そう。無かったんだ。









『ーーーーおい』





『おい。ニンゲン。……起きろ』




 黒い物体が声をかけて来る。 最近じゃ毎朝の恒例だ。 この行事にもすっかり慣れてしまった。 慣れというのは感覚を麻痺させる。




「ん、おはよう。猫ちゃん」




 一応返事はするのだが、私はまだまだ起きる気はない。 ……起きたくない。 今日はお休みなのだ。 私は朝が苦手だ。 私は寝るのが好きだ。 大好きだ! ……起きるのは嫌いだ。




『おい! いい加減に起きるにゃ。 早くアレを出すにゃん。』




 顔の上に乗って来たところで、私は寝続ける事を諦める。 夢の中から現実へ。 現実といっても猫が喋るこの状況。 本当に現実なのだろうか?……と今でも少しは思う。




「はいはい。おはよー。おはようございますって。」




 私はとりあえず服を着る。これも毎日の日課だ。 起きて服を着るところからのスタートである。 せっかく買った可愛い寝巻きも、朝になれば下着まで含め全て布団の周りに散らばっているのだから不思議だ。 妖怪の仕業だろうか?




『服にゃんて良いから早くして欲しいにゃん』




「はいはい。」



 とりあえずパンツだけ履いたところで私はチュールをあげる。 お腹が空いているんだもんね。待たせてごめんね。 と言っても食べようと思えばこの猫なら勝手に食べれるとは思うんだけど、そこは知性がある分、猫ちゃんなりに弁えてるのかな。 そう思えば良好な関係を築けていると言えそうだ。 それにしても相変わらず可愛いなぁ。




「ねぇ、猫ちゃん。今更だけど猫ちゃん名前とかあるの? 無いなら私が付けてあげる」




『にゃまえ? お前はボクのことをネコちゃんって呼ぶだろう? それがにゃまえにゃのだろう?』




「いや、それはそうなんだけど、確かにそう呼んではいるのだけれど、そうではないでしょう?」




『めんどくさいにゃあ。 そんなのにゃんでもいいにゃん。 にゃんか意味があるのかにゃ?』




「意味って……。 いや、あるでしょ?色々と。 」




『ニンゲンはそういうの好きだよにゃあ。 にゃまえにゃど容易く変化し得るモノだと言うのに』




「確かに、世の中にはそういう場合もあるんだよね。 そこにも色々な事情とか理由とかがあるみたいだけど。……だけどここは、私と猫ちゃんの友情の……愛の証として……」




『そうか。ではボクもお前のにゃまえを付けてやる。お前はニンゲンにゃ。』




「いやいやニンゲンって……。なのね。私にはちゃんとタチモリ シオリって名前があります! 漢字は……日月地に落ちずの日に月で、たちもりとよんで、本とかに挟む栞で、日月 栞だよ。」




『大層にゃにゃまえにゃ』




『ま、まぁ……確かに。でもお父さんとお母さんがちゃんと考えて付けてくれたんだよー。まあ、今の私は栞と呼べるほど何の目印にもなれてないし、地に堕ちないと言うか、地に足が付いていないと言えるんだけどね。正義感がある訳でも無いし……。』




『ふーん。じゃあボクもそれで良いにゃ』




『じゃあって……。そんなのダメに決まってるでしょう。 ちゃんと私が付けるんだから』




『にゃらば早くつけるにゃ』




「名は体を表すって言うじゃない。 大事なんだよ。名前は」




『体がにゃを印象付けると言った方がしっくり来るけどにゃ。 いやこの場合、体と言うより態かにゃ。 憧れの人のにゃまえはかっこよく見えたり、その逆も然り……。 まぁ所詮その程度のものにゃんだろう。』




 猫はドライだ。今日は特にドライかもしれない。 ドライって名前をつけちゃうぞ。……猫だけに!!  猫だけにドラい……。うふふ。





『……ちゃんと考えてから決めるもん。』










 夕方になり、外も少し涼しくなった頃を見計らって私と猫は散歩に出かけた。 特に当てもなく、ご近所巡りと言ったところだ。




『おい。ニンゲン。 どこへいくのかにゃ?』



「栞ですって!」





このやりとりは未だ堂々巡りだ。




「まぁ、当てとかは無いんだけどね。散歩だよさんぽ。 猫は散歩好きなんでしょう?」




『好きか嫌いかはわからにゃい。 お前の感覚次第にゃん。 前も言ったにゃ。基本的にはだが、ボクはお前次第だと。』




「ああ……。 んーまだなんかよくわからないけど、それってつまり、猫ちゃんは私の事が大好き。私にメロメロって私が思えば、都合よくそういう事になるってことなの?」






『…………』





 猫は答えない。




「ん。まーいいや! そのへん考えてもよくわからないし。今はお散歩を楽しんじゃおう。猫ちゃんはどこか行きたいところあるかな?」




『別ににゃいんだけど、まぁ、そうにゃあ。……あそこがいいにゃ。着いてくるにゃん』




 私はルンルンで猫についていく。 今から思うと、ここで目的地を猫に委ねたのが私の物語の分岐点だったのかもしれない。




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