ワンルームとねこ
『ほら、お前。何をもたついておる。まさかこの場面でこのタイミングで、鍵を無くした訳でもあるまい』
玄関の前まで来て、戸惑う私。
歩いているうちに少しばかり冷静になり、この猫ちゃん、もしかして妖怪か何かの類ではないか? などと思考を巡らせていた。
それもそうだ。 実際に言葉を口にしている。ただ口にしているだけではない。 話している。私に話しかけて来ている。 その現実がどうにも受け入れ難い。 こんな事はアニメとか漫画とか。そういうものでしか見た事がない。
「ね、ねえ……猫ちゃん。 私を……いや。猫ちゃんは、その……本当に猫ちゃんなの? もしかして……妖怪さん……とか?」
私を食べたりしないよね?と言いかけて、それは流石に怖くなりやめた。 恐る恐るだが、妖怪なのか、これを聞くのが限界だった。 正直ビビるよ……実際。
『んにぁあ。 さっきも言っただろう? お前がネコだと思えばネコにゃんだし。 そのヨウカイだと思えばヨウカイにゃんじゃにゃいか? そんな事ボクにとってはどうでもいい事にゃ。 ……別に食ったりはしにゃいよ。まずそうだし。』
相変わらず言っている意味はよくわからないのだが、どうやら妖怪ではないらしい。たぶん。きっと。口ぶりからしてよくわからなかったが、きっと妖怪では無いのだと思うようにした。 ……ビビるからね。 とりあえずは食べないと言質をとれた事に安心した。 安堵した。 言わずとも答えてくれた猫ちゃんに、優しい猫なのかな?なんて思った。
……私、顔に出ちゃってたかな?
まあ、こんなところで猫と話してるところなんて近所の人に見られる訳にもいかないか。
私は部屋を開ける事にした。ちょろいな。私。
部屋の中はというと、女の子女の子している部屋という感じではない。 綺麗にはしてあるが、決してエロエロ〜だったり、可愛い〜感じだったり、世の男の子たちが想像を膨らませている様な部屋ではないと思う。
ミニマリストを思わせる様な感じの部屋だ。私自身、ミニマリストという訳ではないのだか、あまり家具とか小物を置いている訳ではない。 よく言えばすっきりとした部屋。清潔感のある部屋と言ったところだ。
『にゃあ、お前も早く入れよ』
ドアを開けた瞬間ぬるりと部屋の中に入り込んだ。
なんて太々しい猫だ。 私の部屋だよ? 私のテリトリーなんだよ? 普通ずかずかと私よりも先に勝手に入る? とは思ったか、まあ猫はそんなものか。となぜか腑に落ちた。納得した。
「はいはい。いらっしゃい猫ちゃん。何もないけどゆっくりしていってね」
しばらく部屋中をウロウロしたあと、ベッドの上に座り込む猫。 特に何も言わずじっと私を観察し始めた。
その姿だけ見ていたらこの猫はとても可愛い。 物凄く愛くるしい。 実は私は猫が大好きだったりするのだ。 いや、犬も好きだし、きっと動物全般好きなのだけれど。
触りたい。
撫でまわしたい。
モフモフしたい。
ああ、顔を埋めてモフモフしたい。
目まぐるしく激しく押し寄せる欲求をどうにか抑え、私は色々と尋ねてみる事にした。 この愛くるしさのおかげか次第に恐怖心は無くなっていた。
「ねえ猫ちゃん。 あなたどこから来たの?」
『どこからってそりゃあ…』
と言いながら手を上に上げる猫。肉球全開である。 可愛い。 指を刺すみたいにして、肉球から爪が出てる。可愛すぎて話などよくわからない。
「ふ、ふーん。 お空かな? すごいね」
「あのさあのさ、歳は?歳はいくつなの?」
『さあにゃあ』
「男の子…かな? でも…、あ!女の子だよね?そうだよね?」
『性別ってやつかにゃ? ボクはそんにゃの興味にゃいよ。どっちだっていいんじゃにゃいのか?』
「えーー。なんか全然答えてくれないのね」
『お前の質問が悪いんだろう。 あまり低俗にゃ質問をするようにゃらボクはもう眠るにゃ。今回は力を相当使ってしまったからにゃあ。すこし回復させてもらうにゃ』
「そうかなぁ。」
私にとっては結構興味のある事ばかりなのだ。 それもそうだろう。 なんせ喋る猫だ。稀にみない。というよりこんな稀があってたまるか。
ーーーーん?
「ところで猫ちゃん。 今回ってなに? その……力って? その喋る力の事とかかな?」
猫は答えなかった。 寝てしまったのか、本当に相当疲れているようだ。
そういえば私もバイトから帰って来たばかりだった。 衝撃的過ぎて忘れていたが、私も今日は結構疲れていたのだ。
さて、お風呂にでも入るか。
私は猫の前だというのに、恥ずかしげもなく服を脱ぐ。
裸体を晒す。
まぁ、猫の前だしね。