逃げられない僕
気がつくと、何らかの機械工場の中にいる。
レーンの上を、モノが流れていく。作業員はおらず、ただずっと、定速で、レーンが回っている。
いくつかのプレス機に潰されていくそれら。
そして僕は、僕は――レーンの上にいる!?
身じろぐも、何かに拘束されていて動けない。
このままじゃだめだ、このままじゃプレス機に――。
はっと気がつく。そうだ、夢だったんだ。
僕は工場になんか――いる。
さっき見た光景。レーンの上をモノが、僕らが、流れていく。
何も変わっていない。だがさっき目の前に見えたプレス機は、少し遠くにある。
図らずも余裕が増えた。
増えたらどうする。考えなきゃ。
この時間を利用して、どうすれば抜け出せるのか考えなきゃ。
プレス機に潰される前に少し間がある。
どうやら機械に問題を出されているようだ。
どのような問題かわからない・・・いや、聞き取れてはいる。僕が焦っていて、頭が回らないんだ。
間違えた答えをすると潰される。正解を出せばいいのか。
だが目の前で潰されていくモノたちの様子を見るに、正解は出ていないようだ。
つまり、全部潰されている。
ぐしゃっと飛び散る何か。
それは考えないようにしよう。無駄な時間だ。
果たして僕にはこたえられるのか?
いや、それも考えなくていい。正解は何かだけを考えろ。
聞き取れ。聞き取れ。答えを考えろ。
駄目だ、もう時間がない――。
目覚めた。
いや、まただ。
またプレス機から遠ざかっただけだ。この工場からは出られない。
レーンの上で拘束されているのも変わらない。
今度こそ、聞き取れ、考えろ。
ぎゅっと目を閉じ、耳を澄ます。理解しろ。理解しろ。
と、風が吹く。
風?
外だ。外にいる。拘束もない。
自由だ。おそらく。
どうすればいい。何が求められている?
いや、何も求められてはいない。
ただ放り出されただけだ。当てなどない。
理解できない。なぜ僕は出られたのか。
もしかしたら答えを引き当てたのかもしれない。
だがそのときの記憶はない。
時間的に、潰されていてもいいはずだが潰されていない。
そう、それが解放されたという証拠。
動ける。
恐怖で足が震えているが、何とか。
一歩、一歩と。歩いているとは到底言えないが、確実に進めている。
なぜ僕は崩れ落ちない。
脚に必要な力は入っているのかもしれない。感じられないだけで。
前を見よう。歩けていることは確認できた。
一応発展している街だ。
僕が知っている範囲では、都市というほどではない。
しかし、物はある。建物、工作物・・・。
人は――ひとりいる。向こうのほうに。女性だ。
その人しか見つからない。逃がせない。
話を聞きたい。
足がもつれる。そこまで歩いて行けないかもしれない。
「あの・・・」
ひどい掠れ声。届け。
彼女が振り向く。聞こえたのか、こんな声で。
「私の中には爆弾がある」
は?
彼女は確かにそう言った。
なぜ、どうして。
思考がうまく回らない。
ナカニバクダン?
どういうこと?
もしかして、彼女も自由ではない?
僕と同じように。
「リミットが来たら爆発する。来ないで」
拒絶の言葉だ。しかし優しさでもある。
間違いないことは、彼女に助けてもらうことはできない。
少しの時間一緒にいることさえ不可能だ。
なぜなら爆発するから。
逃げるものが増えただけだ。
一番逃げたいものはこの世界だというのに、僕は何からも逃げられないのか。
自由になんて、なっていなかった。一瞬感じたようなそれは、幻想だった。