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反逆のロッテ  作者: ドロガメ
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王様、逮捕される。

 王様、逮捕される



 王位を譲り渡し、旧領地の一部だけの面倒を見る気楽なはずのジークハルトだったが、気がかりな事が一つあった。

 其れは、5年前に新しく王位に就いた息子のデュークの事だ。表立っては、沼地を開拓し、新王都を順調に開拓しながら広げ、上手くいっているように見える。

 その進捗のスピードが速すぎる事が、ジークは気に入らない。

 管理の届かない新王都側の帳簿を、確認したわけではないのだが毎年の税収に突出した年もなく、毎年の公費には、限りがある事は長年の経験で分かっているつもりだ。

 立派な王宮の荘厳さが、河を挟んで此方からも伺える。

 そんな建築物が、日を追うごとに増えていく。


(そのような金が、何処にあるというのだ? 建国して歴史もない此の小国が、派手なお城を見せつける様に、権威で民を圧するなど必要ないではないか?)


 新王都を構成する民の移動にも問題を感じる。

 いくら手狭な旧王都とはいえ、まだまだ領民は此方側の山間に、へばりつく様に多くの民が暮らしている。

 その中には、昔からの大店を持つ豪商も多い。

 それが、本店ごとごっそりと川向こうへと移転してしまったという話も聞いた。


(こちらにも、多くの民が残っておるのだ。本店を残しつつ。支店を川向こうへと移し、様子を見ながら人の移りと共に、その規模を少しづつ移していけばよいではないか?)


 暮らしにくくなったと言う愚痴もちらほらと聞こえてくる。


(すべてが、早急すぎる。まるで、此の旧領都の力を奪おうとするみたいじゃないか)


 陳情の内容にも見過ごせない事まで、増えている。


(川向こうの街の様子、金の流れ、新王デュークの様子など見てこぬとならんな)


「ヨハンスク! 出かけるぞ」


 ジークハルトは、宰相のヨハンスクに準備をさせ、二人の護衛を伴い馬車の人となった。


 広大なロレーヌ河の中州に広がる新しい街並み。

 たっぷりの道幅を取り、新しい石畳がふんだんに使われている。

 彼方此方に建物も新しく、新王都の勢いを感じられる。

 しかしその表情は、何かに追い立てられる様に、険しく忙しなく歩いている。

 行き交う人の数も多く、自分の治める山間の都が、静かに廃れ行く廃村にでもなるような危惧さえ覚える。



「気を付けろ! ジジイっ」


 馬車の外からの怒号に思わず眼を向けた。

 急ぐ商人風の若い男とぶつかった老人が道に倒れている。

 男は、ぶつかった事を謝るどころか、罵声を浴びせ、老人を助け起こすこともなく行ってしまった。


 (とも)の騎士の一人が、駆けてゆくと助け起こした。

 事情を聴いているようだったが、老人も相手が貴族と分ると、頭を何度も下げると行ってしまった。


(大分、貴族は嫌われておるの)


 ジークハルトのしわが深まる。

 街角の辻毎に、衛兵の姿もちらほらと見える。

 自分の治めるのんびりとした旧王都と比べると随分張り詰めた空気を感じる。

 人は多いが皆自分の事で忙しく、殺伐とした印象をジークハルトは受けた。


 馬車は、新しい王宮へと入っていく。

 市街地と離れ、湿地の理を生かし、堀に囲まれ、高い塀を有する。

 跳ね橋を渡る。


(この平穏な世の中にあって、この様な厳めしい高い塀など必要な物だろうか?)


(息子デュークよ、何に対してその身を守ろうとしておるのだ?)


 廊下へと共の騎士を残すと、ヨハンと共に新王の私室へと招き入れられた。


 其処には、即位して僅か5年というのに、ふてぶてしく威厳だけを増長させた息子のデュークが、豪奢な衣装に身を包み待ち構えていた。


「父上、眼と鼻の先の川向こうとはいえ、大変ご無沙汰いたしております。

 なにせ、未熟者ゆえに、新しい都作りからの仕事の謀殺に塗れておりますゆえ、ご理解のほどを。父上に置かれましては、何よりもご健康そうで嬉しく思います」


「さて、このような場へ足をお運びくださるとは、いったいなに用でございましょう。」


 デューク王のバカ丁寧な形式ばった挨拶とは裏腹に、その眼は疑いの眼差(まなざし)しに(まみ)(やみ)が差している。

 父親を、迎え入れる歓迎の心根が少しも感じられない。


(デューク、僅かに見ぬ間に何が有ったのじゃ。これではまるで別人ではないか)


 眼の前の男からは、ジークハルトの周りに展開する探索の魔法には敵対の意思が赤く点滅していた。


「うむ、新しい都もなかなかの賑わいを見せて上々であるな。僅か5.6年という間にあの荒れ地だったモノが見違えるようじゃ」


「見事な街へと成長を見せるのは、喜ばしいかぎりじゃな」


「此の王宮も、見事な造りと装飾を施され威厳ある造り、たいそうな物ヨ」


 此処までくると、ジークハルトも遠慮なく言葉に混ぜる。


「ちと、金が掛かり過ぎておるのではないか?」


 ジークハルトは、探る様にデュークを見るが、その眼はまるで死んだ魚の眼のように感情を示さない。


「なにを、おっしゃいますか。王の威厳を見せつけてこそ、圧倒的な力がそこにある事と知らしめるのです。(あらが)う事など無駄だと知らしめる事こそ、無駄な争いをなくし、従順な国の民となるのではないですか。」


「志井の者どもに、我ら為政者の力を見せつける事も仕事の一つにございます」


 そう言って、デュークは席を立つと窓辺へと足を運んだ。


「ごらんください。此のとおり我に付き従ってくれる商人どもはその財力で、惜しみなく都造りを後押ししてくれています。発展に力を貸してくれているのです」


「我に付き従う商人どもは大きく取り上げ、仕事を増やし、実に活況に此の都の発展に尽くしてくれています。それに伴い税収も増える。領主が潤うという事は、付き従う者共も共に潤うのです。」


 ジークハルトの眉間のしわも深くなる。


(そのように、一部の商人だけを優遇しては、他の民の生活も成り立たぬであろうに、国の政策に関わる仕事など、民の一人一人に行き渡るくらいの配慮がいるとは思わぬか?)


「有力な商人を、強引な手法で誘致しておると言う話もあるようだが。その事はどうだ。」


 新王デュークの眉の周りがピクリと上がる。


(口うるさい爺さんめ! 色々とかぎつけているらしいな)


 この時のデュークは、既に昔のジークハルトの息子ではなくなっていた。



 遠く、暗い闇の新淵に生まれたばかりの魔王。

 魔王としての力を得るには、まだまだ時間がかかる。

 魔王の側近の一人、艶めかしい容姿のエルノバは、勇者が起こしたこの国へ商人の姿で現れた。


 魔王が膨大な力を手にするその時までに、邪魔な存在となる者どもの力を抑え、かっての勇者が起こしたこの国の弱体化を図る為に、デュークの前へと現れた。

 都造りに賑わいの欲しい新王デュークも大店を構えるという大商人が来てくれる事に大いに喜ぶ。

 かの国での大商人の偽名を使い、近づきの印と大金を送り近づいた。

 何よりも、その艶めかしい容姿は、若いデュークを引き付ける。

 瞬く間に床を共にする間柄になり、其の思念に意識は取り込まれ、傀儡の存在となりつつあった。


 そんな目の前の息子のデューク王は、赤く点滅してジークの探索に掛かっている。

 戦で、敵対していた魔族のように。

 お互いの腹を探りつつ、疑心暗鬼の応答が続く。

 尊大な態度を見せるとデュークは笑いだした。


「他国からの大商人さえ、我が新王都の栄にあやかろうと押し寄せてございます。この広い中洲の土地さえ、奪い合って入札の値段の上がるばかりに人気が有るのですよ? わざわざ不当な手段まで用いての勧誘などあるはずもございません。」


(ほう、よほど口封じの(とが)めを厳しくやっておる様じゃな)


 傍らのヨハンスクに目配せをする。


「ほう、其れは喜ばしいではないか? この新しい都の盛栄が儂の領地にも回る事を期待したい。 デュークよ、その他国からの商人たちのリストをヨハンスクにも見せてやれ。 旧王都との取引にも興味を見せるとも限らんからな」


 もちろん、魔族エルノバの装う大商人は存在しない。

 他国の大抵の名の通った商人なれば、宰相のヨハンスクならば大抵の者は知っている。偽証の戯言など判断できる。


「わはははっははははははっ!」


 いきなりデューク王が、笑いだした。


「どうやら、父上もお年を召されたご様子。大商人との契約など、その繋がりは金そのもの、繋がりに漕ぎつける事こそがどれほどの仕事か。」


「体を張って武勇の名を知らしめた父上には、其れが判りかねますか? それを簡単にお渡しするわけには、いきませんな。」


 デュークは、魔族との繋がりが露呈する事を恐れて言葉を濁す。


「其れよりも父上、折角いらしたのですから、(うたげ)の準備が整ってございます。父上の希望される書類は、後に精査いたしましてヨハンスクに渡しましょう。」


「ささっ どうぞ」


「おい! 父上をお部屋に御連れしろ」


 その声と同時に執事だけでなく城の衛兵もなだれ込んできた。

 ジークハルトは、此処で暴れて脱出する事も造作ないと考える。

 しかし、事を荒立てるには、物証に乏しく様子を見る事として神妙に付き従って部屋を出た。


 ジークハルトの供の衛兵とヨハンスクは、親子水入らずの歓待をするゆえにジーク王は、此のまま一晩留まると言って返される。

 衛兵の一人が食い下がるも、子であり、この国の王の言葉が信用成らぬかと逆に脅され衛兵共々、ジークハルトを残し、旧王都へと返されてしまった。



「ふむ、牢屋にしては豪勢なつくりよ。何も知らなければ、喜んで幾日もとどまりたいものよな。」


 豪華な室内、贅を尽くした調度品が並び、長い食卓には、晩餐の食事がならんでいる。しかし其処には歓待する主の姿はなく、給仕一人の姿さえなかった。


 窓や、扉は豪華な造りに加え、剛健さが伺える。

 当たり前のように全ての入口が施錠されていた。

 ジークハルトは、誰もいない晩餐の席へ一人座る。


 湯気を上げる鳥のモモ焼きをおもむろに掴み取り、スンスンと匂いを嗅ぐと、毒見役も居ないというのに豪快にかぶり付いた。


「フン! 美味いではないか。」


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