表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反逆のロッテ  作者: ドロガメ
7/36

ロッテ、褒美をもらう。

 ロッテ、褒美を貰う




 ジークハルトは、光り輝く聖剣を青い空に突きあげる。

 大空を覆いつくす光のすべてが、聖剣ツナスリへと注がれるように錯覚し気持ちが溢れる。

 輝く剣身は若き自身を眺める様に心が躍る。


 ふと足元を見ると、地べたをはい回りながら、二つに分かれた石を拾う娘の姿が目に入った。

 せっかく集めていた石ころをジークが切り捨ててしまったものだった。

 よだれを垂らし、反笑いしながら拾う娘。

 眼の焦点が虚ろな事が気にかかる。


(むっ これは、自分の聖剣の復活に溺れて、娘の集めていた石を台無しにしてしまったようじゃ。済まない事をしてしまった)


 全くの逆である。

 苦労して加工するギザ砥石が、無数に転がっているのである。

 ロッテにしてみれば小遣いの銅銭が、河原に散らばっているに等しかった。



(オウッ そうであった! そもそも褒美を与える為に付いて来たのであったな。え~と銀貨二枚(2000リダ)と金貨十枚(百万リダ)、いやツナスリの復活に関与したことを踏まえれば更に金貨十枚の恩賞を考えねばならんな。…ふむ)


(だが、儂もこ奴に群がる魔物を退治した。此れは二回の魔物退治の報酬として、こ奴から銀貨二枚は貰わねばならんな。よって差し引き、褒美の金子は金貨二十枚(二百万リダ)とする)




 集めたギザ砥石で、ロッテの小さなポケットは、いっぱいになった。

 それでも欲張っては胸に抱える。

 2.3歩、歩くだけでぽろぽろと其の腕の中からこぼれ落ちてしまう。


 ジークハルトからすれば、そんな石ころを大事に持ち帰ろうとするロッテの気持ちなどサラサラ解らない。


(うーむっ 此れでは、大金の金貨20枚を石ころと一緒にポケットに入れるなど危なくて仕方がないのう…)


童女(わらし)、その石ころ、すべて持ち帰るつもりか? よほど大事に見えるが」


「うん! 此れがあたしの商売なんだ! オッチャン、あっいや騎士様! ありがとよ」


 ジークハルトは、タスキに掛けたマジックバックを見る。

 パーティーで使っていた此のマジックバックは、何時も魔女ジョシコーセイが管理していたモノだ。

 突然の物入りや旅費などかかる費用に糸目は付けない為に、国庫の一部と言えるほどの大金が何時でも入っている。

 バックの中に手を入れると納まっている品物の数々の詳細が頭に浮かんできた。


(うむ? 何だ此れは? バックの中にもう一つのマジックバック?が入っておるぞ)


 金貨の詰まった革袋と共に、小さなポシェットの様なマジックバックを取り出した。

 長いうさ耳、白いふわふわとしたウサギの顔をモチーフとしたポシェット。

 たすき掛けに使える様に長い革のベルトが付いている。


(これは懐かしい、魔女殿の使っていたマジックバックではないか。置いて行ってくれたようじゃな。)


「…ふむ、まぁいいか」


「童女! 此れをお前にやろう。儂の遊びに付き合ってくれた礼じゃ。受け取るがよい。」


「その石ころも、此れに入れると良い」


 現代地球で、小学生が身に付ける様な可愛らしいポシェット。

 それを、人を何人も殺していそうな怪人が童女に手渡した。


(えっ 貰っていいの? あたしにくれるの?)


 可愛らしいポシェットに眼を引かれる、手渡してくる黒い騎士と交互に見る。

 ウソではないかと騎士を見る。

 渡されたことが夢ではないかと手元の白いバックを見つめた。

 生まれてこの方、このような上等の贈り物など初めてのロッテだ。


「おっちゃん、ありがとう! ホントに貰っていいの?」


「ああ、大事に使え」


 両手で抱える小さなポシェット。


(ちいさなバッグだねえ、手に持つよりは、よっぽどいいや。三つ、いやよっつは、入るかな? やほっ♡)


 ウサギの鼻の形をした留め金を外し、顔をデザインした被せを開いた。

 ちいさなポシェットの縫い目のある底が見え、何も入ってはいない。

 ロッテは、一つギザ石を入れる。


 消えた。


 吸い込まれるように消えて無くなってしまった。


(えっ? あれっ? 入れたよネ、ハハハハッ…………?)


 訳が分からず、もう一つ入れてみる。

 消える。

 バッグの底に吸い込まれるように消えていくのを、今度ははっきりと見た。

 ウサギのバッグを見る、そして其のロッテを見ながらニヤリと笑う(おとこ)を見た。


「おっちゃん! 何か変だよ! いれた石が消えてしまうよ~。」


 すっかり騎士様の呼び方からオッチャンへと気安くなったロッテ。

 慌てた様にまくし立てる。


 ジークハルトは、思い描いていたような反応をするロッテを楽しむように笑う。


「無くなってはいないぞ。確かにその中に入っているのだぞ。今入れた物を思いながら手を差し入れてみよ。」


 その言葉に従う。

 石の感触と共に品物の映像が浮かび上がり、掴みだしたのは、今入れたばかりのギザ砥石だった。


「なっ!」とジークハルト


「えっ!」とロッテ


「だろっ!」と悪戯っぽくジークハルトが返した。


「そのバッグは、マジックバッグと言って魔法のバッグだ。限界は有るが見た目以上に収納が出来る。その大きさ以上の品物も収納できるぞ。」


「被せを開ける必要もない。 何処でも手で触り、要れるものを見ては、『収納」と唱えよ。」


 ジークハルトが、肩ひもを触りその言葉を唱えると近くに転がる流木が消えてしまった。


 出すときは、『放出』だ。

 ジークハルトが言った途端に消えた流木が現れる。


「アワワワッ」


 転がり出た流木に、眼を見張るロッテ。


「盗みには、決して使ってはならんぞ! 見つかれば死罪だからな。盗みに使ったならば直ぐに判るのだからな!」


 脅す様に念を押す。


「人目のある所でも出し入れは良くない。目を付けられ盗まれるぞ。気を付けて大事に使え。」


 見た目の可愛らしさとは裏腹に、扱いに気を使う大事なものだとロッテも胆に銘じた。

 ジークハルトが、切り飛ばしまくったギザ砥石は、店で売りつくすにも半年はかかるだろう。

 すべてを拾い、うさ耳ポシェットに入れ終わると立ち上がった。


(さて、肝心の褒美の渡し方だが、どうしたものか?)


(此の世間知らずな童女(わらし)に一度に金貨二十枚など渡してしまっては、すぐに周りにたかられ奪われるか、金の価値も分からず大損をするのが目に見えておる)


(おおっ! そうだ。こういう時こそ、槍のドゥランスクではないか?)


 ジークハルトは、とりあえず金貨一枚分(10万リダ)を小金貨九枚に銀貨八枚、銅貨二十枚と随分細かく分けて取り出した。


「娘! よく聞け! この度は、理由は申さぬが、お前の働きが此の儂の為に、随分と役立つモノであった。 よって褒美をお前に遣わすものとする。」


「金貨一枚にあたる褒美とする! 受け取るがよい」


 ジークハルトの大きな片手の上に山盛りとなった金銀銅の硬貨が差し出された。

 ロッテは、なぜ大金をくれるのか訳が分からない。

 だが手の平の大金が、自分が普段に働いていては手にできないほどの大金という事は理解できる。


(わわわっ! 銅貨が数えきれないほどたくさん! それに銀貨。お店でたまに預かる小金貨までこんなに沢山!!)


 最近、ギザ砥石を売って、銅貨を得る事が、最大の楽しみになっているロッテだ。


(くっ! くれると言うのなら貰っておくよ! あたしのした事の何が気に入って貰えたのか知らないけど。此処は…騎士様の気が変らないうちに…)


 ポシェットの被りを開けると、ジークハルトがジャラジャラと硬貨の山を放り込んでくれた。

 ロッテは、ポシェットに手を入れる。

 ジャリッと手にした事もない大金の感触に有頂天になった。


「好きな物でも買って食べるがよい」


「うん!」


「これからも、儂の為におまえが働いたと判ったら、その都度に褒美をくれてやる。スラムの入口にバラックの商店があるだろう? 褒美がある時には、あの親父からお前に渡すように言っておく。何がわしの役にたったのか、考えてみよ。また褒美にありつけるように頑張ると良い。」


「話は、終わりじゃ。もう行くがいい」


 余りにも詰め込み過ぎた出来事に、心此処に在らずと言った風体で、足元のおぼつかないようにロッテは、歩きだした。


 ロッテは、手渡された金貨が、褒美の極一部だとも知らない。

 褒美の受け渡しをすっかりとスラムのドゥランスクへと丸投げしてしまったジークハルトだった。


 川沿いの小道をトコトコと歩く、暫く歩いて後ろを振り返った。

 巨人の騎士は、小さな人影になるほど離れたが、まだ見送ってくれていた。

 振り返りぺこりとお辞儀をするとまた歩き出す。


 身軽に歩くロッテだが、小さなポシェットには、半年分ものギザ砥石が、入っている。

 ポシェットに手を入れるとジャラジャラとコインの感触が夢でない事を伝えてくる。

 自然と口の端が上がってきた。片目もすぼまる。


(此のお金で、皆の分の黒パン買って帰ろっ!)


 エレナテレスの喜ぶ姿を想像する。

 口は悪いが、何時もロッテを気にかけてくれる女中仲間も喜ぶに違いない。


 足取りも軽く駆けていく。



 川面から吹き付ける風も心地いい。

 何だか小金持ちになってしまったロッテの気持ちは高揚する。

 いつも気にもしない小鳥のさえずりさえ自分を祝福しているみたいだった。


「おっちゃん! また黒パン買いに来たよ。一つおくれ!」


 帰り道のスラムの店に寄ると、手土産の黒パンをもう一つ買うことが出来た。

 両方のポケットを、ロッテの気持ちのように膨らませて店へと帰ってきた。


「???」


 店先を覗き込むように何人かの人々が覗き込んでいる。

 顔をしかめるその表情に、嫌な予感が頭をよぎる。


(何か有ったのかな?)


「いやです!! 行きたくありません。 放してください!! いやっ!」


 店の中から女の子の怯えた声がする。


「あっ! エレナ!」


 その声がエレナテレスと気が付くと同時に、店の中からエレナを引きずり出す様に役人風の三人連れが現れた。


「さあっ いくぞ! 王宮へのご奉公なんだ! 孤児院出身のお前には身に余る光栄なことと思え。」


 分かりやすい理由を言い放つと、男は嫌がるエレナを引き立てる。

 店の主も、女中頭のメリッサさえ如何していいモノか解らずオロオロとしている。

 大切なエレナが連れていかれる。

 嫌がってエレナが、泣いている。


「エレナを返せ!!」


 ロッテは、小さい体でエレナを引き立てる男にぶつかっていった。

 力いっぱいのこぶしを振り上げては、その腕を叩く。


「邪魔だ!! わっぱ! 此れは、名誉な事なんだぞ。邪魔をするなら店ごと只では済まんぞ!!」


 怒鳴りつけられ、ロッテの頬を張り飛ばされた。


 ロッテは道端に倒れ転がる、黒パンがポケットからこぼれ落ちた。


「お役人様! まだ訳も分からぬ子供の事、お許しを!!」


 メリッサが駆け寄り、役人からロッテを抱え込むように守り許しを請う。


「ロッテ! メリッサさん! 必ず戻って来るから心配しないで」


 周りへの害の及ぶことを恐れてエレナは、此処は従うことにした。

 街の人々が声も出せずに見守る中、エレナを連れた一行が去っていく。

 連れていかれるエレナの背中が儚げで小さく見える。

 いつもロッテを温かく見守ってくれる背筋の伸びた背中が、項垂れて小さくなっていく。


 エレナが連れていかれる。


「エレナーーーっ!!」


 沸き起こる怒りと悲しみで涙が溢れる。

 怒り、憎しみ、言葉で言い表せない悲しみが、複雑に絡まりあって胸元からあふれ出てくる。

 エレナを行かせたくはない。

 小さなロッテでは、力が足りなかった。

 小さなロッテは、メリッサに抱き留められながら見送る事しか出来なかった。


 役人たちが去った後に、泥水の中に踏みつけられた黒パンを、ロッテは静かに睨みつけていた。





 ※お金の単位

 小銅貨………10リダ  日本円換算(10円)

 銅貨………100リダ      (100円)

 銀貨………1000リダ       (千円)

 小金貨………10000リダ      (一万円)

 金貨………100000リダ     (十万円)


 小銅貨以下のお釣りは、現物及び雑端な小物での返品で返される。

 大金の動く時には、各豪族長および王の指輪文証入りの魔法書簡を使う。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ