美月の秘密
美月の秘密
「まったく、お前の魔法はどうなっているのよ~。こんな見た事もない美しい菓子を何処から生み出してくるのですか~?」
『もぐもぐ、ウハ~。♡』
「この様な便利な魔法を教えた覚えもないのに……大魔道師たる此のワタクシが使えなくて弟子のお前だけが使えるのは理不尽だわ~。理不尽だわ~。」
イチゴショート、チョコレートケーキ、モンブラン、フルーツタルト……エトセトラ。此方の世界ではお目にかかれない色とりどりに飾り付けられた様々な種類のケーキの入った箱がベラチラーテの傍らに置かれている。
早くも二個目のモンブランに手を伸ばすベラチラーテ。
ロッテやラルフ、アリーチェも御裾分けに与かり、初めての甘味に言葉を忘れて夢中になっている。
「あたしも知らねえよ。 これ等の菓子は、あたしの元の世界の物だよ。あたしの手に渡された『魔道具』を使えばあたしの世界から取り寄せらえるらしいんだ。」
道具の使い方は知ってはいるが、何故それらの道具がその機能を果たし、便利に作動するのかの仕組みは知らない。それらを理解するには物作りに精通し、専門的な知識を持つほんの一握りの作り手の膨大な知識を必要とする。
製品として受け取るエンドユーザ―は、ただ単にその便利さを受け取るだけで良い事を美月も知っている。
理屈など分からなくても使える物は使えばよいのだ。
(此方の世界の魔法の仕組みとも違う。あたしの世界の物理の法則とも違うとおもうな。
もっと大きな世界。………アタシらやいろんな世界を生み出した運営とも神とも知れない奴らの世界の力を感じる。奴らの法則が造りだす力であたし達は転がされている。)
(今のアタシたちには見えない、気づく事さえなく近づく事さえ許されない、未知のちからを持つ奴らの法則かもな。でも使わせて貰えるなら有難く使ってやるぜ~。)
「…ポチッとな。」
ただ、ネットを使いモノを買えば金銭の問題が発生する筈である。同様に与えられた褒美なのかメリットに対しての何某かの対価がなんであるかは、美月にも分かってはいない。いずれは何かを差し出すか、何かの仕事を引き受けるかでこれらのメリットと相殺しなければならない事も発生するのではと漠然とした考えは頭の隅に置いておくことにしたのだった。
(スマホで地球世界の品物を取り寄せられるなんて、桁違いのメリットだろう。今は其れを使える事を喜べばいいんだよ。)
手元のスマホに映る銀座の有名菓子店のホームページからロールケーキ詰め合わせセットを「買い物かご」に入れると購入を押した。
ベラチラーテの前の地面にブワーンと電子音が鈍い音をたて、オレンジの光が立ち上がる。
光の粉が舞い散り地面に落ちると、其処には購入した菓子折りの箱が現れた。
「何処の黒猫の飛脚が持って来るっちゅうねん!! まったくよお~。」
理由も法則もない、出来ることは出来てしまう。
………『ケーキ各種マイナス三万ポイント(日本円にして-3万円)分のポイントをアメリカ合衆国ニュージャージー州ドレスティンエネルギー研究所が買い取り代行し、同額の商品を美月様に配送いたしました。
送料、手続き代行料金は同研究所が負担。ポイントは引かれる事はありません。
※残ポイント99,970,000ポイント 尚、運営の考えうる貢献度により美月様の行動が評価され、ポイントとして加算される事となりました。 』
「…………うん?……なんじゃコリャ~!」
思いもかけない通知が届き、美月は固まった。
異世界にいながら、地球世界の異物が届く。スマホにその機能を見つけたとはいえ余りにも奇天烈な現象な事は解っている。さらにタダで品物が手にいる事もない事くらい、何かしらの対価を払う心積もりは出来ていたつもりでいた。
しかし、実際にそれらしい通知が届いた事に驚いている。
(なんだよ。アメリカの研究所って? 思いっきり胡散臭い? いやそれっぽい? それらしい的な名前が出てきやがったな。 ………ドレスティン? 此処が運営? あたしを異世界に放り込み、異世界との通信を可能にし、さらにどんな手口か知らねえが品物まで届ける。………いや、違うな。無理だよ。)
いきなり現れたポイントと言う制度、其れは先の戦いに関わり戦を終局へと導いた事に対しての運営側の美月への配慮でもあった。
現れた1億ポイントは運営側との取引に使える数字でもあった。
どの様な取引を受け付けるかなど知らされていない。
地球での買い物が、出来る事を見つけた事も只の偶然に過ぎない。
使えば減り、運営の思惑通りの行動を美月が起こせばポイントが加算される。
何をすれば?と言った指示強要は届いた事もない為に美月に其の真意は解らない。
只、運営の気分次第でポイントは加算されていく。
(いくらなんでも、地球の文明科学で其処までの奇天烈さはないだろう。神とも呼べる運営の奴らと繋がりを持つことが出来た。お互いに利用するに値する価値を見出して利用しあっていると考えるのが筋だろ。現実世界で物理的な行動を取れるドレスティンが運営に使われているのか?)
(ポイントとして引き換えに運営のもつ未知の力でも手に入れる為に………う~…わからねえ………
まあっ いいかっ!! アメリカのドレスさん! 買い物よろしくっと!)
なんの解決にもならない思考を美月は其処で打ち切った。
幸せそうに初めての甘味に喜ぶロッテ達の笑顔が目に入る。
(まあっ いいか。 此奴らの喜ぶ顔を見るだけでも、あたしは幸せかもな。)
石板の魔女として実体のない美月にとって、どんなに美味しそうな食べ物であっても其れは絵に描いた餅と同じ。それでもロッテ達の喜ぶ姿を見る事で、自分の中にも満足で幸せな気持ちが流れ込んできていた。
見た事もない食べ物に夢中のロッテ達を、少し遠巻きにして見守る村人たちの姿が目に入った。
「おーい! ジャオクゥにダンツ! 皆を集めろ。約束通り北の魚や乾物を出してやる。宴の準備だ~。食って踊って楽しんで死者を弔え~。」
森の獣人たちにとって見た事もないほどの大量の魚の乾物、海の幸、を積み重なるほどにドカドカと村の広場に出してやった。
イカやタコ、海老にシャケ、ロッテの小さなポシェットから溢れ出すようにして広場を埋める。
「……魚……魚だあ~~! やほ~い」
滅多にありつけないご馳走を眼にして歓声があがる。
子供が見た事もないタコに興味を持ったのか、新鮮なタコの足を掴んでは逆に吸い付かれては振り回す。
其れを見て周りの大人たちは声を出して笑っている。
陽が落ち、暗くなり始めた集落の広場には篝火が灯されると、宴の酒に酔う獣人の唄が何処からともなく聞こえてくる。
旅の途中の美月たちも、気持ちの切り替えのはやい村人たちのお陰で少しばかりの心の安らぎを感じていた。




