ベラチラーテの分け前、ロッテよだれをたらす。
ベラチラーテの分け前、ロッテよだれをたらす。
「ほお~ 何だね? 此れは?」
「お前も、おかしなモノに閉じ込められたものだねえ。」
ベラチラーテは美月の映る石板を手に取ると、ひっくり返しては不思議そうに撫で繰り回している。
石板に偽装したスマートフォンなのだが、美月の映るガラス質の画面以外はつるりとした石が其れを囲っている。
美月自体は異空間からスマホを手に持ち、その石板型のスマホに常にアクセスして、その存在を現しているのだが、其れを知るものは美月しかいない。
「ああっ まったく訳が解らねえよ。あんたに話した事もあったよな。あたしは此の世界の人間じゃねえ。あんたと知り合った頃は、まだ人としての姿を女の子の姿を持ち得ていたんだ。魔族と人族の戦を終わらせて元の世界へと帰れると思っていたんだけどな。気が付いたら誰もいない。何もない空間に放り込まれちまっているんだ。その世界と繋がっていられるのは、ベラチローテ師匠、あんたが持っているその石板だけなんだよ。落として壊すなよ。」
美月は思う。
(全く、運営の奴らの嫌がらせだ。魔王は現れなかったけれど、人族と魔族の戦いを終わらせて、人族を結果的には救ってやっただろうが! 元の世界へ帰すどころか、こんな何もない空間に押し込めやがって。もっと酷いじゃないか。…………『おーーい! 運営! 見てるんだろ———! せめて元の体を返しやがれ——!』)
美月は苛立ちながらも、心の中で自分を此の境地に追いやっている神だか何かの運営の者どもに悪態をついた。その言葉が届いているのかさえ、誰も分からないというのに。
「ところで美月。私は魔族なのだが、なにか忘れてはいないかな~。先の戦いでお前との取引で戦いに加わる事を辞めて、更にお前に魔法の手ほどきまでしたんだよねえ。その埋め合わせ、お前の言っていた『礼はする」をまだ受け取っていないんだよねえ。……ほらあれだよ!あれぇ。」
「私が手を引いた加減もあって、結局魔族の侵攻は失敗して人族の被害もすくなくて済んだんでしょ。戦の功労者とも言える此のあたしに、お前から取って置きの褒賞を貰わないとねえ。何百年も生きている私だし、お金は十分。解ってるでしょ。ホホッ。」
石板の中で美月は首を傾げる。
全くもって思い当たる節もない。
(……まずい。戦の分かれ目に成るほどの約束をしたのか? 確かにベラチローテ師匠を寝返らせ、転移したばかりのアタシに魔法まで教えてくれた。
言わば恩人だよな。……アタシが口にした事をきっかけにあたしの味方になってくれたんだろうけど。…………う~ん、思い出せない……。)
(普段は温厚そうにのんびりと見えるけど。筋を間違うととんでもないな~。)
一口に魔族と言っても姿形は個体ごとに異なり、特異な体質を持つ。
更にそれぞれに様々な能力を兼ね備えている。持ちえた能力が人族と比べると格段に高い。
自分の力に過信を持つ者たちが多いがゆえに、他との力を借りずとも狩を容易にし、農作物を器用に作り単独での生きる術を備えている者達も多いのだ。
よって社会、集団で作られる上下の関係を嫌い。単独、少数での生活を好んでこの大森林に生活している。
中には、人族の作る品々に引かれて交易をおこなう者達もいるが、大抵の魔族は孤独を愛し、密やかな暮らしをこの大森林で営んでいる。
一人一人の力は強くとも、集団で来られる数の暴力には抗えない。
今回起きたアルステリアの闇商人による人狩は初めてではない。40年前の戦にもなったきっかけにもなっていた。
身内や同胞は殺され、その体を品物のように扱う人族の商人。
数で勢いを増す人族の殺戮集団に対抗するために、ベラチローテの様な強力な魔術を使う老獪な魔族に頼み込み、それらを中心として魔族の軍閥と言うようなモノも当時出来上がった。
ベラチローテほどの力を持つ名の知れた突出した魔族は、此の魔族の世界広しと言えども僅かに四人だけしか知られていない。
体躯も見上げるほどの強靭な体を武器に肉体派の益荒男。
知識に富み知略を持って人々の思考行動を操り洗脳の力を持つ策士。
散りじりに暮らす魔族たちからも崇められ、カリスマを放ち魔族の王にとも信頼され魔族たちの信頼を得ている一族の長。
そして、長生きの末にあらゆる魔法の術を編み出し、魔法使いとしては飛びぬけた存在でもあるベラチラーテ。
何かの問題が起こると、頼み頼られて此の四人は祭り上げられ、中心とした集団ができ、即席の軍閥の様な働きをする事になる。
以前の戦の時に頼られて軍閥の中心となっていたのがベラチラーテだった。
膨大な力を持つベラチラーテだが、いたって温厚な性格ゆえに本当の所は戦など望んではいない。しかし強欲な人族の蛮行を捨て置くわけにもいかない。
元凶となるアルステリアは人族の国でも大国だった。
いくら魔法に優れた魔族の集団とはいえ圧倒的に人族の数は多い。此れを相手に戦い続け勝利できる見通しなどベラチローテにも無理な事は気が付いていた。
魔族たちの憤りを腫らし、戦の終息、落としどころとなる所を探さねばならない。
そして、アルステリアの商人達が大森林へのアクセス中継地としていた小国群、シュルツタイン領周辺の豪族たちの治める地を襲った。
美月と出会ったのはシュルツタイン領の森の中であった。
人の姿をしているモノの、此の地の者たちと風貌も違い黒目黒髪の娘。
着ている服も見た事もない姿、現実味のない異国の者であるは明白だった。
森の中とはいえ戦の緊張感さえ持ち合わせていない。自分が何処にさえいるのかさえ分からない様子だった。
「……迷い人……」 ベラチラーテの脳裏に一つの言葉が浮かぶ。
長い年月を生きるベラチラーテには、別世界から迷い込んでくる不思議な力と知識を持った人。そう言った話を耳にした事もある。其れが頭によぎったのだった。
ロッテは、いきなり現れたベラチローテと名乗る高位の魔族に困惑していた。
一瞬、膨大な魔力によって場を戦慄させたかのような空気に恐れを抱いたが、美月と親し気に話し始めた事で、取りあえずの危険はないのかと感じていた。
しかし、連れている少女は相も変わらずラルフとロッテを睨みつけている。
ロッテ達にとって頼りになるリンちゃんまで消し去っているのだ。
脅威が消え去った訳ではない。
「…美月ちゃん」
ベラチラーテの手の中の石板の中から美月が声を上げる。
「オオッと、ロッテたちを驚かせてしまったな。そんなに緊張する事もないぞ。あたしの古い知り合いだ。 此処に来た頃に、色々と世話になった。ベラチラーテだ。魔法もすごいぞ。」
「そっちの若い奴は知らないけどな。」
美月はベラチラーテとロッテを紹介する。
促されて声を掛けられたアリーチェは気まずそうにソッポをむいた。
「美月ちゃん。リンちゃんが死んじゃったよおぉ。」
眼の前で巨大なハリセンに叩きつぶされる様に消滅してしまったのだ。
幾度もロッテ達の危機を救ってくれていた仲間とも言えるリンちゃんを消し去られたというのに、美月は悠然と構えている。
「ロッテ、大丈夫だ。リンちゃんは、元々ゴブリンメイジの死骸さ。形が少々崩れただけだ。作り直すのに魔石が居るが問題ない。あたしは、優秀な死霊術師だぜ。後でもっと可愛いリンちゃんを作ってやるさ。」
その返答を聞いて疑いながらも、少しはほっとするロッテだった。
それに、少女の方はきつい眼をして見つめてくるが、ベラチラーテと紹介された魔族の女性はにこやかな笑顔も崩さずに優しそうだ。
美月との約束を催促している。ロッテも気になる所だ。
まるで思い出す素振りも見せない美月に痺れを切らしたのかベラチラーテ。
「ほら、いつかお前の世界から取り寄せたという。イチゴショートケーキとか言う御菓子ですよ~。一度アレを味わってから忘れられないのよ~。あんなケーキ、此の世界では見つからないのよ。」
目線を宙に浮かせて思い出す様に手を胸元に組むベラチラーテ。
「ほかのもっと美味しいケーキもご馳走すると言っていながら。いなくなったんじゃない。探したのよ~。」
「ああっ! ケーキ! 」
美月は、戦を終結に結び付けたベラチラーテの食い意地を思い出した。
「イチゴショート!!」




