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反逆のロッテ  作者: ドロガメ
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ロッテの戦利品

 ロッテの戦利品




「ピョンピョン! はい! ピョンピョン……」


 白い南方の装束を身に付けた商人が、首に掛けた宝石の首飾りと共に地面の上を跳ねまわっている。

 苦しそうなその表情から、決して本人の望んでの行動でないことは確かだ。


「美月ちゃん! 何だか楽しくなってきた。 はい! ピョンピョン! もっと高く。」


 ロッテが手拍子と共に囃し立てると、男の表情は更に険しさを増した。


「ウゥ 苦しい。…なぜ? わしが、こんな目に合わねばならんのだ…………」


「はい! 飛んでぇ~。 もっと高くーっ!」


 面白がって指図するロッテの言葉にふざけるな! 小娘と殺意の籠った目を向けるモノの、ムスターファの思考とは裏腹にそのだぶついた体は、汗を滴らせながらピョンピョンと飛び続ける。


 ムスターファと荷物を積んだ荷馬を捕らえた一行は、村の広場へとやって来ていた。

 石板の美月を手にリンちゃんロッテとラルフそれに村の衛兵団。

 彼らを中心に村人たちの輪が出来上がっていた。


 ぼんやりとその光景を眺めていた老婆の眼が見開かれる。


「ああぁ! あれは、あたしの息子の毛並みじゃないか!。居なくなった息子の毛並みに違いない。……アアア……」


 駆け寄ってくると、荷馬の積み荷を崩し一枚の毛皮を引っ張り出した。

 地面に積み荷が散らばる。

 それらの中に、同じように身内の特徴を見つけた村人たちが、声をあげて駆け寄ってくる。

 身内の形見を手に取ると、胸に抱きかかえては嗚咽し涙を流しはじめた。

 村人の悲しみが、伝染するかのように人々は押し黙り、広場を深い泥沼へと沈めている。

 さすがに此れを見ては、ロッテも口を紡ぐしかなかった。


 荷馬の積み荷には、この村で行方不明となっていた者達が、殺されて皮をはがされ戦利品のように積まれていたのだった。


 村の衛兵長のダンツが声を掛けてくる。

 石板の中の美月は、キツネの面をかぶり夜叉ギツネと名乗っている。


「夜叉ギツネ殿、この村の衆の悲観にくれる姿をみてくれ。ある程度の悪い予感の腹つもりはしていた。しかしこれは余りにもむごすぎる。身内が殺されて毛皮となって帰ってきたのだ。」


「我ら獣人をまるで森の獣と同様刈り取ってとうぜん。殺して商品として当然と見る人族の姿を見られたか?」


「我らは、人族からはこのように扱われておるのだ。」


「すべての人族が、このように残虐なわけではない。実際に我らと対等に交易をしてくれる人族も多い。しかしながら商業共和国アルステリアの者どもは違う。我らを攫い殺しに来る」


「奴らは悪魔だ。人の姿をした本物の悪魔たちだ。」


「村を襲った狩人どもは、あんたがたに倒され首謀者の一人も捕らえる事ができた。どれほどの感謝の言葉を並べたらよいか本当にありがとう。だが身内を毛皮に剝がされた村人の恨みは消え去ることはない。今は涙にくれ悲しみに打ちひしがれているが、人族への恨みは高まるばかりよ。」


「あんた方が捉えたその首謀者の商人を、ワシらに渡してはくれんかね? 人族の血を見ない事には村の衆の気も収まるまい。頼む。」


 その話が聞こえたのか、飛び跳ねながらムスターファが喚きちらす。

 根っからの獣人差別主義のこの男は、自分の置かれている立場さえ頭にないのか、村人たちの感情の火に油を注ぐ。


「ふん、黙れ! 獣人ふぜいが! たった今すぐにだ。此の儂を自由にしろ。アルステリアに戻ったわしの仲間が、すぐにでも軍勢を引き連れて戻って来るぞ! 助かりたくば、このワシを自由にするのだ! 話をつけてやらんでもないぞ。どうだ!!」


 思いついた大嘘で強気な態度を見せては村人を脅す。

 巧妙な口車の策略で村人たちが怯むとでも思っているのか、その脂ぎった顔に悪い笑みを浮かべている。

 周囲の憎しみを讃ええる視線さえ、其の分厚い顔の持ち主は応えていないらしい。


 周りの状況も気にする事のない高飛車な口調に美月もため息をついた。


「馬鹿な奴だ。お前一人の為に死にに戻る奴らなど居るモノか! お前の仲間だと思っている奴らも、今頃は戦利品の分け前に頭を悩ましているだろうよ。お前の取り分だったものが、増えたと喜んでな。」


「もし万に一つでも戻って来るならば好都合、二度とこのようなマネの出来ないように殲滅してやろうぞ。……いや、待つまでもない。此方から乗り込んで商人どもは皆殺しだ。村の獣人たちの遺品を取り戻してやる。」


 沈痛な面持ちで美月の言葉を聞いていた村人たちからざわめきが起こった。


「夜叉ギツネ様! お願い致します。どうか我らの仇を…………」


「せめて息子の…旦那の…亡骸もないなら…その毛皮だけでも取り戻してください…………」


 縋るような声があちら此方から上がった。


 人々の泣き声を打ち消すかのようにムスターファが怒鳴る。


「アルステリアへと乗り込んで皆殺しだと? 少しばかりの魔法の力にうぬぼれるなよ。たかが4人で何が出来る? それよりもこのワシをときはなした方が得策だぞ。」



 ボワンと煙と共にポシェットから紫の小瓶をリンちゃんが取り出した。


「ロッテ! 此れはあらゆる怪我を治せるポーションだ。此れを持て。」


 リンちゃんが石板を突き出す。


「そして、オイ商人! 名前を聞いておこうか。お前を生かして置いてやる。」


 ムスターファの顔に歓喜の表情が宿る。


「本当か? ムスターファだ! アルステリア国の大臣とも繋がりを持つ大商人ムスターファは儂の事だ。ワシと手を組めばお前たちにも儲けさせてやるぞ。どうだ!」


 美月が話に乗って来たのかと、思い違いをしたムスターファが畳みかける様に話を躍らせた。

 しかし美月からの声は低く冷たい。


「ふん、金は要らんな! 腐るほどあるからな。言った通り生かして置いてやる。」


「その前に…リンちゃん…やれ。」


 その感情

 のない声を落としたリンちゃんへの指図が、ムスタファの地獄への始まりの合図だった。


 スタスタとプラスチックの美少女仮面のお面を被った、表情の読めないメイド服がムスターファへと歩み寄る。


 ムスターファの目前へと立ち止まると「コテン」と首を傾げた。

 小柄なメイド服の様子に、ムスターファも何事だと首を傾げる。


 一瞬、二人の間に静かな時間が流れる。

 静寂に小鳥のさえずりさえ聞こえたかもしれない。


 ブワンとメイドの手に六角棒が現れると、其のだぶついた顔面めがけて横なぎに薙ぎ払ってしまった。


「へっ……! ぎゃあぁーっ コフュ コフュ コフュッ」


 ムスターファは一瞬、悲鳴を上げようとするが、其の後に続ける為の下あごを粉砕され弾き飛ばされていた。

 顔半分を血みどろに覆われ信じられないとばかりに瞬きを繰り返す。

 両手で支えようとした顎は粉砕され、そこには無かった。


「まったく、口だけは達者な大商人だな。商人ムスターファとかいったな。少しおしゃべりが過ぎた様だな」



「ロッテ、ポーション。」


「えっ あっ これね。」


 慌てて自分の役割に気が付いたロッテが、ムスターファの顔面へと紫の液体を振りかける。

「ジュワワワァー」と紫の蒸気を上げるとその煙の中に幾つもの小さな六角形の魔法陣が現れては消えていく。

 復元の術式を組み込まれた魔法陣が現れるポーション。

 其れをかけられたムスターファの顔に髭のない口元が現れた。


「ああっ ワシの顔が、顔が、元に戻っている!」


 そう言っては、出来上がったばかりの顔を両手で撫でまわす。


「嬉しそうだな。…………リンちゃん!」


 顔を触っていたその両腕が、一瞬の後に六角棒の一振りで消し飛ぶ。


「ぎゃあぁー。 今度は腕が——腕が——」


「ロッテ…」


「あっ あいよ~」


 すかさず切断された腕が戻ってきた。

 傍らでその光景に眼を丸くして見ていた男に、六角棒が手渡される。

 怪訝な顔で受け取った男もその真意をすぐにくみ取った。

 残酷な光が目に宿る。引きつる様に口角が上がると、獣人特有の鋭い牙を覗かせる。


「この野郎! 息子の仇だ。受け取りやがれ!」


 怒りの籠った一振りは、ムスターファの脇腹へと食い込みあばら骨の二三本は折れた嫌な音を響かせる。


「ぐほっ おぼぼぼぉー」


 三度目の悲鳴は声にならない呻き声をあげると、前屈みになると吐しゃ物をまきちらした。


「あー はいはい、あたしの番だね~治してあげるよ~」


 ロッテがポーションを使って全快に怪我を治すことによって、ムスターファは死ぬことも出来ず、意識を刈り取られることもなく村人の容赦のない暴力にさらされ続ける。

 六角棒が村人の手に次々と渡る。

 そのたび毎にムスターファの肉体を削りとるほどの大けがを与える。

「もうダメだ」とムスターファが、意識を失う寸前にロッテのポーションが振りかけられ、壮絶な痛みと絶望だけの暴力が延々と繰り返された。


 頃合いを見計らうと美月が声を上げた。


「ダンツ殿、村の衆、今はこの男を懲らしめるに留めたい。しばらくはこやつの命を我、夜叉キツネに預けてはもらえないか?」


「命を奪ってしまっては、こやつのしでかした獣人の命の対価とも言える毛皮を取り戻せないからな。同じようにこ奴らの仲間を探し出して傷みつけねば収まるまい。其の為にもいろいろと聞きだしたい事もある。」


「アルステリア国への潜入の手先と使うのだ。其の為の命残しておいてやろう」


 美月の中では、すでにアルステリアへと逃げたムスターファの仲間も殲滅する事に決めた様だ。

 旅の目的だった弓使いロキシーを探すことも大事だが、獣人たちに関わり手助けをした事により目的を離れ、横道にそれてしまう危惧もあった。


 しかし、ロッテに関わってくる事はすべて成り行きも大事にしたい。

 此れもキーマンとなるロッテの運命からなされる出来事ではないかと美月は考える。

 大森林のエルフ族へは会いに行く。しかしその前にやるべきことが出来てしまった。

 起こりうる全ての出来事を見逃し、捨て置いてはならないように感じている。

 ロッテに関わる小さな出来事もこれからの事柄に結びついている様に感じていた。


 物思いにふける美月へとダンツが声を掛けてくる。


「夜叉キツネどの、こ奴を成敗できぬ事は悔しいが村の衆の怒りも一通りぶつけ倒した。此処はひとつ区切りとしたい。何時までも嘆いていても死んだ者は生き返らないからな。」


「我らは我らで、生きているもの同士で前を向く。以前の生活に戻り生きて行かねばならん。夜叉キツネ殿には、改めて村からの頼みとして殺された村人達の遺品ともいえる毛皮を取りもどす事を頼みたい。報酬は我らに出来る限りのモノを出そう。」


「引き受けてくれまいか?」


 美月も「うむ」と頷くと。


「もとより。此れも我らに与えられた運命と思う。我らはアルステリアへ。導く何かはまだ解らぬが、道がアルステリアを指し示しておるわ」


「よーし、皆の衆。泣き言は此れでしまいじゃーーーッ! 村は救われた! 仇は、夜叉キツネ殿がとってくれる。気持ちを切り替えて宴を楽しもうぞ————っ!」


 元より寿命も短くさっぱりとした性格の多い獣人たち。生きる生活を精いっぱい楽しもうとする所がある。

 戦勝祝いと死んだ者達への見送りと兼ねて、酒の宴へと村の広場は変わった。


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