ロッテと魔女のデタラメな無双。
ロッテと魔女のデタラメな無双。
「えーと、魔女様? 此れは、どの様な目的で何か理由が有るので?…………」
「おっ! ラルフ、意外と似合うじゃ~ん。渋谷のハロウィーンで一緒に連れ歩いてみたいわ~。フフフッ 此のパリピめっ!」
ラルフは、何を言われているかも分からず困り顔を見せる。
長い金髪に合わせて、犬耳の付いたカチューシャを付け、その口元には犬の長い口の形をしたマスクを付けられている。
「ラルフ様っ か~わい~ 何だかあたし達と同じ。お兄ちゃんと呼ぼうかな。」
「ロッテちゃんまで、そんな事を言う。何だか恥ずかしいよ。」
少し頬を染めるロッテの言葉に、返すラルフも恥ずかし気に頬を掻く。
ラルフの獣人風の出で立ちにロッテもすっかり見惚れている。
人族の姿よりも此方の方が、獣人の血を受け継ぐロッテにも響いた様だ。
明らかにパーティーグッズを付けて、お茶らけたパリピな外国人そのモノの格好なのだが、そんな事をラルフが知る由もない。
美月は、それを満足げに眺めている。
「おっと、シッポもつけないとな。獣人たちは、大雑把な連中がほとんどだ。多少の違和感など気にもしないだろ。ラルフもこれで、立派な犬獣人に見えるぞ。」
「これから行く獣人の村は、人族にひどい目に合わされたばかりだからな。人族の姿では忌避感を持たれるだろう。商人どもと同族とみなされて、話を聞くどころかいきなり襲われるのがオチだ。それでラルフには、犬獣人の姿へと変わってもらった。村にいる間の辛抱だ。」
「……これで犬獣人ですか?……大丈夫でしょうか?……」
ラルフの心配も頷ける。
見た目が安っぽいコスプレ過ぎる。
「問題ない。コスプレ何て、この森の中、知っている奴なんていないだろ。……
多分……居ないよな……」
美月の言葉が尻すぼみに力なくなっていく。
「ロッテちゃんとリンちゃんは?」
「えへっ へんし~ん!」 「ぎぎ~ぃ!」
勢いよくポーズをとる二人。
元々が赤髪でネコっぽいロッテに、猫耳とシッポが生える。
おどけて猫の真似をしてみた。
「ニャ~オ!」
リンちゃんはと言えば、ロッテと一緒に変身のポーズを取った後、いそいそとポシェットの中からプラスチックの猫のお面を取り出した。
「ギャ~オ!」 (ニャ~オ!)
二人して招き猫のポーズで揃える。
「あははっ 僕よりひどいや。 まあいいのでは?……」
「フフフッ よし、準備は整ったな。ジャオクウゥ、村へ案内してくれ。」
「皆さん、心配なされなくても私を助けてくださったあなた方です。ましてや、狩人どもの懲らしめる助けをしてくださるのですから、村の者が無礼な態度などで迎えるはずもございません。私にお任せください。」
すっかりジャオクゥは、美月たちの力を信頼してくれたようだ。
森の中を進む一行。
オルトミムスの右手に一瞬にして半透明のオレンジ色の盾が出現する。
「カン! カン!」
飛んできた短い矢がそれに当たって弾かれた。
自動的に展開されたシールドは、もちろん美月によって常に張り巡らされている防御機能の一部だ。
ロッテの下げるポシェットから、一瞬にして飛び出してきたリンちゃんが、矢の飛んできた方向に向かって一文字手裏剣を投げつけた。
「グワッ!」押し殺した声に続いて藪を掻き分け乍ら逃げ出した気配がする。
リンちゃんが、追っていこうとする所を美月が止めた。
「リンちゃん、放っておけ! 小物だ。さっきからあたしのサーチに引っ掛かっていたんだ。サーモグラフィーに特徴を捕らえた。次に何かあったら捕らえるとしよう。」
先行していたジャオクウゥが引き返してきた。
「大丈夫でございますか? 私の村の領地で私の客人を襲うとは。……この矢は見覚えがございます。我らの村に此れを使う者がいます。血の匂いも残っています。追いましょう」
今にも駆けだしそうなジャオクウゥを美月は止める。
「いや、今はやめておこう。捕らえるのは容易い。ジャオクウゥの村も近い。村の者と表立って此方からイザコザを起こすのも得策ではない。何もなかったフウを装って村に案内してくれ。」
「……分かりました。此の不届き者は村で改めて償いをさせます。」
昨夜のキャンプ地を離れて、半日ほど歩いてジャオクウゥの村へとやって来た。
木々の開けた合間に広がる一見喉かな小さな村。
まるでインディアンの円錐形住居のティピィのように丸太を円錐形に組み、その周りを茅葺で覆った粗末な住居が立ち並んでいる。
其の一つから子供が顔を覗かせるが、ラルフと目が合った瞬間に慌てて引っ込んでしまった。
ムリもない。たくさんの住民が人族から襲われて数を減らしているのだから。
よそ者のロッテ達に警戒心を顕わにしている。
申し訳なさげに、ジャオクウゥが声を上げた。
「あたしだよ—っ! ジャオクウゥだよ。 お客さんを連れてきたんだ。村長を呼んできておくれよ———。」
程なくして、老女を筆頭にして数人の男達が現れる。
老婆は、小走りにジャオクウに近づくと傍らのジャーナを抱き上げた。
「おおっ! ジャーナや、大丈夫だったかい? ジャオクゥも。帰ってこないものだから随分心配していたんだ。お前たちまで攫われたのかと心が縮む思いだったよ。」
「母さん、心配かけてごめんなさい。ケガをした所をこの旅人の皆さんにたすけてもらいました。挨拶して。」
「そうかい。無事でなによりだ。最近村の周りで物騒な事が立て続けに起こっているからね。旅人さん方、あたしはジャオクゥの母親であり、この村の村長の一人ジャオヌゥという者だよ。娘と孫が世話になったね。礼を言うよ。しばらくは、この村でゆっくりしていくといいよ。話は、後で夕食の時にでもゆっくりと聞くよ。」
村長は、ジャオクゥの母親だったらしい。ラルフのコスプレもロッテの獣人の姿も不思議がるそぶりも見せない。
熊獣人の一人が進み出てきた。
「村長、獣人村のしきたりは旅人でもしたがって貰おうか。獣人の村の中では、力の上下関係が付き合う事に重要だ。最初で、旅人さんもワシらと一戦組み合って貰おうかの。」
「わしら三人の実力は、下から五人頭の一人、次に村を守る兵士の中堅、そして其処の頭を任されている実力者の此の俺だ。それぞれと戦って力のほどを見せて貰いたい。」
旅人の力を見せろという男に対してジャオクゥが怒り出した。
「ダンツ! 失礼な事をするんじゃないよ。この人たちはあたしの客人なんだ。無礼は許さないよ。」
そこで、美月がジャオクゥの言葉を制する。
「ジャオクゥ、あたしたちも村の習慣に異存はないよ。ロッテや、ラルフの腕試しに丁度いい。獣人との闘いも見ておきたいからね。此方からお願いしたいくらいさ。」
そう言う石板の美月の姿は、キツネの耳を付けてばっちりと恐ろし気なメイクを施している。
「村長、このパーティーは、此のあたし魔術使いの夜叉ギツネ美月という者が仕切っている。まずは、手始めに剣士の犬獣人ラルフがお手合わせする。其方は、五人頭で構わないか?」
「うむ、夜叉ギツネ殿、我らの風習に応えて貰い感謝する。村の者達を集めてこの試合を執り行おう。最近悪い事ばかりで皆の気も沈みがちだ。旅のお方たちの協力に感謝する。」
早速、触れが廻り、村中の人々が集まりだした。
ロッテ達一行を中心に人垣の輪が出来る。
ラルフが前へと出ると。三人の中から同じように犬獣人と思われるひょろりとした男が進み出てきた。
ラルフは、使い慣れた大剣。相手の男は、見慣れない片手の長いマシェットナイフの様なモノを手にしている。
「怪我は、あたしが治す。存分に立ち会え。」
美月の言葉に双方が頷いた。
お互いの眼が会うと初めの合図もなく、滑り込むように相手の男は、ラルフの足を刈り取る様にマシェットを地面すれすれに振るってきた。
いきなりのトリッキーな動き。
ラルフは、慌てる事無く大剣を地面に突き立てると、マシェットを跳ね上げた。
国の重鎮たちを守る近衛の役職についているラルフ。
その中でも、若手の中で抜きん出た実力を持っている。人族との太刀のやり取りには、十分の訓練を受けていた。
大剣を使う正攻法な太刀。
それに対して村の男は、ジャングルでの様々な動物・魔物を相手にする。
どの様な形であれ、相手へのダメージを与える技を積み重ねている。
マシェットを跳ね上げられながらも転がり接近する。
地面に両手をつき下から、ラルフの胸元へと真っ直ぐな蹴りの踵が飛んできた。
刃物に気を取られていたラルフが吹き飛ぶ。
倒れる事無く下がった所へマシェットの剣先が襲ってきた。
大剣のリーチが災いし、懐に入られている。
咄嗟に剣先を掻い潜り、踏み込む。
すれ違いざま、大剣を回し其の石付きを眼の前に迫る相手の顎へとぶち当てた。
カウンターとなった一撃は、相手の脳を揺らしたのか膝から崩れ落ちてしまった。
熊獣人が飛びこんでくる。
「其れまでだ! いい動きだ。」
周りが騒めく。
マシェットの男は、五人頭とはいえ村では十分な実力者だったらしい。
「次は俺だ。 短剣を得意とする。相手を願おうか。」
村の警備を生業とする男が進み出ている。小柄ながら引き締まった体。
体を揺らし、長い尻尾を揺らして如何にも素早い身のこなしが得意と見える。
まるで木の上を自在に駆け回るテンにでも似たような三角の顔だ。
「ほう、素早さ重視の小兵か。ロッテの相手に丁度いい。」
「ロッテ、相手してこい。スピードで負けるなよ。」
「うん! ガンバル。」
ラルフの戦いを見てロッテにも気合が入る。
「へんし~ん。」
気合を入れた割には、気の抜けたような変化のセリフが響き渡った。




