ロッテ、一つ目サイコロプスを討伐する。
ロッテ、一つ目サイコロプスを討伐する。
「すまない、村長ののワシが不甲斐ないばかりにアダモフには、辛い事を押し付けてしまった。村に残った男衆も生き残るためには、あの魔族の言いなりになるしか、ワシらには手立てが無かったんじゃ。」
「荷物は返す。許してくれ」
村の長老だと名乗る老人が、土下座をして頭を下げる。
その脇には、どれだけロッテに殴られようともボロボロになって立ち上がってきた片目の男アダモフが、美月のバインドの魔法により縛り付けられ座らされていた。
命を落としそうになっても立ち上がるアダモフに、美月が面倒になって魔法で身動きを封じて大人しくさせている。
此の一党の騒ぎを聞きつけて村の長老たちが集まり、美月たちに事の釈明を行っていた。
「それで、街道の荷役の仕事をしていたお前たちが、盗賊に成り下がった理由と言うのが、サイコロプスの魔物から魔族へと変貌を遂げた魔族に屈してその手先となっていたと言うのか?」
「おっしゃる通りでございます。最初は、魔物のサイコロプスとして現れたあの魔物に、一人二人と間引きされる様に、村人が食われていたのでございます。それに立ち向かいアダモフを筆頭に村の若い衆が向かいましたが、力及ばず、討伐に向かった者達は殺され、アダモフは片目を潰されながらも生き残りました。」
「儂が新王都に赴き、サイコロプスの討伐を願い出たのですが、新王都とナハフテラスの境にある此の辺境の村には、一行に討伐の兵や冒険者共は送られてきませんでした。」
「もともと、作物もたいして育たず。村の特産というモノもなく税金のほども知れているこの寒村ですから、冒険者へ払う褒賞を出し惜しみしたのでは、ないかと思われます。」
「願い出た役人の何処かで此の話が止められたのか、いっこうに討伐の者たちは送られて来ませんでした。村は見捨てられたのでございます。」
村長は、後悔の念を顔に滲ませて語り続ける。
「サイコロプスですが、最初は唸り声を上げるばかりで魔物そのものでした。それが、ある時を境にいきなり人語を話すようになり、魔物とは思えない狡猾さを見せる様になり、まるで魔物が人の知恵を得たように感じられたのです。」
その話を聞いて、美月は考える。
「まるで、ジークハルトが言っていた魔王の誕生によるものに関連が有るのかもしれないな。ラルフが倒したグールと同じように、何某かの影響を受けていると考えたほうがいいな。」
「そのサイコロプスは、街道を行く旅人を襲え、積み荷を奪えとワシらに言ったのです。代わりに村人を殺さないとの条件を示して。」
「奪った荷物は、この倉庫にすべてあります。他へ売り払う事もなく、荷物が目的などではないようです。只街道の治安を揺るがし、人の往来を妨げるかのように人々を襲うのです。」
「また何処で手に入れたのか服を手に入れ、人の姿に扮し、自らも街道の人々を襲います。その姿が、大男で眼帯を付ける片目のアダモスではと悪い噂がたち、サイコロプスの仕業もアダモスの悪評として知れ渡ってしまいました。」
アダモスも頷き相槌をうつ。
「ああ、奴が暴れて俺を装い、評判を落とすには一考に構わないさ。俺たちも盗賊としてすでに手を染めている事だしな。其れをきっかけに、新王都の役人どもが、兵隊や冒険者をこの村に送り込んでくれればサイコロプスの事も知れ渡るだろう。」
美月が憐れむようにアダモスに問いかける。
「それで村人を守るために、道行く人を襲って盗賊をやっていたのか?」
「ああ、俺たちではあのサイコロプスには敵わない。村が生き残る為だったんだ。」
悔しそうな表情を浮かべる。
可哀そうな事に辺境の村で育ったアダモスには、切羽詰まった村の存続を保つために言いなりになるよりの道を考えつかなかった。
「馬鹿な奴だ! 他に手立てがあっただろうに」
気の毒な境遇に美月は何処へともぶつけられない怒りを表した。
岩肌がせり出し、まるで庇のようになった奥まった所に焚火の明かりが揺らめいている。
アダモスに案内されてサイコロプスの住処へと暗くなってからやって来た。
身を潜めて覗き込む。
「美月ちゃん、なんか美味しそうな匂いがするね~」
ロッテが鼻をひくつかせる。
焚火に何かの骨付き肉をかざしては、積み荷から奪った酒で肉を食らっている。
「最初は、人や獣の生肉をむさぼるだけのバケモノだったんだが、知恵を付けてからは、獣の肉もああして焼いて食っている様だ、酒の味まで覚えてな。」
お腹を空かせたロッテが、腹ただしそうに毒づいた。
「ちっくしょう。こっちはお腹を減らして此処まで来てるのに。旨そうに鶏もも食ってるよ。魔物のくせに」
「ロッテ、見てみろ。あの柵の中、走る竜と言われるオルトミムスに似た竜だ。あのオスが捉えられている事で群れがこの近辺から離れられないんだ。
あの野郎、あったま、いいぜ。逃げないメスを簡単に捕まえてああやって毎晩の食い物にしてやがるんだ。」
体高2メートル余り、体重にして80キロほどのメスの群れに柵の中のオスは、一回り大きい120キロにもなるだろうか。
すらりとした姿は、ダチョウにも似ているが竜の仲間だという。草原を住処にして風のように走り回る。健脚にして持久力に優れた竜の種類だ。
ロッテ達に気が付いたのか、柵の中のオルテミムスが暗闇の中、悲し気な声を上げた。
「オスを残して逃げられないんだね。可愛そう~。あたしが助けてあげるよ。あいつぶち殺す」
顔をしかめると片目を瞑り口の端を上げる。気持ちが高ぶった時のロッテの顔だ。
竜の鳴き声に異変を感じたのか、焚火の影がのそりと立ち上がった。
焚火の明かりを受けるとその姿が露わになる。
ぼろ布を纏った3メートルを超すその姿、肩は盛り上がり胸の筋肉が、ぼろ布を押し上げている。明かりを受けて其の高みから一つ目が、ロッテ達を見据えている。
「オオオオッ————!」
耳を劈くような咆哮が、うしろの崖を盾に響き渡る。
突起の付いた馬鹿でかいバットの様な武器を掲げる。
「ロッテ! 臆する事はない! 今のお前なら十分に倒せる。気持ちでビビるんじゃねえぜ! リンちゃんと魔女様のあたしが付いている。お前のレベル上げの糧にでもしてやれ」
「うん! 怖くはない。やって見る」
猫耳を立てて獣人化したロッテが、メイド服のスカートをはためかせて飛び出していく。
小さなロッテからすれば、山の様なサイコロプスだ。
打ち下ろしてくる金棒。
ロッテのいた場所へと土煙をあげてめり込んだ。
素早く躱し、その踏み込んできた赤黒い向う脛に黄金のパンチを振るう。
「バチン」
魔力を解放し、サイコロプスの足にはなったパンチが炸裂する。
一瞬、サイコロプスが顔をしかめるも、その分厚く強靭な皮に守られて倒れない。
上から見下ろしてくると、金棒から片手を離すとその腕で足元のロッテをハエでも払う様に振り払う。
体ごと振り払われたロッテが、美月たちの元へと跳ね飛ばされてきた。
コロコロと転がる。
「ロッテ!」
リンちゃんが、駆け寄り助け起こすと、何事もなかったように立ち上がった。
悔しそうに片目を瞑る。
「いたたあぁー …でも…ダイジョウブ! 頑丈な奴だね。ビクともしないよ。顔を殴りたいけど」
ロッテの狙うサイコロプスの顔は、3メートルもの高さにある。
「オレも、行くぜ! 村の仇がやっと取れる。俺にもやらせてくれ」
迫ってくるサイコロプスにアダモスも分厚い大剣を持って立ち向かっていく。
2メートルほどの大男のアダモスとサイコロプスの金棒と大剣が暗闇に金属のぶつかりあう火の粉を散らした。
「ガッチーン!」
アダモスの大剣が中ほどから折れる。
すかさず、放り出すとサイコロプスの金棒を持つ手にしがみ付いていく。
一度は負けたアダモスだが、人の力とは思えない怪力を現し組み付いていく。
鬼のように巨大なサイコロプスの動きを止めて食らいついていく。
サイコロプスと人間の巨人の力と力が、激しく押し合っている。
ロッテは、サイコロプスを押し止めるアダモスの背中を駆けあがる。
目前に迫った其の一つ目めがけて、輝きだしたナックルダスターをぶち込んだ。
腕ごと一つ目に食い込んでいく。
「ボンッ!」 その眼の中で、大量の魔力が爆発するように弾ける。
「グァアアーーー!」
アダモスに組み付いていた腕を離すと、のけ反る様に後ろへと離れる。
持っていた金棒を離すと潰された一つ目を抑える。
隙を伺っていたリンちゃんが、その突起の付いた金棒を拾うと、サイコロプスの膝目掛けてフルスイングをした。
がくりと折れる体。
アダモフも勝機と捉えて満身の力で体当たりを食らわせた。
頑丈さが取り柄のサイコロプスが地面に転がった。
「ロッテ! 頭の一本角を根元から叩き折れ! 急所の一つだ」
低くなった其の頭に生える角を
殴る 殴る 殴る
黄金に輝くナックルダスターが魔力を与える。
そして、地面で荒れ狂っていたサイコロプスが静かに動かなくなった。
サイコロプスの返り血を浴び、角をぶら下げてロッテは立ち上がった。
「…………」
疲れた様に無言で立ち上がった




