ヨ~シ、殴りに行こうぜロッテ!
ヨ~シ、殴りに行こうぜロッテ!
「ブワン」 (てててっ)
いきなり体が重くなり、足元を救われるような感覚がした。
初めての転移で慣れない三人は、光の輪が収まると同時に、放り出された人形の様に道端に倒れ込んでしまっていた。
王都スラムから、60キロほどの距離を移動したというのに陽の傾きは、さほどに変わっていない。
辿り着いたのは、目的の村に近いと言われる小高い山々の連なる森の中の小道。
「魔女様、此処は?」
起き上がりながら、ペペが周りを見渡す。
遠くで名も知らない鳥が鳴いている。静かな山の中。
ロッテの下げるポシェットから、ゴブリンメイジのリンちゃんの足が、にょきりと這い出してきた。
「ギヒッ」 (ひひっ)
ゴブリンが笑うのかどうかは知らないが、僅かに笑った様にロッテは感じた。
灰色のメイド服で、その全身を現す。
其の首にひもを付けてぶら下がる石板の魔女美月。
「奴らの村にほど近い街道だ。少しばかりの準備をお前らにしておこうと思ってな。」
「ほらガキンチョ! オメエら二人には、ベストタイプの皮鎧と此のヘルメット…もとい黄色い兜だ。後、武器は殺すまでもないから此の木剣でいいか。」
足元へと投げ出されたのは、腰まである簡素な皮鎧、そして工事現場で使われるような黄色い土方のハーフヘルメット。
安全第一のゴシック文字が掠れている。
二人が身に付けると、冒険者の装備とはだいぶ違うチグハグさが滑稽にさえ見える。
持たされた木剣には、河口湖の焼き印が渋い。
それでも、初めての武具の装備を身に付けてまんざらでもない表情の二人。
お互いの格好を見ては頷きあった。
そしてロッテには、リンちゃんから黒とグレイのメイド服が渡された。
(あっ リンちゃんとお揃い♡)
「ロッテ此れな、アラミド繊維を織り込んだケプラー素材で出来た特注品だ。丈夫で可愛いだろ。」 (すげーだろ)
「この可愛いがポイントなっ」
「今回は、此のポンコツ二人を守るためにリンちゃんも出張ってもらう。おまえらリンちゃんの側を離れるなよ。」
リンちゃんがポシェットの中から取り出したのは、アイスホッケーのフェイスマスク。
醜悪な顔を隠して、ゴブリンとは気づかれないだろう。
メイド服の二人が、並ぶと幼い童女の姿に見える。
山菜を摘みに来ましたと言わんばかりにわざとらしく、リンちゃんの腕にはバスケットまで下げている。
メイド服の二人の後ろを、如何にも護衛するように少年たちが続く。
荷馬車がようやく通れるような細道を、街道を外れて分け入っていく。
スラムの男の話からは程遠く、街道の分岐から山を二つも超えた所に其の寂れた村は在った。
村に入っていくと、子供の姿がよく目につく。
僅かに、大人と言えば年寄りくらいのモノだった。
石板を下げたリンちゃんが、ロッテ達に気付いた老女に近づいて行く。
美月が声を掛けるが、リンちゃんが話しかけているとでも思っているのだろう。
「お婆さん、この村に荷役を商売にする男達を知らねえか? 頼まれ事があって探しているんだ。」
当たり障りのない語りで話しかける。
老婆は、集落奥の一軒の家を指さした。
「お前たち、王都から来たのかえ。この村に関わらんほうがええ。明るいうちに立ち去るがよかろう」
ロッテも、盗賊の村だから少年少女のロッテ達を気遣っての老婆心だろうとその時は思った。
倉庫らしい建物を覗くと、倉庫番らしい二人が酒盛りをしている。
盗品なのか、預かった品物なのか解らない荷の中に、ペペ達から奪い取った荷物が残っていた。
「あっ この野郎! 俺たちの荷物だ。荷物を返せ。」
気付いた途端に、気の短いロッシュが飛び込んで行った。
皮鎧に木剣を持たされた事ですっかりやる気になっている。
何よりも魔女美月と小さいながらめっぽう強いゴブリンのリンちゃんが後ろに控えている。
気も強くなっている。
「うわっ なんだ? おめえら!?」
酔っていた二人は、不意を突かれて立ち上がる間もなく少年たちに叩き伏せられた。
遠井湖の名工達によって作られたもっ木剣は、飾られる事無く盗賊を打ち据えた。
その場に合った荷造りのロープで縛り上げる。
「やったぜ! 明日の引き渡しに間に合いそうだ。魔女様ありがとうございます。」
あっさりと取り戻せた事で、ロッシュとぺぺが喜びハイタッチをする。
「いや、まだだ。まだ早い。此奴らの頭目と話を付けねえと街道での商売が出来ねえだろ。」
美月は、荷を取り戻すだけでなく頭目とケリをつけると言い出した。
縛られている若い男が、笑いながら声を上げた。
「へへへっ 頭目と話を付けるだと、笑わせるな。女の童女二人を連れてそれで数を揃えたつもりか? 不意打ちを食らわなきゃ、おめえらなんぞ相手にならなかったんだぞ。 頭が、帰ってきたらおめえら纏めて奴隷商にでも叩き売ってやる。」
縛られながらも息巻いて、少年たちを脅してくる。
「リンちゃん」
美月は、喚く男を五月蠅そうにリンちゃんに声を掛ける。
安っぽいプラスチックのマスクで、表情の見えないリンちゃんが、無言で男に近づいて行く。
その小柄なメイド姿に、男はまだ笑っている。
「ドガッ!」 「おっ!! おおぉっ!」
無言でのつま先の蹴りが、男のみぞおちに突き刺さる。
舐めた笑いが苦渋の皴をつくり、嗚咽と吐しゃ物をまき散らしながらくのじに折れ曲がった。
「やれやれ、静かになったな。」
リンちゃんは、話をしている石板の美月を二人に見せると、自らはマスクを取り、その醜悪な顔を二人の顔に突き付けた。
「シャアッ!!」
牙を見せつけ威嚇する。
「ヒィ! ばっバケモノだっ!」
ようやくメイド服の一人が、か弱い少女ではないと気づいたようだった。
沈黙が流れる。
「それで、親方は何時帰って来るの? おっちゃん。」
こんな、勝ち込みの現場に女の子の童女が場違いにいるロッテを不思議そうに見る。
「いや、ロッテ。待たされずに済みそうだぜ」
美月の言葉と被る様に、外の気配が騒がしくなった。
扉がバンと乱暴に開かれる。
「お帰りっ♡」 「ギギッ ♡」
メイド服のロッテとリンちゃんが振り返る。
ゴブリンが笑えるのかどうか知らないが、ロッテには其れが笑っているように見えた。




