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反逆のロッテ  作者: ドロガメ
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「ヨロズ屋赤エボシ」でのロッテ

「ヨロズ屋赤エボシ」でのロッテ




「我らを庇護するメラヒィール様、日々の糧を与えてくださり感謝いたします。」


「「感謝します!!」」 (…いいから早く食わせろよ…)


 元修道女のエレナテレスの祈りの言葉につられて、ロッテも両手を組むと祈りの真似事をする。

 心の中では、眼の前の質素な朝餉に早くありつきたいばかりに毒を吐いてはいるのだが。

 交代で朝餉(あさげ)にありついたロッテとエレナ、そして女中二人を加えた四人で小さな円卓を囲んでいる。


(一応、此れでいいんだろ。信心の気持ちなどサラサラねえんだよ。あたしが、感謝するのは、エレナ、あんたにだよ。周りに合わせる気遣いくらいは、此のあたしも持ち合わせているんだよ)


 平皿には茹でたジャガイモと一すくいの豆、カップにはジャガイモと豆のゆで汁に塩と僅かばかりの青菜が浮かんでいる。

 スープには、本来川魚の干物も入って入るのだが、其れは店主一家の為だけに雇われ店員たちの賄までには行きわたらない。

 それでも、芋のトロミと塩と出汁の効いたスープは旨味を含んでいた。


 ロッテは、ジャガイモをスープに戻すとスプーンの背で崩し、塩気のある汁に浸すと口に運んだ。


(うめっ うめ~っ!)


 眼を見開くと、まるで猫がお気に入りのご飯にでもあり付いた時のように自然と心の声が漏れてしまう。

 質素なジャガイモのスープの朝餉にさえ嬉しさがにじみ出てしまうロッテ。

 女中の一人が、可哀そうな目でロッテを見る。


「おめえ、本当に此の朝飯がうめえのか?」


 ロッテはキョトンとした顔で椀を持ったまま女中を見た。


(なに言ってんだよ。旨いに決まってるだろ! ジャガイモに塩のスープだぞ! それに何だか魚の匂いまでしてるんだぞ!)


 声に出すこともなく、そんな事を言う女中の言っている事が、粗末な物しか口にした事のないロッテには解らない。


「そうね、あと黒パンでも添えられるようにお仕事を頑張らないとね。」


(ロッテ、スラムでどんなものを食べていたのかしら?)


 皆が質素に思う朝餉にさえ、喜々として掻き込むようにして食べる幼い少女にエレナテレスは心が痛む。

 小首を傾げるその赤髪を思わずそっと抱きしめた。


「わっ! エレナ、なんだよ。めし、食えないじゃないかよ」


 何故か、エレナと女中たちから一掬いづつのジャガイモと豆がロッテの皿に放り込まれた。


「ほら、ロッテ! ジャガイモを一つ食べなよ」


「アッシも、豆要らねえから食えロッテ!」





 朝飯を済ませたロッテは、又、井戸の脇に座り込んでいる。

 開店と同時に冒険者の三人組に売りつけた砥石、通称ギザギザ石が品薄になっている事に気が付いた。

 拾ってきたギザギザ石を、井戸端の敷石に擦り付けては一面を平らにしていく。

 一面が平らになり、刃物や矢じりが研ぎやすい砥石となり商品へと生まれ変わるのだ。

 女中頭のメリッサの計らいで、給金の出ないロッテに、ギザギザ石で砥石を作れば、売値一つ500リダ(5銅貨)のうち200リダ(2銅貨)を貰える約束を取り付けている。


(一個売って200リダ。二個売って!400リダ! 三個売って600リダ~っ! にゃははは! 金持ちや~!)


 ロッテの口元がほころび、にやけ顔を隠せない。

 自分専用の商品となったギザ砥石を、隙を見つけては熱心に客に売りつけている。

 ロッテは、収入になると喜んではギザギザ石を拾って来ては、加工し店に並べて売っているが、店にとっては、僅かなスペースを開けているだけで丸儲けなのだ。

 加えて、ロッテがギザ砥石を売ろうとして、他の商品も抱き合わせて売っているのでなおさらである。


「くっそ! 固て~な~、削れろ! 削れろ! あたしの200リダ~っ 200リダの砥石。 200リダになれ! こんちくしょう~」


 まるで呪いの言葉でも発するように呻きながら井戸端の敷石に擦り付ける。

 此れがとにかく固いのだ。

 それでも何とか半時の時間をかけて、ようやく三個のギザ砥石が完成し、店の棚へと並べることが出来た。


 開店の準備はすっかりと整っている。


 本来の店番の店員や手代が、店を切り盛りし始めると丁稚にも満たないロッテが店先をウロウロとするわけにもいかない。


(くっそっ 店先に張り付いてギザ石を売りたいところだけど、あたしのギザ石ばかり勧めると怒るんだよな)


(あまり、うろついてると怒られるのが落ちだな。夕方まで山の河原にでも行ってギザギザ石でも拾いにいっか。)


 朝の開店準備と掃除、そして閉店後の掃除と片付け棚の補充、其れがロッテにあてがわれた仕事だ。

 基本、昼間にロッテのすることはない。

 せいぜいが、店番や手代が所用で店内の人手が薄くなるのを狙っては、店内をうろつきながら店番のふりをしながら品物を売り、ついでとばかりにギザ砥石を売りつけては、小遣いを稼いでいるロッテだった。


 机で事務仕事をする手代の若い男が、眼をすぼめると、まだ未練たらしく棚の前で陣取っていたロッテに、サッサと引っ込めと言わんばかりに手で払うようなしぐさをする。

 ロッテは、肩をすぼめると店を出た。


 ギザ石を拾うために、街はずれのロレーヌ河の上流から分かれるその支流を目指す。子供の足では一時(いっとき)、約2時間が往復に掛かる。

 それに加えて、拾い集めるのにも時間がかかる為に、閉店までには帰る猶予を考えればあまりのんびりとはしていられない。


 河に向かって緩やかに下る道は、旧王都らしく丁寧に石畳で舗装されている。ロッテの店「ヨロズ屋赤エボシ」も並ぶ古い商店街は、石造りと魔法の土で固められた建物の古い佇まいを見せている。


 旧王都となる前から存在する古い街並み。

 旧王都シュルツタイン、遠くに見えるロレーヌ河から強い川風が石畳の落ち葉を巻きあげながら吹き上げてくる。


 ロレーヌ河に突き出るように立つ崖の上のお城を眺めながら、舞い上がった赤い髪をロッテは抑えた。


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