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反逆のロッテ  作者: ドロガメ
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ロッテの店へと現れた男

 ロッテの店へと現れた男




 ロッテの店先へと現れた男は、ブェルデマールと名乗った。

「私は、輸出輸入の商売を手掛けているブェルデマールと言う商人でございます。南は南アルスト海の海産物から、北はユーデルハイム山脈で取れる貴重な鉱石宝石まで、多種多様な物を扱っております。」


「この新王都の賑わいにあやかろうと、旧王都を始め大店の皆様へご挨拶に伺っております。ご主人様が居られましたら、お目通りを願います。」


 対応に出たメリッサの後ろでは、店員の女中たちが様子を伺う。

 男の様子は、旅を生業とする者に多く、背は高く無駄な贅肉をそぎ落としたような痩身である。

 そのくせ、長く縮れたブラウンの髪から覗く顔は、日焼け防止のニカブでも常に巻いているのか、旅商人とは思えないほど青白い。


 メリッサの影に控える女どもは、聞えよがしと言った具合に小声での話しに余念がない。


「すらりとして、いい男ねぇ~。旅の商人としては色白だし、内に出入りしてくれると楽しくなりそうだわ~。」


 好き勝手なことを言う女たちに、男はニカリと笑う。


「いやぁ~っ さすがに王都の店に勤められるお女中方。見目麗しゅうございますなあ~。是非とも、お近づきのしるしに、ささやかなモノですがプレゼントをさせて頂きたい。」


 そう言って、馬車から小さな木箱を持ってくると中から布に巻いた装身具の数々をテーブルへと並べた。

 飛びこみの営業の多い旅の行商人などは、時にこういった店の女達へのプレゼントからの搦め手を使って商いへの取っ掛かりとする事は珍しくもない。

 それを知っている店の女たちは、メリッサの後ろへと固まって、其れを伺っていたのである。


 布の上へと並べられた品物は、小物だけでさほどの価値のある物はない。

 それでも、滅多にないチャンスに女達は、声を上げて群がった。


「あっ! 珍しい赤サンゴをあしらったカンザシ! 此れを貰うわ。」


「あ~~っ! それっあたしも目を付けていたのに。」


「私は、此の小さな真珠のイヤリング! 素敵ね~。」


 目移りしながらも、僅かに並べられた品物(しなもの)は、あっという間になくなってしまった。

 ロッテは、賑やかになったその様子を訳も変わらずに眺めている。

 そんなロッテに気が付いたのか、男は小さな銀細工を手に取って、ロッテに近づいてくる。


(うん? もしかしてっ くれるの?)


 女たちの突然の争奪戦に気付くことなく出遅れてしまったロッテ。

 男の手の銀細工に期待の目を向ける。


 が、途中でぴたりと立ち止まると、ロッテを眺めては銀細工を懐に仕舞ってしまった。


(ふん、要らんな! こんな童女にまでは無駄なモノ。やめておこう)


 店の奥から、店主への面会が叶ったと声がかかる。

 其のまま、女中の一人に連れられて奥の間へと入っていってしまった。


「ア―――ッ! あたしにも」


 無駄に消えてしまった商人の後ろ姿に手を伸ばす。

 がめついロッテが、貰い損ねてしまった。

 マヌケナなロッテと女中たちが、クスクスと笑う。


「久しぶりに気前のいい行商人さんね。ブェルデマールさんか、彼方此方に伝手を持っているみたいだから、珍しいモノ頼んじゃおっ」


 すっかりと気前の良いプレゼントの効果で女たちは、行商人のブェルデアールへと気を許しその株を上げてしまっていた。


 その様子に、男は口角を上げる。


(フフフッ 何故こうも容易く、魅惑の装身具を受け取るのだ? それを身に付けると私に会いたいだろう? 私の言葉に心を開くだろう? 街で出会おうものなら喜んで付き従う。フン! 其のうちに私の(しもべ)となって夜の街を支配してもらうぞ)


 気付かれないように顔を伏せて笑う。

 この男こそ、聖職者の腐肉を食らい、魔物のグールから魔族へと変貌を遂げたグールだった。

 旅の行商人ブェルデアールとして此の街へと入り込みロッテ達の身近へと迫っていた。

 人の姿に完全に偽装し、笑顔と宝石を気前よく振舞う、その事で人を引き付ける此の商人が、グールだなどと誰も気づくことはない。

 其れを見抜くには、異能を持つ聖職者、鑑定を持つ魔法使いなどに限られる。

 偽装をはがし、其の醜い姿を人目に触れさせるには聖女の力でしかその擬態をはがすことは出来ない。




 ロレーヌ河砦王城の庭に三体の遺体が布を掛けられ、並べられている。

 グール.ブェルデアールの毒牙によってグールへと変えられた者達の成れの果てだ。

 市街を警備する衛兵たちとの戦闘に敗れて、その姿をさらしている。


「此れは皆、都に住まいを持つ者ども。それぞれの身元の確認できております。魔物からの進化を遂げたグールと思われるものはいません。どの様な姿をしているのか、何か手掛かりになる物でも見つかればよいのですが……」


 グールを討伐した衛兵は、わき腹を抑えて苦しそうにジークハルトに報告する。

 グールとなった者の膂力は凄まじく、素手にもかかわらず剣を持つ衛兵たちと互角に戦い、兵士達にも少なからずの怪我を負わせていた。

 有る者は、ろっ骨を折られ、指など掴まれたものは、引き千切られた者までいる。

 それでも街を守る兵士たちの士気は高く、これらのグールを討伐してきたのだった


「一刻も早く、元の祖となるグールを見つけ出さなければ、疫病のごとく被害者が増え続けてしまいます。」


 ジークハルトも、手立てに窮する。

 住民の家を一軒一軒調べ上げて周るのも、今の王都への出入りの多さからしたら無駄である。調べた後にグールになった者でも出てしまえば、其れこそ調査に穴が出来てしまう。

 結局のところ、夜の巡回に衛兵を増やして対処するしか策が無かった。




 ラルフも此処のところ、ロッテの護衛から離れている。

 近衛でありながら町の衛兵に交じり、夜の街を出周っている。

 一度グールを倒している経験を買われて警戒へと狩りだされていた。

 四人一組、経験を積んだ老齢な一人と年若い二人、それにラルフが加わって暗くなった市中を周っている。

 一行の行く手に、曲がり角を周った女の二人連れが、その後姿を現した。


 若手の衛兵が老兵へと。


「あの二人、もう陽が落ちたというのに夜の外出を控える様にとの『触れ』を知らないのでしょうか? 声をかけてまいります。」


「うむ、気を付けろよ」


「僕も一緒に行こう」


 ラルフもそれに加わった。


 追いかける様に、二人の後ろへと近づいて行く。

 近づくにつれ、若い女の首筋の白さが際立つ。

 その首筋に、ラルフの眼は吸い寄せられるように近づいて行く。


「トクン」


 ラルフの鼓動が高まった。

 今まで感じた事のない感情が胸に広がる。

 人通りの少なくなった暗がりで、妙に女の白い肌が艶めかしく感じる。


「トクン」


 心臓の下の辺りから、新しい何かの気配が広がっていく。

 規律に従い、秩序を守り、型ぐるしい生き方にも、その中に自分の居場所を確実なモノとして積み重ねてきた。

 正義を良しとし、其れを自分の本懐としていると思って生きてきた。


 ……なのに……


「ドクン」


 小さな疑念が沸き起こってくる。


「ドクン」


(そんなモノ、捨ててしまえ。目の前の快楽にしゃぶり付いてしまえ。)


(今までのお前は、まやかしの中に生きてきた。秩序や正義などお前を縛るまやかしに過ぎない。お前たちを扱いやすく、お前たちから搾り取るだけの秩序やルール決まり事だ。目を覚ませ!)


(本能に従え。お前の好きに生きるがいい―――)


「ドクン!」


 ラルフの心臓から送り込まれる血液に新たな思念が混じり込む。


 相方の兵士が声をかけた。


「巡回の者です。お二人、辺りもだいぶ暗くなってきました。最近夜の犯罪が横行しています。不要な外出は控えてください。要件が終わったならば、お送りしますよ。」


 若い兵士二人の登場に、女たちの顔が『パアッ』と喜色づくのが見てとれた。


「ごめんなさい。どうしても外せない届け先が出たモノですから。こうして二人で届けた帰りにございます。不安な帰り道でした。お言葉に甘えてその先までお願いできますか?」


 兵士の言葉に、待っていた様に送って欲しいと願い出た。

 最近は、夜の外出を控える様にとのお触れが回っているモノの、街の混乱を避けるために魔物のグールの事は伏せてあった。


 若い兵士たちが声をかけてくれる為に、お触れを破ってまでも外出の理由としている。

 怖さを抑えて若い兵士達との出会いを期待する女たちまで出る始末だった。


 老兵ともう一人の兵士二人と分れ、女達をラルフと声を掛けた兵士で送っていく事となった。

 前を歩く兵士を挟んで女たちが弾んだ声を上げる。

 三人と離れ、其の後ろ姿を見つめながら黙ってラルフは歩いていた。


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