ロッテ、心の師はブルー〇・リー。
ロッテ、心の師はブルー〇・リー。
「せっ! せっ! らっぁ!」
「ヨ~シ、ロッテ! もっと声を張れぇ~」
眼の前で、武道の型を見せるゴブリンのリンちゃんの動きをなぞる様に手足を振り回しバタつかせるロッテ。
岩の上に立てかけられた石板のスマホからは、スピーカーの音量を上げて美月の声が河原に響いている。
最近は、何かと人目に付きにくい此のロレーヌ河の上流にある何時もの河原へと来ていた。
「コラ~っ、腕が下がっているぞ~。そんなことで勇者パーティーメンバーと呼べるのか~っ。せめて自分の身くらい自分で守れるようになれ!」
すっかり、劇中の鬼軍曹にでもなったかの様に、音量を上げて汗だくのロッテを叱咤する。
如何せん、スマホの石板の中のちいさな存在なだけにイマイチ威圧感や迫力に欠けて場が締まらない。
ロッテも、石板から聞こえてくるノイジーな美月の声よりも、ラルフの励ましの声を聴きたかったし、その姿を眼にするだけで気持ちを後押しされただろうが、生憎とその姿は河原には無かった。
(ラルフさん、どうしちゃったんだろ? 今日は休みかな?)
ロッテの気持ちとは関係なく、調子に乗った美月の声が谷間に響く。
「だめだ、だめだ、そんなに腕だけクルクルぶん回したって、それじゃあ沈黙のセガールじゃないか。」
「もっと大きく体幹を動かせ。パンチに重心を乗せろ!」
「さっきの映画を見たろ? 怒りの鉄拳のブルー〇・リー様の様に、おまえは成るんだ。お前ならできる。」
「もっと踏み込め~!!」
本人のロッテよりも熱くなっている美月の訓練は、ヨツユブで見つけたアクロバチックな動きが、その好みに現れている。
「ヨ~シ、次はリンちゃんと組手をやって見るか。リンちゃんは、身体強化を組み入れているから、構わずに打ち込んでみろ。」
ロッテとゴブリンのリンちゃんが向き合う。
お互いに礼。
頭は下げても、相手の目線・動きからは目を外さない。
ブルー〇・スリー心の師匠の教えを心に刻む。
リンちゃんが、相手に対し真横に構えて拳を軽く握る。
つま先の猫足立ちで立つと、小刻みにリズミカルなステップを踏みはじめた。
「おおっ! その姿、ローマの闘技場でのチャック・ノリスとの死闘。そのステップから挽回したんだよね」
ロッテも真似る様にピョンピョンと跳ねまわりステップを踏んでみた。
「ヒョオオォォッ!」
リンちゃんが、口をすぼめ息を吐く首を振ると、其れが合図のように襲い掛かってきた。
鋭い踏み込み。
ロッテの前へと踏み出している太腿へのローキック。
すかさず、足を上げて衝撃をいなす。
リンちゃんは、地に足を戻すことなく片足立ちでさらに踏み込むと、ボデイへと追撃を繰り出した。
「パン!」
ロッテも、その足めがけて腕を叩きつける様に上から払う。
さらに更に、しつこくその足で頭へとハイキックが、軌道を変えて飛んできた。
堪らず。スエイする様に大きく後ろへと退く。
そう見せかけて、倒れ込みながら片足だけのリンちゃんの足を挟み込むように滑り込んでいった。
膝裏に足をかけ、引き倒すと其のかかとを捕まえる。
それと同時に、うつ伏せになったリンちゃんへと肘撃ちを全体重をのせて撃ち込んでみた。
「ぶべっ!」
堪らず、リンちゃんの口からおかしな息が漏れる。
「おおっ! ロッテ、今のは良い動きだったぞ。どの映画のワンシーンだった。」
急にド素人のロッテが、格闘家さながらの動きが出来る様になったのには訳がある。
習った事もない武術のテクニックなど本来なら使えるはずもない。
ましてや、けんかなどすれば、負かされて泣くのが何時ものロッテだった。
急速に、武道の動きをなぞられる様になったロッテ。
其れも、美月の魔法のお陰だ。
経験値を植え付け、習得させる。技術を自分のモノの様に脳に錯覚させては、体に伝え、動きを真似させていた。
映画の中のカンフーマスターの動きや、ヨツユブなどの面白い動画を見つけては、ロッテに繰り返し見せている。
数回繰り返し見せる事で、経験値数十回、数百回分という繰り返しの偽装をあたかもロッテが、映画の主人公の動きをやって来たかのようにロッテの頭の中へと刷り込んでいる。
幼いロッテは、疑う事もなくその植え付けられた魔法を我が物としていった。
相手の初動を見ては、その動きに対する各種の武道のカウンターの動きが出来る様になっていた。
「ゴキッ!」 「痛ってぇ~~っ! 美月ちゃん、いだいよ~~っ」
強化したリンちゃんを殴ったロッテの肘が悲鳴を上げる。
肘を抑えては涙ぐんでいる。
元々小さくて動きの素早かったロッテが、映画の達人たちを模倣してみても、体は貧弱、体の強化が追い付いてはいない。
貧弱なその手で、強化された体を殴れば、逆にその手がネを上げる事となった。
「あ~っ やっぱりな。 動きが意外とよくて、面白いな~~て、見てたんだが、動きだけよくても力を伝えられないか?」
「相手の攻撃をかわせる。そして攻撃でパンチは入る。でも痛がるのはロッテの方か? う~ん駄目じゃ~んっ」
地道に体造りから始めてもいない、その拳だって鍛えられてはいないロッテには、形だけのパンチの威力を伝える体が無かった。
美月は閃いた。電撃の火傷から蘇った時に一瞬見えたあの姿。
筋肉は張り、戦を共に戦った獣人ロレッタにも似ていた。
「ロッテ、お前の左手にナックルダスターが隠されてるんじゃぁねえか? 獣人化って出来ねえのか?」
「……獣人化? それは母ちゃんは豹の獣人だったけど、あたしは、お父ちゃんに似てしまって人族の姿のままだし…… どうすれば…」
ロッテは、夢でみたあの時の事を鮮明に覚えていた。
確かに、あの時の夢以来体が軽く、素早く動けるような気がする。
自分に未知なる力でも備わっているのかは解らない。
「…う~ん、そうだなロッテ、うちの田舎の世界じゃあ、こう腕を突き出し、『へんしーーーんっ』とか言うと姿かたちが強化されたりするんだけどな。」
全くのデタラメである。
テレビの中の特撮のヒーローだけで、田舎の人は変身などしない。
美月の言葉に純粋なロッテは考える。
(そうだ、お母ちゃんが夢の中とはいえ、あたしにくれた物が只の無駄な夢だなんて有ってたまるもんか。……あたしは信じる!)
ロッテは、右手を腰に左手を前へと突き出した。
(婆ちゃんのナックルダスタ―)
『 コイッ!! 』
左手が光り出す。
その光が、ロッテの全身へと回ると変身を見せたロッテの姿が現れた。
金具の付いたベストの様な皮鎧。足元は突起の付いたニーパッドの付いたロングブーツ。
そして、今だ光の収まらないナックルダスタ―が左手に装着されていた。
ただ、身長は変わらず小さいロッテのままだった。
「えっ!?」 「えええ~~っ!」
ロッテと美月の声が重なる。
美月の冗談の様な提案がロッテの姿を変えてしまった。
頭の上には猫耳がピコピコとうごめいている。




