ロッテ、商売繁盛してしまう。
ロッテ、商売繁盛してしまう。
「メリッサさん、この背負い籠はいくらですか?」
ロッテが、店の商品を欲しがるなんて今までなかった事なので、不思議に思いメリッサも問いただした。
「なんだ、此の籠を使って何をはじめる気だい?」
「いえ、店の手伝いが朝と夕方だけなんでね。昼間の小遣い稼ぎがしたいんですよ。お金ならギザ砥石を売って溜め込んだモノがあります」
「まあ、何を売るかは上手く要ってから話しますよ。失敗しちゃったら恥ずかしいですから」
ロッテが、そう話すと仕入れ値で良いと言われて銀貨一枚と5銅貨を払った。
それからは、中庭で冷たい井戸水を汲み上げだした。
「収納」
タスキに掛けたポシェットの肩ひもを掴む。
汲み上げたばかりの水は、手桶からイメージするポシェットの中の樽へと入ったはずだ。
その樽も、桶屋に通って購入して来たばかりのモノだった。
中庭での水汲みするロッテの姿など、誰も気にする者などいない。
樽を冷たい水で一杯にするとロッテは、買ったばかりの背負子の篭を背負うといそいそと出かけた。
「後は、何を買えばいいの?」
手にした石板が答える。
「スラムの入口にある小店で、背負い籠に入るイッパイの黒パンを買って。それからあの親父に言って、簡単な竹のコップを作ってもらいな。」
既に店のオヤジは、引き入れてある。
ロッテの話から、スラムのオヤジはある程度味方になってくれると感じた美月の判断で、エレナを王宮から連れ出す事を話した。
40年間も石板の中で過ごしていた美月や子供のロッテでは、世の中の事情を知らなすぎる。
大人の味方が欲しかった。力強いブレーンとなってくれるはずだ。
ロッテが石板を取り出し、その中で美月が話し出した時でも、少しの愕きの表情を見せたモノの、ロッテの周りで騒がしい事柄が起こる事など知っていたかのように快諾してくれた。
切り出した竹で簡素なコップを削りながらドゥランスクが尋ねる。
「それで、其のエレナってえ子は、何処で働かされておるんか、何処におるのか解るのか」
「いや、出入りの商人たちの伝手で聞いた処、メイドで新しく入った若い娘など目にした事が無いって話ばかりだな。此処は、思い切って侵入して中で聞いて回る他ないだろうぜ。」
ロッテの手にする石板の美月が答える。
「それで、王城内で進む建築仕事の現場の野郎どもに、昼飯を売り歩く商人を騙って調べるつもりなんだな?」
「入り込む口実だけだよ。現場からは離れて密かに宮殿内へと入る。そうすればあたしの探索の魔法に、エレナに会った事はないが、城内で他と違った反応を示す者が有れば、見つけられるかもしれねえしな。」
「随分、おおざっぱな計画だな」
「フン、 計画なんて大まかなくらいで丁度いいんだよ。 キッチリ考えすぎても、一つの計算の狂いで慌てて、全てが御破算になるだろ。」
「臨機応変と言って貰いたいな。此の魔女様が付いている。まぁ、任せておけよ、オッチャン。」
ああ、此れは力任せな荒事で乗り切るつもりだなと、ドゥランスクは首を振る。
「お前はいいが、ロッテに無理はさせるなよ」
「フフフッ、 何を言ってるんだい。此れは、ロッテが願って起こす行動だぜ。此処は、此のお子ちゃまに十分な経験を積んでもらってもいいくらいさ」
美月とドゥランスクの間に少しの意見の食い違いは生じたモノの、準備は整った。
「そろそろ、昼も近くなるぞ。おまえら、出勤の時間だ。気を付けろよ」
昼近く、王宮を囲む塀の裏口にある小さな門の前へ複数の商人に交じり、ロッテは並んでいた。
「なんだ童女、おまえ一人か? 王宮の商人用の入城証は? 持っているわけないか。」
ロッテは、背負い籠いっぱいの黒パンを振り向きながら指さすと。
「へい、お役人様。先に入った飯売りのスザンヌさんから、昼飯に建築工事の職人に売る黒パンが足りないからと、途中で取りに帰されたのでごぜーます。」
いい加減な小売りの商人など、忘れ物の出入りで此の裏門を通る事は、何時もの事だ。
ましてや、背負い籠に黒パンを背負った小娘が悪さをするとも思えない。
「さっさと、通れ!」
まんまと、城内へと入り込むことは出来た。
しかし職人たちの働く現場はすぐ近くにあり、午前の仕事を終えた職人たちが出入りの飯売りの女たちを待ち構えている。
先に店を構えて職人たちの群がる場所とは離れ、城内の出入口に一番近い所へと背負い籠を下ろした。人目の集まらないうちに、ポシェットから水樽とコップを並べる。
一応の商売の体裁を整える。
黒パンと水だけでは、たいして売れないだろうとの美月の予測を裏切り、現場の職人たちが集まってきた。
「何だ。子供の商売人か? 珍しいな、まあいい。一ついくらだ?」
ロッテも竹のコップに水を汲むと黒パンを差し出した。
「200リダだよ。 冷たいお水は、サービスで付けるよ。お水は、お替わりしてもいいよ。」
黒パンの200リダは少々高く感じる。しかし気楽に城から出入りできない職人たちは、出入りの飯売り女が運ぶ食べ物は有難い。
コップに喉の渇きを癒す水をお替わり出来ると聞いて納得する。
日中の陽ざしの残る中で、汗を流していた男は「グビリ」と竹筒の水を飲み干した。
「カァ~~~ッ! 冷てぇ~なっ おい!」
ロッテが汲んできた井戸からの水樽の水が男達の喉を潤す。
黒パンがおまけの様に飛ぶように売れてしまった。
話を聞いて飯を食い終わっていたが、現場を取り仕切る親方までやって来た。
「何だ、黒パンはもう売り切れたのか」
ロッテも少しばかり身なりの良い現場の親方に緊張する。
「黒パンは、売り切れちゃったけど。お水だけでもどうぞ。お代はいらないよ」
「解っておらんと見えるが童女、重たい樽を抱えてまでの商売をする者が、おらんのだ。しかもこの水樽は、汲みたての井戸水の様に冷たい。 汗を流す職人共の口に実に甘露。」
「汲み置きの水がめの水は有るのだが、日差しにたぎり、虫まで湧く始末だ。腹を壊すものまで現れて困っている。」
「何処の飯売り女だ。主はどこにおる? 話がしたい。」
ロッテも思わぬ展開に、どうしたものかと困り顔を見せる。
童女が、一人で商売をしている。問いただしても口をつぐんでしまった。
現場を取り仕切る親方は気が付いた様だ。
(ほう、スラムの子供たちが見様見真似での商売か。この水樽も別の子供が、城の入口まで運んできたか。それでも此処まで運ぶのも大変だったろうに……)
(飯売り女の主はいないのか? 余り問い詰めると商売を辞めてしまうか。それは避けたい。)
「童女、主はいない様だが。どうやって入り込んだか知らぬが、ワシはとがめはせん。出入りの事など、ワシの仕事でもないし知らぬからな。 お前には、また水売りの商売を続けて貰いたいのだ。」
親方は、懐から一枚の紙を取り出すと、組所属の入城証をさっと書き出すとロッテに手渡してきた。
「お前は、ワシの組で雇った水汲みとして証をこしらえた。出入りの際には此れを使え。だから新鮮で冷たい水を此処で売ってくれ。頼むぞ!」
無断での出入りが、ばれて問い詰められるのかと固まっていたロッテに、思わぬ事に城の入城証が渡された。
親方は、褒美だと言って銀貨を一枚ロッテに握らせると去っていった。
ロッテの手には、組の印を施した出入りの入城証と銀貨一枚がその手に残った。
ポシェットから、石板を掴んだ腕が伸びてくる。
「バッカじゃねえか!? ロッテ、今更入城証なんて貰うんじゃねえ。なに銀貨まで貰ってんだよ。 その顔、覚えられちまったじゃねえか。」
美月には、怒られはしたモノの、銀貨まで貰ってロッテは、悪くない気分だった。
(え~と黒パンが50個売れた。オッチャンから70リダの原価でいいと渡されたから……6500リダ!! さらに銀貨一枚のおまけ! 7500リダ!)
(おっちゃんには、竹のコップ代銀貨一枚も渡せばいいよな。)
(やたっ!♡ 6500リダの丸儲けじゃないか!!♡♡♡……)
エレナの救出に来たというのに、眼の前の現金にすっかり目を奪われるロッテだった。
「昼も終わりだ。飯売り女たちも引き上げていくぞ。これからが本番だ。宮殿内へ突入だぜ。」
「行くぞ、ロッテ!」




