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ウィリディスの時にはいなかった王女の存在に(ウィリディスは王子だけなので)一年前とは違う日々を送りながら一ヶ月ほどになる。


もう王都近くの澱みはすべて浄化し終えたようで、頭に澱みが浮かばなくなった。

という事は、いよいよ浄化の旅に出発する事になる。


ここで()()面倒くさい事がおきた。


「わたくしも浄化の旅に同行します!聖女様、どうぞお許しください!」


……この王女様は何を言ってるんだろう?


ちょいちょいめんどい子だと思ってたけど、今回のコレは理解できないよ。


フレデリクを見ると、


「ベネディクテ、聖女様に不敬だ。控えろ」

「お兄様こそ邪魔をしないでください!お父様も皆もダメの一点張りで埒があきません。ですから、わたくし自ら聖女様にお願いいたしますの!」

「聖女様、申し訳ございません。末の妹は私どものせいもありますが、甘やかされて育ってきておりますので少々世情に疎いところがあります。お許しください」


王女の訴えを無視して私に言った。


うん、確かに。

フレデリクのいう通り、王女は甘ったれた雰囲気をもっている。

いや、雰囲気じゃなくてまんま甘ったれか。

自分の望みが通らない事なんて何もないって顔をしている。


王女は十八歳だそうだ。

十八歳は、この大陸の多くの国で成人になる。

もちろんスマラグティーもね。


日本で十八歳といえば高校三年生とか大学一年生くらいで、学生なら、まぁ甘ちゃんでも許そう。

だけど成人した王族ならしっかりしなさい。


「同行したい理由は?」


聖女の威厳を込めて聞くと、王女はビクッと身体を震わせた。


「……わたくしも、皆の活躍や無事を祈り、、、力になりたいのです」


そりゃ殊勝な事。だけど


「何か特別な力がありますか?」 


ないとは思うけど、一応聞いてやろう。


「それは…、ありません、けど…。

わたくしには皆を思う気持ちがあります!皆もわたくしの存在を嬉しく思っています!わたくしが側にいる事で皆の戦う力になるでしょう!」


やっぱないんかぃ!

というか、なんだろこのお花畑。頭にタンポポの綿毛でも詰まってるのかしら?


十八歳って、もっと考える力があるわよねぇ?

何の力もない、戦力もゼロの自分が戦いの場についていって、国にとってデメリットしかないとわからないのかしら…。


「それが理由なら許可しません。祈る事はどこででもできます。安全な場所で祈りなさい」


いや、どんな理由があっても許可しないけどね。聖女ほどの力があるというのならば別だけど。

だけどそうしたら、そもそも私がスマラグティーに来る事はなかった。


澱みは世界中に広がっているのだ。祈る(やる)からには少しでも早く、一つでも多く澱みを浄化して人々を助けたい。


「聖女様!わたくしは聖女様と一緒に皆を救いたいのです!どうかお願いし―――

()()()()()()とは思い上がりも甚だしい」


アルベルトの低い声がその場の空気を重くした。

アルベルトだけじゃない、コンラードや、この場にいる第二騎士団の何人かからも、静かな怒りが室内を満たしていく。


わぁ怖い。みんなの聖女様至上主義(私大好き)はわかるけどやめなさいって。王女様がビビっちゃってるじゃない。


みんなの殺気というか庄というかにビビった王女は、それでもまだ涙目でべそべそと続けている。


私はため息をついた。

お花畑に現実を教えてやろう。


「あなたの同行は迷惑です。あなたが浄化の旅に同行しなければ、あなたを守るための騎士が澱みに苦しむ人々のために戦えます。


あなたが同行すればその分の費用がかかります。

一国の王女の警備にどのくらいの費用がかかるかわかっていますか?あなたが同行しなければ、そのお金は国民のために使えます。


あなたのいう“皆”とは、国民は入っていないのかしら?

本当に皆の事を思うなら、あなたが同行する事は不利益にしかならないとわかるでしょう」


ちょっときつい言い方になっちゃったかな。

でも現実をわかっていないお花畑にはこのくらい言わないとわからないだろう。


……いや、言ってもわからないようだわ。

第二王女は黙ったけど、目が納得していなかった。


ふ~ん。

じゃあこれならどうかしら?


「旅は野営も多いですよ?」

「覚悟の上です!」

「テントには虫が出ますよ。こんなに大きくて(手でサイズを表す)それが気絶しそうなほど気持ち悪いのです。一年浄化の旅をしましたが、私は慣れませんでした。今思い出してもおぞましい。 本当に大丈夫ですか?」

「…………」


王女様は真っ青になって、もう何も言わなかった。

みんなを思う気持ちは虫には負けたようだ(笑)




「まぁ私も虫はイヤだけどね!」


離宮に与えられた自室で、ルイーセに今日あった事を話している。


「あれだけはどうやっても慣れる事はできませんね…」


ルイーセも思い出したのか表情を曇らせた。


「私たちにとっては、澱みの魔獣よりイヤよね」

「はい、本当に」


浄化の旅に出れば、イヤでもまたそいつと付き合う事になる。


ウィリディスでの浄化の旅の一年と、スマラグティーの王宮まで来る約二ヶ月、こんなにもアウトドアで過ごしていているというのにまったく慣れないよ!

そしてこれからも絶対慣れるとは思えない!


私とルイーセは深くため息をついた。


網戸のサッシとか、あれよかったな。

まぁ網戸のサッシがあってもテントじゃ使えないけどさ。

虫の忌諱剤でもいい。強力なヤツがほしい!切実に!!


たかが虫ごときに大げさなと言うなかれ。

元の世界ではアウトドアブームにのる事もなく、私はキャンプなどした事もなかった。

都会生まれ都会育ちには、大自然で過ごす事は癒しではなく(少なくとも私は)虫による恐怖しかなかったよ。


ウィリディスでの浄化の旅の間と、スマラグティーまでの移動中、私はテント内に侵入する虫に悲鳴を上げた。

日本では見た事もないようなヤツで、サイズも気絶ものだ。今思い出してもゾッとする。


私の悲鳴に、エミルと騎士の何人かが大急ぎでテントに入ってくる。

エミルにはソイツの侵入を防ぐ魔法をかけてもらわなければならない。

私とルイーセはジャマにならないように騎士の誰かに抱き上げてもらう。

ヤツから少しでも遠ざかからねばならないからね!もうもう!!毎回必死!!


たいていは見定める余裕なんてないんだけど、ロイがテントに入って来た時は、ちゃっかりロイに抱き着いてしまった。


まぁ可愛い女心だと思ってよ。

だって耳元で「まだ目を開けたらいけません」とか「もう大丈夫です」なんてささやかれたら!

めちゃくちゃ好みの声なんだもん!

過酷な野営生活にご褒美をください!!


あぁ…

またそんな過酷な浄化の旅が始まるのね。




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