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短編集

「「「恋をする文学少女」」」

作者: sct

|| \/ \/ 


「恋をする文学少女」というタイトルの小説。

女の子はそれを読み終えると、ひとつ息をつき、本から顔を離して見上げた。

私ってこんな恋ができるかな、と女の子は思った。


そのとき、学校の図書室にいた女の子の視線の先は、憧れの先輩の瞳を捉えた。

その瞳も、女の子の視線を捉えていた。

女の子はドキッとした。 まさか、ずっと見られていた?

先輩は私に近づいて、声をかけてきた。

ねぇ君、なんて、声をかけられたのは初めてだった。

入学してから、クラスの男子とも話したことすらないのに、なんで声をかけられるんだろう。


先輩は女の子に、小説の感想を求めてきた。

実は先輩もこの小説を読んだことがあるらしく、ちょうど女の子が読んでいたのを見かけて、同じ趣味を共有したくて声をかけたらしい。

まさか先輩も同じ小説を読んでいたなんて。

声をかけられて嬉しい気持ちと緊張した感情が入り混じりながら、女の子は小説の中の少女と少年が本を通じて交流し、結ばれる過程が好きなことを話した。

先輩も同じ部分が好きらしい。

お互い小説について話せる友人がいない二人は、少し興奮気味に、しかし図書室であることを分かっているのか、静かに盛り上がった。

二人の話し声は、他には司書教諭しかいない、だだっ広い部屋に微かに響いた。


それからというもの、二人は定期的に小説の感想を交換するようになった。

学年の違う二人は、毎週金曜日の放課後に図書室で会って、最初は緊張して声がうわずっていたことなんか忘れて、最近読んだ小説の感想について語り合ったた。

二人は約束をしなかった。

金曜日の放課後、ここに来れば先輩とお話ができる。そう期待を膨らませながら毎日を過ごすことになった。


ある日から、図書室で先輩を見かけなくなった。

その代わり、図書室には勉強をしに来る学生が増えた。

今までは私達二人だけだったのに。

私達だけの空間だと思っていたその場所に先輩はいなくて、女の子は居場所を奪われたような気がした。

前の試験前だってこんな感じだったじゃないか。気を取り直して私も勉強しないと。


そのとき、女の子はくよくよするのをやめ、外に目的地を定めて図書室の外へと駆けて行った。


女の子は先輩が好きなことに気づいてしまった。

物語の中の少女と少年は結ばれた。

でも、これは小説の中の物語ではない。

そんなことは分かっていた。


しばらく見かけなかっただけで、こんなに不安になることなど初めてだ。

女の子は不安になって、先輩を探しに行った。

息を切らせながら、今まで行ったこともない、先輩が勉強している教室へ。


そのとき、先輩を見つけた。

先輩の視線は女の子を捉えた。

数週間ぶりに見かけた先輩は、ぽかんと不思議そうな顔をしていた。

どうしてか、久しぶりに緊張した。

どうしたんだい。そう聞いた先輩の声は優しかった。

私に、聞いてるんだ……。


先輩は最近忙しいことについて話してくれた。

どうやら先輩は受験勉強のために早々と帰っていたらしい。

騒々しくなるこの時期の図書室が好きではないらしい。

女の子はほっとして、こんなことで不安になっていた自分が馬鹿らしくなった。


女の子は勇気を出して、想いを伝えた。


|| || \/ 


女性はそれを読み終えると、ひとつ息をつき、本から顔を離して見上げた。

私にこんな恋ができたらな、と彼女は思った。


そのとき、町の図書館にいた女性の視線の先は、顔の整った男性の瞳を捉えた。

その瞳は、捉えどころがないように宙を彷徨っていた。

女性はドキッとした、まさか、私の好みの容姿の男性が現れるなんて。

私は男性に近づいて、話しかけたいと思った。

ねぇあなた、なんて、声をかけたことは一切なかった。

ここ数年、男の人と話したことすらないのに、なんて声をかけよう。


女性は男性に、落としていたものを渡した。

男性も同じ小説を読んでいたらしく、ぼーっとして落としたところを見かけて、同じ趣味を共有できるのではないかと思い声をかけた。

まさか男性も同じ小説を読んでいたなんて。

やっと声をかけられて嬉しい気持ちと緊張した感情が入り混じりながら、女性はこの小説のことが好きなのかを聞いた。

男性もこの小説が好きらしい。

小説について語り合える友人がいない女性は、少し興奮気味に、しかし他の利用者がいることに気を使って、静かに盛り上がった。

男性の微笑むような表情は、空いていた女性の心に反響した。


それからというもの、女性は定期的に男性を探すようになった。

男性の名前も知らない女性は、毎週土曜日のお昼に図書館に訪れ、最初は緊張して声も出なかったことなんか忘れて、見かけたら声をかけるようになっていた。

女性は約束をしようと思わなかった。

土曜日のお昼、ここに来れば男性とお話ができる、そう期待を膨らませながら毎日を過ごすことになった。


ある日から、図書館で男性を見つけることができなくなった。

その代わり、いつもの場所には知らない女性が立っていた。

今までは私達二人だけの場所だったのに。

二人だけのための場所だと思っていたその場所に男性はいなくて、女性は居場所を奪われたような気がした。

出会う前はどんな感じだったかな。思い出せなくなっていた。


そのとき、知らない女の人はぼーっとするのをやめ、そこに目的地があるかのように図書館の奥へと歩いていった。


いつもの場所にいないだけで、こんなに不安になることなど初めてだ。

女性は不安になって、男性を探しに行った。

緊張を抱えながら、今まで行ったこともない、男性が向かったと思われる図書館の奥へ。


そのとき、男性を見つけた。

男性の視線は女性を視界に入れていなかった。

数週間ぶりに見かけた男性は、知らない女の人と仲睦まじく話していた。

どうしてか、久しぶりに孤独感が増した。

どうしたんだい。そう聞いた男性の声は優しかった。

あの人に、聞いてるんだ……。


男性は最近忙しいことについて話していた。

どうやら男性はその人と付き合っていたらしい。

最近一緒に行く街の喧騒が好きではないらしい。

女性はこんなところにいる自分が馬鹿らしくなった。


女性は男性に脈がないことに気づいてしまった。

物語の中の女の子と先輩は結ばれたのに。

でも、これは小説の中の物語ではない。

そんなことは分かっていた。


女性は嫌気が差して、想いを閉じ込めた。


|| || || 


あなたはこれを読み終えると、ひとつ息をつき、本から顔を離して見上げた。

私はこんな悲恋も好きだな、とあなたは思ったかもしれない。


そのとき、あなたの視線の先には……


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