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異世界水中頭脳戦

作者: 船上机

紅龍平野にて並ぶ者なき武勇と知略を誇る、ドレイク騎士団の団長ギルバート。文武両道を信条とする彼が今、新たなる伝説に挑もうとしていた。騎士団本部の片隅に特設された巨大水槽。真上の飛び込み台に立つギルバートは、小声で呪文を唱えつつ水面へと身を投げた。


水中へと飛び込んだ騎士団長の周囲を、巨大な泡が包み込む。詠唱した潜水魔法の効果だ。この魔法の開発により、人類は長時間の水中活動が可能となった。現在の技術では1時間が活動限界とされているが、安全性を考慮すると40分以内の使用が推奨される。だが場合によっては、激しい運動を伴わなくとも酸素を大量に消費し、更に短時間で効果が切れてしまう事例も存在した。例えば、ギルバートが今から始めるような行為がそれに該当する。


水底に着地したギルバートは、水槽の中央へと移動する。そこに用意されていたのは、特殊合金で作られた紅龍式チェスのセット一式。反対側にはオートマトンが座っている。このオートマトンにはチェスの解法がプログラムされており、初級レベルであればチェスの相手も可能な高性能モデル。もちろん水中でも問題なく動作する。騎士団長はオートマトンの反対側に座り、機械人形とチェスの勝負を開始した。


水中での長時間思考は、予想以上に脳内で酸素を消費する。紅龍式チェスは達人レベルの腕前のギルバートでも、当初はオートマトンに敗北を重ねた。相手が初級レベルとはいえ、水中かつ時間制限ありという条件で渡り合うのは中々に難しい。だが、度重なる挑戦の末、ギルバートはオートマトンに安定して勝利を得ることができるようになっていた。


20分後。周囲の酸素がかなり薄くなる中、オートマトンが投了しギルバートの勝利が確定した。騎士団長は一礼すると、水面に浮上し水槽を後にする。その様子を眺めていた騎士団員が、同僚に話しかけた。

「なあ、最近の団長は暇さえあればアレをやってるけど、何が目的なんだ?」

「世界記録にでも挑んでるんじゃないか。あるのか知らんけど。でもその割に、休日は水槽を放って何処かに出かけてるんだよな。一体何を考えてんだか」


団員を困惑させるギルバートの不可解な行動。だが、仮に外出中の団長を追跡したならば、その疑問は瞬く間に氷解しただろう。




蒼玉海で並ぶ者なき美貌と機知を誇る、人魚族王家の第三王女レムリアーナ。彼女が結婚相手に課した条件は、自身と水中でチェス勝負を行い、勝利することだった。


海底宮殿の応接間にて、現在王女とチェス対戦を行なっているのは、かのドレイク騎士団の団長ギルバートである。序盤は優勢だったのに、いつの間にか逆転されていたこともあり彼の表情は険しい。一方のレムリアーナは、テーブルの向こう側で笑みを浮かべながらその様子を眺めている。

「さあギルバート様、次は貴方の手番ですよ」

「……今日こそは勝てると思ったのですが」

「あらあら、今回も私の勝ちのようですね。一旦休憩にして、お茶でもいかがかしら?」


扉の外でやり取りを聞いていた近衛兵が、同僚に話しかける。

「またかよ。あの人間が勝つまで勝負を続けるつもりなのか?」

「ま、王女様が楽しそうだからいいんじゃね?どうせあの趣味に付き合えるのはあいつくらいだし」


結局、ギルバートがレムリアーナに勝利するまで更に半年ほどかかったという。


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