096 マウワージ
俺とブラックジャガー獣人のノワは、町で1番大きいマウワージ商会にポーションを売りに来て、店員の女の子に2階に案内された。
「ここがポーション売り場ですぅ。どのレベルのポーションがご入り用ですかぁ?」
「ん?ああ、ちょっと見させてくれ。」
「はい。ごゆっくりどうぞぉ。」
ノワは俺から離れて棚に飾っているポーションとその値札を、じっくり見ていた。
「ノワ、どうだい?相場は分かったかい?」
「はい。かなり値上がりしてますねぇー。」
「ふむ。どう言う事だろう。」
「すいませ~ん。迷宮都市リトットから高品質で低価格のポーションが、入らなくなったので、値段は上がっていますし、上級ポーションの在庫は不足しておりますぅ。」
店員の女の子が会話に割り込んで来た。
「成る程ねぇ。ところで、ポーションを売りたいので、見てくれないか?」
「有難う御座いますぅ。担当の者を連れて来ますので、あちらの部屋でおまちください。ご案内致しますぅ。」
俺達は商談用の部屋に案内されて、担当者を待つ事にした。
テーブルが1つと椅子が4脚しかない殺風景な部屋で暫く待つと、担当者が入室して来た。
「まいどぉ、どーもぉ。ポーション担当のマニーハですぅ。」
この商会の店員は皆こんな喋り方かぁ、ちょっとウザくなってきたなぁ。
マニーハは満面の笑みで挨拶して来た。
「俺はタクミで彼女はノワだ。」
「か、か、か、かのじょぉー?」
ノワは妙な声を出して両手を頬に当て、くねくねしている。
彼女って、そう言う意味じゃ無いからね。まあ、いいかぁ。敢えて否定するのも面倒だ。
「ポーションを売っていただけるそうですねぇ。どの程度の品質で量は如何ほどですかぁ?」
「ノワ、取り敢えず樽で出してくれ。」
「と、取り敢えずぅ?た、たるぅ!」
何やらマニーハは驚いている。
「は、はいぃぃぃ。」
ドンッ!
ノワはワタワタしながら、アイテムバッグからポーションの樽を出した。
マニーハの眼がキラリと光る。
鑑定の魔法を使ったのかな?
「おおおおおおおおお!高品質の上級ポーションじゃないですかぁ!!!しかもこの量!!買います買います!買わせてください!」
マニーハは何度も頭を下げる。
「で?幾らになる?」
「これくらい出させていただきますよぉ。」
マニーハはニヤニヤしている。
提示された価格は明らかに低く、店に陳列してあった数少ない上級ポーションの売価の、10分の1程度だった。
隣のノワは苦い顔でマニーハを見る。
俺も同意見だよ。
「売るのは止めた!多分、商人として駆け引きをしようと思ってるんだろうが、俺は商人では無いから、面倒な駆け引きをする気は無い。大方俺が若くてノワが女性なので、買い叩けるとでも思ったんだろう。誠実さが見えないので信頼出来ない。ノワ、帰ろう。」
「はーい。」
ノワはポーションの樽をアイテムバッグに収納し立ち上がる。
「え!!!」
マニーハは、目を見開き固まった。
俺達は商談室を出ようとした。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って下さい!!払います!払いますので、どうか売ってください!!!」
「この町で無理に売る必要も無いので、もう良いよ。」
マニーハが俺に縋り付こうとしたので、躱して部屋を出た。
ドタンッ!!
「待って、待ってくださあああい!」
俺に躱されて体勢を崩し、倒れたマニーハは手を伸ばして叫んでいるが、無視して店を出た。