073 リトット伯爵
第三王子のレクが御礼の金貨を置いて、宿屋を後にした。
俺は部屋に戻るとジャイアントハーフの聖騎士リンとブラックジャガー獣人のノワに出国の準備をさせた。
迷宮都市のリトット伯爵と揉める前に、都市を出る事にしたのだ。
地竜の馬車で宿屋を出る。
門まで進むと・・・。
騎士達が待ち構えていた。
「そこの馬車!止まれえええええ!」
騎士の一人が大声を上げた。
「タクミ様、どうしますか?」
御者をしているリンが俺に聞いた。
「馬車を止めよう。」
「承知しました。」
リンが馬車を止めると御者席から降り、俺とノワも馬車から降りて騎士達の前に進む。
「何の用だ。」
俺は騎士のリーダーらしい男に聞いた。
すると、騎士の間から貴族の男が現れた。着ている服が華やかで高価そうなので、一目で貴族と分かる。
「ほっほっほ、アタシはこの都市の領主であるリトット伯爵ですわ。」
あ、この世界で初めて見たオネエ系の人だ。
その隣に鼬獣人の男、背は低いが貴族服に身を包む。
「儂は宰相のヨシナじゃ。」
「貴方がタクミで間違い無いわね。」
「そうだ。」
なんか面倒な事になりそうだ。
「狐女を連れて来なさい!」
リトット伯爵が指示すると、後ろから騎士2人に両脇から抱えられた狐獣人の薬師ババが、連れて来られた。
「タクミ様、済まない。逃げそびれたのじゃ。」
ババは申し訳無さそうに俯く。
「おいおい、俺の仲間に何してんだ!」
俺がリトット伯爵を睨むと。
「お黙りなさい!Eランク冒険者如きが、無礼にも程があります。」
「ババに何かしたら許さないんだからー。」
「ババさんを解放しなさい!」
ノワとリンも強い口調でリトット伯爵を睨む。
「穢らわしい!亜人と獣人が口を挟む事は許しません!崇高な人間の貴族に向かって、不敬です!」
「はぁ!けものぉ!」
「ばけものだってぇ!」
ノワとリンは眉を顰める。
リトット伯爵の隣にいた宰相ヨシナも眉を顰めた。
亜人や獣人が半数以上いる領地で、この差別発言は問題だろう。
「貴方達とこの狐女はDランク以上しか入れないダンジョンに無理矢理侵入しました。更に、王族と貴族の呼び出しを拒否したわ。本来は不敬罪で死罪よ。」
「それで?」
「貴方達はダンジョンで悪魔を倒したそうねぇ・・・。その亡骸を寄こしなさい!そして、タクミ!私の騎士になりなさい。そうしたら特別許してあげても良くってよ。」
「断る!」
俺はそう言うと、時を止めた。
ババを両脇から押さえる2人の騎士を、魔王の手甲を装備した右手でぶん殴る。
ババを抱えて元の位置に戻り、時を動かす。
ドタッドタッ!
「うあああああああああああああ!」
「痛い痛い痛い痛い!」
俺に殴られた2人の騎士は頬を押さえて七転八倒だ。
「なにい!狐女を・・・。あら?」
リトット伯爵はババを見たが、居なくなった事に気付く。
「ちょっと待ったあああああああ!」
第三王子レクが駆けて来た。
「この場は両者矛を収めてくれえ!」
「ん?」
「兄貴頼むよぉ。リトット伯爵は許してやってくれぇ。」
「リトット伯爵、王族としての命令だ。タクミ様には近付くな!」
レクは俺とリトットを見詰める。