051 ドンゴルの苦悩
<ギルドマスターのドンゴル視点>
おかしいぞ。
どう言う事だ。
前代未聞・・・。正に前代未聞だ。
ギルドマスターの、俺の言う事を聞かないどころか脅す男。
護衛隊長を軽く倒して、王子にまで詫びを入れさせる男。
それが、Eランク冒険者だとおおお!
護衛隊長は、対人戦ではAランク冒険者も敵わない、歴戦の猛者。
それを素手で圧倒し再起不能にする男が、Eランクなんてあり得ない。
先程、受付嬢に提示した冒険者証で、名前を確認した。
名前はタクミ。
冒険者証の発行はミヤキザ王国王都の冒険者ギルドだ。
ミヤキザ王国王都の冒険者ギルドと言えば、災厄の異名を持つ元Sランク冒険者であるエルフの婆さんがマスターだ。
あの何人も恐れぬギルドの長老が・・・。
実力はSランクに匹敵するだろうに、何故、Eランクにした?
教会の上位の者の様だが・・・。
彼は何者なんだ?
俺は執務室に戻ると、ミヤキザ王国王都の冒険者ギルドに、通信の魔道具で連絡した。
「こちら迷宮都市リトットの冒険者ギルド、ギルドマスターのドンゴルです。」
「おお、ドンゴル久しいのぅ。どうしたのじゃ?緊急の用件かのぅ?」
「緊急です!そちらで冒険者登録をしたEランク冒険者タクミについてです。」
「タ、タクミ・・・。」
絶句するミヤキザ王国王都の冒険者ギルドマスター。
「どうしました?彼は何者です。何故Eランクなのですか!」
「タクミ様が望んだので、Eランクになったのじゃ。何者かは触れるな!」
「望んだからって・・・。冒険者の希望でランクをつけちゃダメでしょう!」
「そんな事は分かっとるわい。お前の師匠のサブマスターだが・・・。」
「師匠がどうかしましたか?貴方と師匠がいながらに、どうして?」
王都のサブマスターは、元Aランク冒険者の無双無敵の鬼軍曹、俺の師匠でもある。
何度扱かれた事か・・・。
「タクミ様に敵対した為、神罰で死んだぞ。妾も彼もタクミ様に殴り倒されて心がへし折られたのじゃ。これ以上タクミ様の正体を探るな!妾はまだ死にとうない。」
「死に・・・。」
「タクミ様に敵対したら、ギルドは消滅するぞ。国でさえあっと言う間じゃ。まさか、何かしたんじゃあるまいな?」
「いえ、怒られただけです・・・。
もしかしたら、ミヤキザ王国が混乱しているのは、彼によるものですか?」
「妾に聞くな!死にとうないのじゃ!妾はお前のギルドとは、無関係じゃからな!」
「へ?そ、それ程・・・。」
「いいか!タクミ様には一切逆らうな!最上級の接待をするのじゃ。」
「な、なんでそんな存在の者の連絡をくれないのですか!」
「何を言っとる!全ギルドに通知済みじゃわい!ちゃんと見ろ!いいか、タクミ様には出来るだけ関わるな、そして言われた事は全て最優先で対応するのじゃ。対応を間違うとお前の国が無くなるぞ!もう連絡を寄こすな!」
ブチッ。ツー、ツー・・・。
魔道具の通信が切られた。
な、なんなんだ?
俺は執務室の書類ケースを漁る。
あ!あった。
ミヤキザ王国王都のギルドからの緊急通知。
ー 特級アンタッチャブル ー
名前:タクミ、Eランク冒険者。
何人たりとも正体を探るべからず。
名前:リン、Eランク冒険者。
元勇者教聖騎士隊長。
上記2名からの要望は最上級最優先に対応するべし。
絶対に敵対してはならない。
上記を守らない場合、ギルド、国、大陸の存続が危ぶまれるので注意されたし。
「げっ!」
思わず声を出してしまった。
こ、これ程か!
王子の対応次第では、この国も危なかったのかああああああ。
これ以降ギルドでは、最上級最優先の対応を、職員全員で共有する事になった事を、タクミ達はまだ知らない。
そしてドンゴルの苦悩はまだ続く。