039 「原因不明の怪死」に震える公爵、バカ息子で牧場制圧へ!? 降臨した獣人族長に、俺の全剥ぎ武器を大盤振る舞い!
城塞都市ナキサガ、フカクオ公爵居城の執務室。
高級なソファーに深くふんぞり返り、貧乏揺すりをしながら苛立ちを隠せないフカクオ公爵が、横に控える宰相に噛みつくように問いかけていた。
「おい、どうなっている! ホワイト牧場の奴隷兵どもは、まだこちらに到着しないのか!?」
「それが……呼び地に向かわせたクトマモ子爵をはじめ、使いの者が誰一人として戻ってまいりませぬ。それどころか、様子を見に行かせた斥候や確認の兵までもが、ことごとく消息を絶つ始末にございます……」
「何だと……!? いったい何が起こっているのだ! 牧場で暴動でも起きたというのか!?」
「そこが分かりかねるのです。不思議なことに、牧場へ向かう一般の商人の行き来は、以前と何ら変わりなく行えているようなのです」
「……む? 商人が普通に通れるだと?」
公爵は不審げに眉をひそめ、すぐに邪悪な笑みを浮かべた。
「ふん、ならば簡単ではないか。商人の一団に我が方の『間者』を紛れ込ませ、牧場の中を内部から探らせれば良かろう!」
「ええ、当然そのように手配いたしました。――ですが、紛れ込ませた我が方の間者『だけ』が、なぜか牧場に向かう途中の街道で、一人残らず全員死ぬのです」
「し、死ぬ……!? 殺されたというのか!?」
「はい。しかも、外傷もなければ毒を盛られた形跡もない、全くの原因不明の死因(※ジジイ率いる暗部による完璧な暗殺)でございます……」
「な、何だと……うぬぬぬ」
原因の分からない不気味な排除システムに、公爵は背筋が寒くなるのを感じて身震いした。
「じ、じゃあ、牧場から戻ってきた一般の商人どもから、直接話は聞いたのか!? 中はどうなっていた!」
「はい。『特に変わった様子もなく、通常通りの応対だった』と聞いております。……しかし一点だけ、商人が持ち込む小麦や肉などの『食糧の購入量が極端に増えている』とのこと。さらに、牧場の中で働く亜人の数も、明らかに以前より増えている様子だったと……」
「むむむ……! 間者だけをピンポイントで殺し、食糧と人員を蓄えているだと……? ――間違いない、これは【謀反の兆し】だな!?」
「……現状、そのように判断するしかございませんな」
「くぅぅっ! 聖騎士リンの行方を探すだけでも手一杯だというのに、家畜同然の奴隷どもまでが色気づきおって……!」
公爵は怒りで顔を真っ赤にしながら、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「こうなれば力ずくで踏み潰すまでだ! 各地の寄子の貴族たちから騎士たちが到着し次第、我が息子である『アキラ』を総大将(旗頭)に据え、大軍を以てホワイト牧場を完全に武力制圧させる! 亜人どもを一人残らず血祭りにあげてくれるわ!」
「畏まりました。すぐに若公爵アキラ様への出陣の手配をいたします」
こうして、公爵家は残された最後の戦力を絞り出し、ホワイト牧場へと牙を向く準備を始めるのだった。
◇◇
その頃、ホワイト牧場には、ミズキやオクオたちの熱心なスカウト活動(と、圧倒的なホワイトな労働環境の噂)によって、周囲の森から続々と獣人や亜人の群れが集結しつつあった。
そんなある日、牧場のリーダーである俺の元に、ある大物の面会申し込みが届いた。
「タクミ様、我が『ジャガー獣人族』の族長が、一族を代表してタクミ様への直接の面会を申し入れております」
ノワの案内を受け、俺は応接室でその人物を迎え入れることにした。
ジャガー獣人の族長といえば、ノワの母親であるミズキの親だ。つまり、目の前にいるノワにとっては、母方の「おじいちゃん」に当たる人物のはずなのだが……。
ガラッ。
ミズキの先導で応接室に入ってきたその姿を見て、俺は思わず喉を鳴らした。
(……うわ、デカっ!!!)
そこに現れたのは、凄まじい威厳を放つ偉丈夫なジャガー獣人の男だった。
その身長は、2メートル弱あるノワよりも遥かに大きく、なんなら2メートルを優に超える我が陣営最高身長の聖騎士リンよりも、さらに頭一つ分は大きい。
壮年に差し掛かった年齢のようだが、その肉体は鉄塊のように引き締まっており、何よりその「落ち着いた黄金の瞳」から放たれる野生の威圧感が半端ではなかった。流石は森の支配者ブランドだ。
その族長は、右に娘のミズキ、そして左に同じくガッシリとした体格のジャガー獣人の若い男を従え、俺の前に進み出ると――驚くほど滑らかな動きで、3人揃ってその場に綺麗に跪いた。
「お初にお目にかかります、使徒タクミ様。私はジャガー獣人族の族長を務めております、【コーサカ】と申します。そしてこちらに控えるは、私の息子でありミズキの兄にあたる、【キョータカ】にございます。この度は、我々獣人や虐げられてきた亜行たちのために、多大なるご尽力をいただき、心より感謝申し上げます」
(お、見た目はめちゃくちゃ強そうだけど、言葉遣いはすごく丁寧で腰が低いんだな)
隣にいる兄のキョータカも、父親譲りの強靭な肉体を持っていて相当な手練れっぽいが、彼もまた静かに頭を下げている。話の通じる相手で一安心だ。
「俺はタクミです。よろしくお願いします。――俺は別にこの国の王族ってわけじゃないので、そんな風に跪かなくて結構ですよ。どうぞ、ソファーにお掛けください」
「はっ。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
コーサカは深く一礼して立ち上がると、俺の対面のソファーにその巨体を静かに沈めた。ミズキとキョータカの2人は、ボディーガードのようにコーサカの背後にピシッと直立する。
「ジャガー獣人の一族は『森の王者』だと聞いております。ミズキとも話したのですが、これから建国するにあたって、あの広大な森の勢力を一つにまとめていただくことを期待しているのですが……いかがでしょうか?」
俺が尋ねると、コーサカは深く頷き、力強い声で答えた。
「はい、全てはミズキから聞いており、重々心得ております。人間の王国にとってはただの共有地かもしれませんが、我らにとっては命の森。すでに森の主要な住民(部族)たちへ声をかけ、彼らも『いつでも戦える体勢』を整えさせました。使徒様のため、いつでも手足となって動きましょう」
「おお! それは素晴らしい。話が早くて助かります」
森の戦闘民族が丸ごと味方についたようなものだ。これほど頼もしいことはない。
「では、さっそくですが――装備を整えましょう。牧場の倉庫に、使える武器や防具が『大量に』眠っていますので、それを皆さんに丸ごと一族の分までお渡しします。それで軍備をガチガチに固めてください」
「おお……! 人族の優れた武具を、我らにそれほど融通してくださるとは……! ありがたく頂戴いたします!」
コーサカの瞳に、深い感激の色が浮かんだ。
まぁ、その大量の最高級武具って、全部ナキサガの公爵軍の巡回兵から下着ごと全剥ぎしたやつと、騎士宿舎の倉庫から根こそぎ盗んできた予備の山なんだけどね(笑)。
敵から奪った軍資金と武器をそのまま味方に投資して、自分は一歩も動かずに最強の私兵団を作っていく。これぞわらしべ長者式(?)の最強の組織運営よ。
「さて、オクオたちのオーク・ゴブリン亜人部隊、そしてコーサカさんが率いるジャガー獣人の森の精鋭勢力……。これだけの戦力が綺麗に揃ったわけだ」
俺はソファーの背もたれに寄りかかり、邪悪な笑みを浮かべた。
公爵のバカ息子が、こちらの謀反(笑)を疑ってノン気に出陣してくるらしいが……ちょうどいい。
奴らがこの牧場に近づいてくる前に、こちらから打って出て、まずは男爵が元々治めていたこの領地全体(拠点周辺)を完全に制圧・掌握してやろう。
苦労して国を造り、前線で血を流すのは彼ら亜人たち。
俺はその裏で、最強の武具を笑顔で横流ししながら、王様以上の絶対権力を握るブラックボスとして君臨する――。
「ククク、さぁて、楽しい楽しい『領地強奪戦(建国)』の始まりだぜ……!」
俺はアイテムボックス内の大量の剥ぎ取り武具を思い浮かべながら、不敵に喉を鳴らすのだった。




