021 全財産を拒む公爵騎士隊が襲来!「公爵を敵に回すな」とイキる16人を時間停止で全滅。――その装備、全部俺のだけど?
コボルトの家族を無事に逃がし終えた俺は、何食わぬ顔でマイ馬車へと戻った。
ガチャリとドアを開けた瞬間、待ち構えていたコウキが弾丸のような勢いで飛び込んできた。
「タクミ様ぁぁ! 本当に、本当に有難う御座いましたワンッ!」
「おっと。よしよし、無事でよかったな」
胸に飛び込んできたコウキの頭を、俺はあやすごとく、くしゃくしゃと優しく撫で回す。コウキは嬉しそうに尻尾をブンブンと振っている。癒やされるわぁ。
(……でもまぁ、よくよく考えたら、何も下調べせずにコボルトたちを解放しちゃったんだよな)
ふと、冷静な思考が頭をもたげる。 あの人間の商人や護衛の冒険者たちが、本当に極悪人だったとは限らない。コボルトを捕まえたのは別人の可能性もあるし、彼らはただ正当な依頼で運んでいただけの『善意の第三者』だった可能性だってある。
その上、俺はどさくさに紛れて金貨までたっぷり奪っちゃっているわけで……。
(……ま、いっか! 俺はこれからこの世界で『やりたい様にやる』って決めたんだ。悪者上等、奪われた者が悪いってことで!)
そんな風に内心で傲慢に開き直ってはみたものの、やっぱり少し後ろめたい。 結局、「前を走るあの馬車と鉢合わせしたら気まずいな……」と、わざわざ大きく迂回するルートを選んで進ませるあたり、俺ってつくづく小市民で小心者だなと苦笑してしまう。
さて、俺たちの目的地は、フカクオ公爵領における最大の都市『ナキガサ』だ。 すでに馬車は公爵領の敷地内に入って爆走しているが、中心地まではまだ距離があるらしい。
目標はただ一つ。あのカノンとの決闘で勝ち取った「公爵の全財産」を合法的にすべて毟り取り、そのままこの国を出国することだ。
地竜の馬車がしばらく快調に走っていると、再び御者席の小窓がパカッと開いた。
「タクミ様、前方から大勢の足音が近づいてきますワン!」
「ん? また魔物か?」
「いえ、今度は人間だワン。それも、かなり殺気立ってるワン……!」
コウキの報告に、俺は小さく息を吐いた。本当にこの世界は退屈させてくれない。 前方を見据えると、案の定、馬にまたがった十数人の武装集団――騎士隊が、凄まじい砂煙を上げながらこちらへと直進してくるのが見えた。
「そこの馬車ァ! 止まれッ!!」
鋭い怒号と共に、十数騎の馬が俺たちの馬車をぐるりと取り囲む。 御者席のリンが、静かに地竜の手綱を引いて馬車を止めた。
不穏な空気を感じ取り、リンとコウキが御者席から飛び降りる。俺とジジイ(ケント)も馬車から降りて地上に立った。
ケントが俺の背後にすっと寄り添い、耳元で低く囁く。
「……タクミ様。あれはフカクオ公爵お抱えの騎士隊ですな。かなり血の気が多い手合いです」
「なるほどね。……一応、聞いてみるか。どういったご用件でしょうか?」
俺はあえて、これ以上ないほど丁寧なトーンで尋ねてやった。
すると、騎士たちのリーダーらしき男が、馬の上から俺たちをゴミのように見下ろし、リンに向かって傲慢に言い放った。
「お前達が、聖騎士リンとその仲間で相違ないな?」
「いかにも。相違御座いませんが?」
リンが冷徹な声で答える。
「良し! ならば全員連行する! 逆らうな、手を前に出せ!」
「おいおい、ちょっと待てよ」
俺は思わず声を荒らげ、やれやれと首を振った。
「連行、連行拘束って……一体何の罪で俺たちを捕まえるんだよ?」
「つべこべうるさいッ! 平民風情が口を挟むな!!」
リーダーの男がいきなり馬から飛び降り、問答無用で俺の顔面に拳を突き出してきた。
――だが。
ガキィィィン!!
「タクミ様に、気安く触れようとするな」
リンが左手から一瞬で聖盾を出現させ、男の拳を完璧に受け流す。その表情は完全にブチギレており、周囲の温度が凍りつくほどの凄まじい威圧感を放っていた。
「チッ、抵抗するか!」
「当たり前だろバカ。おい、みんな、やれ!」
俺の言葉を合図に、リンは聖剣を引き抜き、コウキとケントも鋭いナイフを逆手に構えて臨戦態勢に入る。 俺は素手のままだが、両手には常に『魔王の手甲』を装備済みだ。
「ほう……! 王家の聖騎士ともあろう者が、公爵家の正当な執行に対して牙を剥くか! 面白い、やむを得ん、全員斬り捨てろ!!」
騎士のリーダーがニヤリと醜悪な笑みを浮かべて剣を抜くと、それに応じるように、周囲の15人の騎士たちも一斉にジャキジャキと武器を引き抜いた。
その様子を見て、俺はすべてを察してカッカッと笑った。
「はは~ん。成る程ね。読めたわ。お前ら、俺達が公爵の全財産を正式に受け取る前に、ここで『不慮の事故』として殺しちまおうって腹づもりだな? 俺達が武器を構えて抵抗するのも、最初から想定通りってわけだ。正当防衛を主張するためにさ」
「ふん、気づいたところで遅い! たかが聖騎士風情が、公爵家を敵に回して無事でいられると思うなよ!」
リーダーは剣の先端をリンに向け、勝ち誇ったように怒鳴る。
だが、俺の視線はその騎士たちの装備へと向けられていた。
「なぁ、そのお前らが着てるピカピカの武器も防具も、公爵家からの『貸与品』だよな?」
「はあ!? 何を当然のことを――」
「だったらさぁ」
俺は口の端を吊り上げ、極上の邪悪な笑みを浮かべた。
「その装備一式、もう**『俺の物』**だな。公爵家の財産はすべて俺の所有物になるんだから。うん、全部ありがたく貰い受けるわ」
「はぁ!? 何を馬鹿な戯言をぬかしてやがる! 脳まで腐ったか平民がッ!! ――者ども、かかれええええ!!」
騎士達が一斉に地面を蹴り、殺意剥き出しでこちらへ踏み込んでくる。
(はい、お疲れ様。じゃあ、俺のターンね)
俺は心の中で静かに呟いた。
――【時間停止】。
一瞬にして、世界から色彩が失われ、突撃してくる騎士たちの凶悪な表情が、空中に浮いた砂埃とともにピタリと停止する。
俺はアイテムボックスから、先ほども大活躍した王家秘蔵の『雷の杖』を取り出した。
「全員で16人か。時間停止中のMP消費は持続時間に比例するからな。時間が短ければ短いほど、消費は最小限で済む。……よし、サクッと終わらせよう」
静止した世界の中を、俺は電光石火のスピードで駆け抜ける。 突撃の姿勢のまま固まっている騎士たち16人の懐へと次々に飛び込み、出力を少し強めた『雷の杖』の先端を、一人一人の脇腹や首筋にリズミカルに押し当てていった。
トントン、トントン、と、まるでスタンプを押すかのような作業だ。 全員に雷撃のエネルギーを仕込み終えるまで、およそ1分。
「よし、コレクション(武器・防具)の回収は、気絶させてからゆっくりやるとするか」
俺は元の位置へと戻り、杖を構えた姿勢のまま、不敵に指を鳴らした。
――時は、再び動き出す。
バチバチバチバチバチィィィッッッ!!!!
「ぎゃああああああーーー!?」
「がはっ――!?」
次の瞬間、決闘場(街道)に凄まじい落雷のごとき爆音と紫電が炸裂した。 突撃してきたはずの16人の騎士たちは、何が起きたのかを脳で処理することすら許されず、全身を激しい電撃に焼かれて一斉に白目を剥いた。
ドサドサドサドサッ!!!
鎧の重々しい金属音と共に、16人の精鋭(笑)が、文字通り一瞬にして地面へと崩れ落ち、ピクピクと痙攣しながら完全沈黙したのだった。




