002 レベル1の元引きこもり、ネトゲ感覚で国家最高戦力を「ワンパン」で消し飛ばしてしまう
一国の王女や教主に対して、あまりにも不遜なタメ口。
元の世界の俺を知る奴が見たら、目玉を剥いて驚くに違いない。
何せ俺は、重度のコミュ症だ。
リアルな現実世界では、他人の目を直視することすらできず、話しかけられたら「あ、は、はい……」と消え入るような声で縮こまることしかできなかった。
もしチート能力が無ければ、今回も王族の威光にビビり散らかし、言われるがまま「嫌々ながらもブラック勇者を引き受けていた」はずだ。
だが、今の俺には、神様直伝のチート能力がある。
その事実が、俺の心のブレーキを跡形もなく破壊し、完全に『開き直らせて』いた。
(リアルじゃ喋れなくても……オンラインゲームのチャットじゃ、俺は最強の煽りスキル持ちだったんだよ!)
文字通り、ここは「異世界」だ。
なら、もう全部オンラインゲームの世界だと思い込めばいい。
リアルな現実のルールなんて知るか。これからは誰に気を使うこともない。我慢も自重も一切捨てて、やりたいようにやらせてもらう!
「おい、無礼にも程があるぞ、下賤な異界人がァ!!」
我が物顔で不遜に言い放つ俺に、ついに我慢の限界を超えたらしい騎士が、鋭い金属音を響かせて剣を抜いた。
この世界に召喚された勇者は、召喚直後は「レベル1」から始まる。
かく言う俺も、現在のステータスはレベル1だ。
先ほど、教主の長々とした退屈な世界説明をガン無視して、脳内で自分の『ステータス画面』を確認したから間違いない。
こちらに殺気立って駆け寄ってくる騎士は5人。
脳内UIの鑑定スキルが、奴らのレベルを無慈悲に弾き出す。
全員がレベル30オーバー。そして、先頭を切って突っ込んでくる騎士隊長のレベルは「47」だ。
通常の召喚直後の勇者なら、1秒でコテンパンに叩きのめされ、従順に調教される絶望的な戦力差。
だが――。
「出会い頭に不敬を働いた罪、その身で購えッ!」
騎士隊長は剣を逆手に持ち、刃ではなく『剣の腹』で俺を叩き伏せようと振り下ろしてきた。
一応、まだ殺す気は無いらしい。生かして捕らえ、奴隷のように扱うつもりなのだろう。
(んじゃ、俺も『死なない程度』にしてやるよ。ネトゲでも、PKシステムは肌に合わなかったしな)
「――オラァッ!!」
振り下ろされた鋼鉄の長剣に対し、俺はただの「左フック」を放った。
肉体強化のスキルが乗った俺の拳が、剣の側面に激突する。
ズドォッ!!!
と、ホール全体に爆音が轟いた。
騎士隊長が命の次に重宝していたであろう業物の長剣が、まるでガラス細工のように粉々にへし折れる。
「なっ――!?」
驚愕に目を見開く隊長。そのガラ空きになった胸板へ、間髪入れずに右のストレートを叩き込んだ。
ドッゴォォォン!!
「がふっ……!?」
内臓をブチ撒けるような悲鳴と共に、鎧を着た大男の身体が木の葉のように吹き飛んだ。後ろから駆け寄ってきた騎士の一人に激突し、二体まとめて石壁まで転がっていく。
「そ、そんな馬鹿な……!? 剣が、一撃で……!?」
壁に叩きつけられ、胸の鎧を歪に凹ませた騎士隊長が吐血しながら驚愕の声を漏らす。
残る騎士は3人。
隊長の無惨な姿を見て、奴らの目が一瞬で血走った。
「この化け物がぁぁッ!!」
一番右の騎士が、今度は手加減なしに剣を真一文字に、文字通り俺の首を「草薙」に払ってきた。
刃がギラリと冷たく光る。カウンターで左足の横蹴りを叩き込んだ。
バキィッ!
鈍い破壊音が響き、剣を持つ騎士の指が文字通り粉砕されて剣が床に落ちる。
だが、その瞬間、俺の背筋に冷たい汗が流れた。
今、奴が振るった剣の刃は、完全に俺の首元を狙っていた。掠れば首が飛んでいた。つまり、生かすのを諦め、明確に『俺を殺しにきた』のだ。
(あぁ、そうかよ。そっちがその気(殺意)なら――)
一瞬の躊躇も、コミュ症特有の気弱さも、脳内のリミッターと一緒に消し飛んだ。
(こっちも《殺》ったろうじゃねえか!!)
「死ねッ!!」
回し込みの遠心力を乗せ、右足での後ろ回し蹴り。
手加減無し。チートによる身体強化を上乗せした、渾身かつ最大の威力を、奴の顔面に叩き込む。
――ドブシャァッ!!!
ホールの美しい大理石に、おぞましい破裂音が響き渡った。
人間の頭部にかかるべきではない質量。騎士の頭が、文字通りトマトのように弾け飛んだ。
首より上を完全に失った騎士の身体が、一瞬だけ糸の切れた人形のように静止し、ドサリと床に崩れ落ちる。
切断面となった首からは、噴水のように真っ赤な生血がドクドクと流れ出し、周囲を赤く染めていく。
「うっ……げっ……」
あまりにも生々しい、リアルな死の光景。ゲームのグラフィックとは違う、生暖かい鉄の臭い。
一気に胃の底から酸っぱいものが込み上げてくる。
(……あー、ちょっとやりすぎた。気持ち悪っ。後悔……)
吐き気を必死に堪えながら、俺は足元に落ちていた、まだ血のついていない綺麗な剣を拾い上げた。
残る二人の騎士は、もはや剣を構えることすら忘れ、ただ呆然と、頭のない同僚の死体を見つめて立ち尽くしている。
その時、俺の脳内に、あまりにも無機質なシステムメッセージが響き渡った。
『経験値を獲得しました』
『レベルが2に上がりました』
『レベルが3に上がりました』
『レベルが4に上がりました』
『レベルが5に上がりました』
網膜の端で、ステータス画面の数字がピコピコと跳ね上がる。
一気に4つもレベルが上がった。
(……はは、マジかよ。人を殺しても、ちゃんと経験値が入ってレベルが上がるんだ)
ということは、何だ?
この世界のシステムは、この世界の神は、俺がこいつらを『間引く』ことを、正当な行為として認めているってことじゃないか。
顔を上げると、教主のレンと王女のナナミが、あまりの恐怖に腰を抜かして床にへたり込んでいた。さっきまでの尊大な態度はどこへやら、口をパクパクと金魚のように動かしているが、声になっていない。
「しょ、召喚直後の勇者は……レベル1のはずなのに……何故、こんな……馬鹿なことが……っ」
壁際で胸を押さえ、虫の息になった騎士隊長が、血を吐きながら絶望の呟きを漏らした。
俺はそんな哀れな敗北者たちを見下ろし、拾った剣の切っ先を、ゆっくりと教主の喉元へと突きつけた。




