178 袈裟懸けの事情
レッドデビルベアの特殊個体である袈裟懸け と対峙している俺達。
レッドデビルベアもデビルベアの上位種だから、袈裟懸けはかなり強い。
俺が言い分あるかと聞いたら、「クアクア」と何やら喋りだした。しかし、何を言ってるか分からない。
「何と言ってるんだろう?」
独り言を呟く。
「『人間の方から襲って来たから、追い払った』と言ってるでござる」
とゴブリンキングのゴブマルが俺の横で教えてくれた。
「ん? ゴブマルって、袈裟懸けの言葉が分かるの?」
「分かるでござる」
「おお! 凄いじゃん! 通訳してくれ」
「御意」
「俺達は君の事を『袈裟懸け』と呼んでいるが、君に名前はあるのかい?」
「『名前はない』」
「じゃあ、取り敢えず袈裟懸けと呼ばせて貰おう」
「『勝手にすれば良い』」
「さて、袈裟懸けは1人なのかい? それとも仲間を守って戦っていたのかい?」
「『仲間がいる。人間が仲間を襲った。だから戦った』」
「成る程、ゴブリン達と一緒だな。人間が袈裟懸け達のエリアに進出してきて、戦闘になったんだろう」
「『そうだ』」
「しかし、人間達には袈裟懸けよりも強い者がいるし、数で責めてくれば仲間が殺されるだろう。いつかは負けるぞ」
「『分かっている。だが、逃げる当ても無い。戦うしかないのだ』」
「ふむ、冒険者と戦ってた時、実力を隠していたのは何故だ」
「『前に知り合いのオーガに聞いた。強いと知られると強い人間が現れる。出来るだけ実力は隠した方が良い。』」
「成る程ね。そのオーガは何処に行った?」
「『サトウ国へ行った』」
「そうかぁ。袈裟懸け達は何故行かなかった?」
「『無理だ。俺以外は話せない』」
「話せ無くても大丈夫だ、袈裟懸けが望むなら受け入れるが、どうする?」
「『お前達はサトウ国の者か?』」
「そうだ」
「ちょっと待ってください! 袈裟懸けは討伐依頼の対象です。それに目の前で冒険者が殺されたんですよ!」
剣聖ルイが会話に割り込んで来た。
「それがどうした? 人間の勝手な都合で討伐対象にして、住み家を奪おうとしてるんだぞ。俺は意思疎通が出来る者は、例えモンスターでも差別せず、会話の結果で判断する」
「しかし、冒険者として依頼は達成しないと……」
「ルイ、人間に置き替えてみろ。もし袈裟懸け達が人間だったらどうする? 盗賊討伐に来てみたら盗賊じゃ無くて、少数民族が自分の住み家を守っていたとしたら、お前は依頼を達成するため、少数民族を殺すのか? 俺は依頼が間違ってると判断して、少数民族を助ける」
「しかし、サトウ国のゴブリン達も殺された者がいるのだろう?」
ルイは同行していたゴブリン達に声を掛けた。
「我々はタクミ様に従う。それに事情を聞けば、我々が人間に住み家を追われた時と同じだ、タクミ様が了承してサトウ国に来るなら、受け入れるのになんの問題も無い」
「はぁ、依頼未達成になるよぉ……」
「ははは、心配するな俺は特級アンタッチャブルに指定されている、なんのお咎めないさ。仮に冒険者資格が剥奪されても良いだろう。その時はサトウ国の冒険者資格を発行してやる」
「そ、そうですね……」
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