なんでもこなす俺の友達が、実は転生者らしい
思い立って書いてみました!
異世界転生、転移が主人公の作品はテンプレだけど、ならば別の視点から書いてみようと、思いました!
ちょいと長めですがどうかお付き合いください!
「てやっ! たぁっ!」
今日も朝から、元気な少年の声が響く。それはおれのものではなく、この場にいるもう一人のものだ。
手には木刀を握り、素振りを繰り返す。それだけの行為を、彼は一生懸命に行っている。その努力が、ちゃんと実を結んで彼の力になっている。
彼はすでに、この村で一番の実力者となっていた。
「精が出るなぁ、お前も」
「ふー……まあ、いくら鍛えても損はないからな」
「って言っても、お前には意味ないんじゃね? なんたって、この村で魔法が使えるんだから」
木刀を振っていた彼は一旦動きを止め、額を流れる汗を服の袖で拭う。その姿は、もうすぐ10歳になるとは思えないほどに色っぽい。
そんな彼が扱えるのは、なにも剣術だけじゃない。この世界では珍しくなくても、この村では珍しい『魔法』……それを扱えるのは、彼と……
「いやいや、魔法はお前だって使えるだろう? アマト」
……このおれ、アマト・ヴランナだけだ。魔法が使える……それだけでおれ達二人は村の大人からちやほやされたもんだ。だが、それも最初だけ。
魔法が使える、それは確かにすごい。誰にでもできることじゃない。だが……魔法を使えるのが二人だけということは、自然と『比べられてしまう』ということに他ならない。
比べられてしまうとは決して悪いことではない。もちろん大人達にも悪気はないんだろうし、それを感じるのはきっとおれだけだ。けど、どうしたって感じてしまう。
『おれと彼の魔法の力の差は、大人と赤子ほどの差がある』
実際にそう言われたわけではない。この村には、そんなことを言う人なんていないし、もちろん彼から直接言われたわけでもないのだ。
ないのだが……おれが一番、わかってる。おれと彼の魔法の力は、とんでもなく差があるものだと。
村の大人達は直接言わない。だが、口にせずともわかっている。二人のうち一人はあんなにすごいのに、なんでもう一人はあんなにちっぽけな力なのか、と。
まるで実際にそう言われているような、そんな感覚が常にまとわりついている。
「けど、お前の魔法には敵わないよ。それはよくわかってるからさ……せめて剣術でもって、思ったんだけど」
思えば、彼との出会いは不思議なものだった。物心ついた頃、すでに彼とは知り合っていて……おれは、自分にしか使うことのできない魔法を、彼に自慢していたものだ。
すると、どうだろう。特にコツを教えたわけでもないのに、魔法を使えなかった彼は、みるみる魔法を覚え……遠くないうちに、おれの力を追い抜いた。
もちろん、追い付こうと努力した。が、そもそも魔法を使える人間がいないこの村では、自分で考えてやるしかない。なにが正解で間違いなのか、わからない。
次第に、おれは彼には追い付けないと悟った。だから、せめて剣では負けないようにとこちらを頑張った。頑張って頑張って頑張って……彼には、追い付けなかった。
「けど、アマトだってすごいよ。大人だって、アマトには敵わない」
「そりゃお前もな」
魔法で負け、剣で負け……性格も、容姿も、勝てるとこはひとつだってない。温厚で誰にでも優しく、よく気が利く。この辺りでは珍しい黒髪黒目は、それだけで目を引く。
まさしく、敗北だ。おれはなにをしても、彼に勝てる日は来ないだろう……11歳にしておれは、その想いを抱いていた。
ここまで勝てないと思い知らされれば、彼に対する逆恨みもない。しかも、彼はおれのことを友人……いや親友として、接してくれてる。
そんな相手を、どうして恨むことができようか。
「オレのは、アマトの努力に比べたら……」
「そんな謙遜すんなって、アンク」
「いや、まあ……こういうのって、転生者に対する付属チートみたいなもんだからな」
ただ、たまに彼……アンク・ヴライドは、よくわからない言葉を言う。ちーとだとか、テンセイだとか……
だが、アンクの両親は普通の人だ。単に、アンクが親からいろいろなことを教えられているだけなのかもしれない。
……いろいろ教えてる、か。
「……アンクは、この先どうするんだ? そんだけ物知りだし、魔法や剣の腕も高いし、やっぱり、村を出るのか?」
「あぁ! やっぱりこういう世界に生まれ変わったには、冒険者として魔物を倒してだなぁ……」
「生まれ……変わっ?」
やっぱりアンクは、おかしなことを言う。この面白いところが、おれがアンクを敵視せずにいられる理由なのかもしれない。
「そんときは、アマトも一緒な!」
「……えぇ!?」
予想だにしなかった台詞を続けられ、おれは焦る。その驚愕に、アンクはキョトンとした様子だ。
「なにを驚いてんだ?」
「そ、そりゃそうだろ。だって、おれなんか」
一生をこの村で過ごす、とはさすがに思っていない。だが、冒険者になるなどと考えたこともなかった。
しかも、アンクが誘ってくれるなど。
「オレはずっとそのつもりだったぜ? それに、アマトとオレならどんな冒険者よりも強くなれるさ!」
「そ、そうかな……」
「そう!」
不思議だ……不安だった思いも、アンクの言葉で解されていく。おれなんかに、冒険者は無理だと思っていた。でも、おれでも、おれなんかでも、冒険者になれるんだろうか。
そう、思い直したところで……
「おーい! アンクー! アマトー!」
耳に届くのは、聞きなれた少女の声。
こちらに向けて走ってくるのは、美しい金髪を揺らし、大きく手を振る少女だ。
「おー、ナーニャ!」
手を上げ答えるアンクに倣い、おれも同じく手を振る。今目の前にたどり着いた少女は、ナーニャ・プランスだ。おれの幼なじみ……と言いたいところだが、小さな村なのでほとんどの子供が幼なじみみたいなものだ。
村のアイドル的な存在で、オレより二つ下なのにしっかりしている。年齢よりも大人びて見えるのは、彼女には母親しかおらず、その母親も体が悪いため、家のことをほとんど一人でやっているからだろう。
そんな彼女は大人から、人気が高い。さらにはモテる。同世代の男子からは、ほぼみんな彼女に惹かれていると言ってもいい。
そして、そんな彼女は……
「アンク、はい」
「お、悪いな」
ナーニャが差し出したのは、タオルだ。それはここで訓練していたアンクのために持ってきたもの。それを受け取ったアンクは、笑顔を浮かべて汗を拭う。
その、アンクの姿を見つめるナーニャの表情は、おそらく……
「はい、アマトも!」
「えっ? あ、ありがとう」
ふと、おれにも渡されるタオル。それを受け取り、顔の汗を拭いつつ彼女を見る。
……ナーニャは、優しい。誰にでも優しい。だからこそ人に好意を向けられる。本人がその好意に気づいているかは、ともかくとして。
そして、そんな彼女に向けられる気持ちにアンクは気づいているのかどうか……それは、わからない。
「二人とも、毎日すごいわねー。魔法まで使えるのに、剣の訓練までするなんて」
「まあー、魔法が使えても体を鍛えてないとな。魔法が使えない魔法使いはとたんに弱小化ってのは異世界ものではテンプレだしな」
「?」
やはり、アンクは時々わけのわからないことを言う。
「ま、冒険者になるなら鍛えてて損はないってことだよ!」
「そう……ねえ、その時が来たら、私も一緒に行っちゃ駄目かな」
「えっ」
「はっ」
突然のナーニャの申し出に、おれとアンクの声が重なる。
アンクも、さすがに驚いてるんだな……って、そうじゃなくて!
「ほ、本気!? ナーニャ!」
「うん。前から思ってたの、私も、冒険者として世界を見てみたいって」
思いもよらない、ナーニャの告白。まさか、彼女がそんなことを考えているとは思わなかった。
だが、ナーニャが冒険者になる……つまり村から出るのは、問題がある。それは……
「けどお前、おばさんはどうするんだよ」
そう、ナーニャのお母さんだ。体が弱く、今では家のことを、ほとんどナーニャがやっている。お母さんを残して、家を出るなんて。
「それなんだけどね……後押ししてくれたのは、お母さんなの」
「おばさんが?」
「うん。私の気持ちに気づいてたみたいで……自分のことは気にするな、村の人と協力していくから大丈夫だって」
ナーニャの決意……その後押しは、誰であろうナーニャのお母さんであったのだ。
おれすら気づいてなかった、ナーニャの気持ち……冒険者になりたいという気持ちを、おばさんには気づかれていたらしい。そしておばさんが、自分のために娘の将来を奪いたくないと、後押しをしたのだ。
隠していた気持ちに気づくなんて、さすがは母親だなぁ。
「まあ、オレは本人がいいならいいけどさ。アマトはどうだ?」
「断る理由がないよ」
冒険者というのは、厳しい職業だ。だけど、それだけの理由でナーニャの、冒険者になりたいって夢を否定したくはない。
「やった! 嬉しい……夢だったけど、実は一人は心細かったの」
「おれも、アンクに誘われなきゃ行こうと思わなかったよ」
「なら、決まりだな。この三人で、冒険者になろうぜ!」
おれと、アンクと、ナーニャと。まだ子供だった三人が、冒険者になることをこの日、誓いあった。
まさか自分が冒険者になろうと思うだなんて、考えたこともなかったな。
「じゃ、それまでにナーニャも鍛えないとな!」
「お、お手柔らかに……」
「なあに、こういうとき、心優しい女の子は回復役って相場が決まってんだ。だから、魔法覚えよう!」
「や、やさっ……」
またアンクが変なこと言ってる……しかも、ナーニャは別のことに気をとられて顔を赤くしている。
さらに、魔法を覚えようだなんて……簡単に言ってくれるな。これまでなんの訓練もしてこなかった子供に、素人が魔法を教えようなんて。そんなこと、できるはずない。
……ただ……アンクの目を見ていると、不可能じゃないんじゃないかと思えてくる。やる気に満ち溢れた、どこか楽しそうにすら思える瞳。
「やっぱり、敵わないな」
不可能だと、一瞬でも思ってしまった。そう思ってしまった時点で、アンクにはやっぱり敵わないなと、そう再認識するんだ。
「よぉし、じゃあ始めるぞ! まず、魔法のコツだけど……」
「えぇ、今から!?」
「アンク、ちょっと落ち着きなって」
性格はバラバラ、それでも気のあう二人と……この日を境に、いっそうに身に力を入れて、訓練に励んだ。
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そして、十年後
「はぁああ!!」
ザクッ……!
銀色に光る金属が、宙を舞う。それはなにかを切り裂いた音を孕み、緑色の液体を辺りに撒き散らせる。
細身の剣が、魔物の首を切り落とし……緑色の体液、いや血を、噴き出したのだ。
「アマト!」
「はいよ!」
名前を呼ばれた俺は、同時に周囲の魔物を蹴散らしていく。この十年毎日鍛えていた魔法の威力は、この程度の魔物は簡単に葬ってしまう。
イメージした火の玉が一つ一つ、複数の魔物を焼き消していく。やがて、二十を越える魔物の大群はあっという間にいなくなって……
「ふぅ」
「終わった終わった。お疲れアンク」
「おう、アマトこそな」
周囲の安全を確認してから、アンクと手を叩く。
あの約束の日から、十年が経った。あの日の約束通り、俺とアンクは冒険者となり、チームを組んで魔物退治の日々を送っていた。
え、二人だけかって? いやいや、そんなことはない。
「おーい! アンクー! アマトー!」
少し離れたところから手を振るのは、ナーニャだ。あれからナーニャも訓練を重ね、冒険者として同じチームで活躍している。
世界を見てみたい……その彼女の夢の第一歩は、叶った。しかも、嬉しいおまけ付きで。
「あ、大変! アマト、怪我してるじゃない!」
「え、あぁ大丈夫だよ、これくらい……」
「だーめーでーすー。私の目の黒いうちは、小さな怪我だって見逃してやらないんだから」
言って、彼女は俺の右腕に手をかざしてくる。すると、手のひらを温かい光が包み込み……右腕の傷口を、覆っていく。
時間にして数秒、そのうちに……傷口は、ふさがった。
「はい、これでオッケー!」
「あ、ありがとう……」
「?」
彼女は、このチームの回復役として、非常に大きな貢献をしてくれている。驚くことに、魔法のまの字も知らなかった彼女は、回復魔法の達人となっていた。
アンクの教えの賜物か、ナーニャの素質の問題か……彼女は、魔法を使えるようになった。それも、魔法使いの中でも珍しい、回復魔法に特化したタイプだ。
そんな彼女は、小さな怪我であっても見逃すことはない。その気遣いは嬉しいんだけど……いちいち側で、そんな笑顔を振り撒かれると心臓がもたない。
「どうかした?」
「な、なんでも」
子供の頃から人気者だった彼女は、大人になってますますの人気を増した。子供にはなかった色気を得たことが、最大の要因だろう。
スタイルは抜群で、村を出る直前までおばさんが、悪い男に引っ掛からないか心配していたほどだ。
ま、そんな輩の対処は俺とアンクに任せてくれ、と言ったら安心していたけど。
「アンクは大丈夫? 怪我ない?」
「あぁ、大丈夫さ」
……俺はともかく、魔物を一蹴するアンクならば柄の悪い男など、口ほどでもないだろう。
「すごいなー、アンクは。ずっと剣で戦ってたのに、傷一つないなんて」
「それは俺への当て付けかい?」
「あ、そ、そんなつもりじゃなくて!」
ずっと剣で接近戦をしていたアンクに比べ、俺は魔法による援護が多い。なのに、アンクよりも傷が多いのはどういうことか。
少し拗ねたような俺の言葉に、ナーニャは慌てたように首を振る。
「アマト、あんまナーニャをいじめんなって」
「はは、悪い悪い。さっきのウソウソ」
「もー!」
ぷくっと頬を膨らませるナーニャに、俺もアンクも笑う。さっきの言葉に、ナーニャの悪意がないのは知ってる。
だから、その言葉をそういう風に取ってしまったのは、単に俺の心が弱いからだ。
「けど、オレの怪我がないのはアマトがフォローしてくれてたからだよ。じゃなきゃ、あそこまで積極的に戦えなかった」
「フォローどうも」
「ほんとのことさ」
アンクにも悪気がないのは、わかってる。むしろ本気で、アンクは俺のことを評価してくれている。
実力じゃ敵わないのはわかってる。割りきったつもりだったけど、やはりアンクとの差に、思うところがあるのは俺がまだまだ弱い証拠だ。
アンクは強い。だから、ナーニャがアンクを見る目が他と違うのは、当然のことだと言える。
「オレはアマトを尊敬してるぜ? なんせ俺のは、異世界転生にありがちなチート付与の結果みたいなもんだからな。努力でここまで強くなったアマトは、オレなんかよりよっぽどすごい! 自信を持ってくれ!」
「お、おう……」
アンクが俺を持ち上げるのは、同情かなにかだと、思ったこともあった。だが、アンクは本気で俺のことを、すごいと……尊敬していると、言ってくれている。
その言葉の中に出てくる単語が、いまいちよくわからないんだが……
「なあアンク、そのイセカイとかちーととかってのは……」
「あぁ、前に話したろ? オレはこの世界の人間じゃなくて、違う世界から来た人間なんだ。って言っても、その世界じゃ死んだから、こっちの世界に生まれ変わったって言った方がいいけどな!」
「は、はぁ……」
子供の頃から口にしている、聞き慣れない単語。その意味を理解したのは、最近になってようやくのことだ。もちろん、理解と納得は別のところにあるが。
俺の友達アンクは、他の世界から来た、異世界人だと言う。正確には、前世にその世界で死に、この世界で二度目の命を与えられた『テンセイシャ』だと。
なにを言っているのか当初は意味がわからなかったが、今では意味はわかる。わかるが……それを信じろと言われて素直に信じるほど、俺は人間できてない。
「そりゃ、知らない言葉を知ってたり、昔から妙に大人びてたりしてたけど……」
「あ、一応これ、誰にでも話すわけじゃないからな? 信用できる二人だから、話したんだから!」
とはいえ……こんな話、誰も信じないだろう。基本的に相手を否定しない優しいナーニャでさえ、困惑しているのだし。
けど……アンクが嘘をついてるとは、思えない。それに、たとえアンクが別の世界からの生まれ変わりだからって、なんだというのだ。
俺はアンクの……
「アンク……俺は……」
「アンク様ー!」
「ぶべらっ!?」
親友……と、かっこよく決めるつもりが、横からなにかがぶつかってきて衝撃で吹っ飛ばされる。受け身もなにも取れなかった俺は、派手に地面に転がってしまう。
「アマトー!?」
「あぁアンク様ぁ! 寂しかったよぉ!」
「ら、ラフェリア……!」
いてて……鼻打った……!
起き上がり、俺を突き飛ばしたものの正体を確認すると……そこにいたのは、ラフェリアだ。俺達のチーム四人目のメンバーで、銀髪を短く切り揃えた、美しい女性。
年は俺達と同じくらいだろう。少なくとも外見は。
「アンク様ー、アンク様ー!」
「く、くるし……!」
彼女の頭には、犬の耳が生えている。ただし、一般的な犬のそれとは違い、垂れている。いわゆる犬の獣人だ。
アンクに抱きつく彼女は、以前その身を売られそうになったところを助けられた……アンクに。それ以降、アンクのことを慕い、こうして過度なスキンシップを計っている。
羨ましくある光景だが……アンク曰く、胸がないので骨が当たって痛いらしい。贅沢ものめ。
「ちょっとラフェリア! 離れなさいよー!」
「いやいやー! だってアンク様と離れてて寂しかったんだもん!」
「たった一時間にも満たないでしょーが!」
鼻の利くラフェリアは、魔物の住みかを探して潰してくる係を担っていた。そのため、この場から離れていた。
彼女一人に魔物の住みかを任せた……わけではない。
「ら、ラフェちゃーん! 待ってよぉー!」
ぶるんぶるんぶるん
巨大なそれを揺らしてこちらに走ってくるのは、五人目のメンバーであるチャール。気弱な正確だが、その実人間とリザードマンの混血だと言う。
つまり皮膚は硬く、口から火も吐く。また、怒らせると怖い。
「お疲れ、チャール」
「あ、アマトさん。疲れましたぁ」
獣人であるラフェリアと違い、リザードマンの血があるとはいえ混血のチャールは体力がない。まあ、本人のスタミナ不足が大きな原因だが。
ちなみにこの子とは、以前『魔獣を倒す』というクエストをやったときに出会った。同じ冒険者としてではなく、親を殺された被害者として。
魔獣とは、知性のある魔物のことを総称する。
聞くところによると、巨大な魔獣がリザードマンの群れを襲い、チャールの親共々群れは全滅してしまったらしい。チャールは、人との混血が珍しかったのか生かされていた。
それを助けたのが、やはりアンクだ。詳細は省くが、チャールもラフェリアも、アンクに助けられてチームに加入した。
そんな二人がアンクに好意を持つのは、まあ当然なわけで……
「ぐぐ……ぷぁっ! はぁ、はぁ……」
「もうラフェリア! アンクとくっついちゃ駄目だって言ったのに!」
「えー、なんで? 私はアンク様のこと大好きだしいいじゃん!」
「あ、アンクさんのことなら、わ、私も……」
パーティーメンバー五人……これが、今の俺達の日常だ。
やたら強くモテる、アンク。彼との出会いが、この場にいる者の運命を変えた。俺も含めて、ね。
イセカイからテンセイしたとか、そんなことを言われても素直には受け止められないけれど……それでも、アンクはアンクだ。俺の大事な、親友だ。
「と、とりあえずこれで、クエスト完了だな。ギルドに帰ろうぜ。ほら、アマト」
「あ、あぁ」
伸ばされたアンクの手に掴まり、立ち上がる。その際三人の視線が気になったが……見なかったことにしよう。
この世界で冒険者として、生きていく。仲間と、イセカイのテンセイシャと、一緒に。これからも。