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妄想設定作品集二  作者: 蒼和考雪
world dragon
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4


 グレフとの話の後、色々と用意されていた書類を信行が書いていく。書いていくと言っても、内容を確認したうえで名前を書くだけだ。その内容も複雑怪奇で現代の書類に照らし合わせてもよくわからないことも多く内容をわからないまま名前を書き契約していくことになるものも少なくない。異世界ゆえの特殊な世界法則や法律、それ以外にも種族の違いやこの世界特有の世界事情など様々な要因があるからだが、信行にとっては相当不安になる内容である。

 しかし名前を書いてくれと言われて書かないわけにもいかない。そうしないとこの世界に残ることは出来ない。彼の確認した書類の一部は戸籍関連や金銭のやり取りに必要になるカードみたいなものに関するものであったりといろいろだ。そんな内容の中で彼に対する保護に関しての内容もあるからこそ不安は残るものの書くことに前向きになれるのである。


「これくらいでいいだろう。あとは書類の提出と審査……少し時間がかかるな。最終的な決は私になるのだが、中間があるからな。その間、彼女にこの世界の事……これからに必要なことを聞くといい。私は書類を提出して仕事に戻る。流石にずっと君と話しているわけにもいかないのでね」

「それでは蔵嶋様、説明に必要な設備のある部屋に案内するのでついてきてください」

「あ、はい……」


 後ろに控えていた女性が信行を外に連れ出し先導する。階段を下り一階まで下りて廊下を案内される。その最中に信行が気になっていることがあったので先導する女性に質問をする。


「あの」

「はい、何でしょう?」

「……その、お名前なんですか?」


 その時女性も初めて自分が自己紹介していないことに気づく。今までただ信行の案内をして背後に控えているだけでそういった機会がなかったためでもあるが、せめてグレフの方から軽い紹介くらいがあってもよかっただろう。一応彼女は彼の部下みたいな立場に近いのだから。


「私はカナエです。蔵嶋様のように名字はありません。ちなみに漢字でなくカタカナです」

「カナエさん……」

「はい、蔵嶋様」


 そんなやり取りがありつつ、一つの部屋に案内される。案内先は学校の教室のような机と黒板、教卓にスクリーンにプロジェクターなどが存在する部屋だ。壁や床、机などあらゆるものでいくらかの素材に石材が使用されている意外では大きな差がないように見える。

 ぱちりと部屋の入り口横についている伝統のスイッチを押し明かりをつけて中に入る。こんな世界でも電気があるのかと信行が明かりの発光元を見ると石の入ったガラスだった。こんなところでも石材素材である。


「それでは……えっと、できれば前に座っていただけるとありがたいですね。適当に机に座ってください」

「あ、はい」


 教卓前の机の椅子に座りカナエと正面で相対する二人。流石にちょっと位置が近いのでどうにもむず痒く信行が感じ、一つ後ろの机に座りなおした。まともに教えられる内容を聞き入れるにはある程度の距離感がなければ少しつらい。


「えっと、まず……何から説明しましょう。そうですね、この世界……<迷宮世界群>の事から話しましょうか」

「……<迷宮世界群>? ここは世界竜の背中の上……らしいみたいですけど」

「蔵嶋様、敬語が使いにくいなら私には無用ですので話しやすい風に話してもらえるといいですよ。言われる通り、この世界は世界竜の背の上の世界、特にここは鉱山の世界竜の背の上の世界です。ここの世界竜は鉱山ですが、他にも海洋の世界竜や大樹の世界竜、火山の世界竜など色々な種類の世界竜が存在します。しかし、世界竜群ではなく迷宮世界群、そう呼ばれる理由についてですが、この世界竜と呼ばれる世界におけるある特徴ゆえです」

「ある特徴……」


 世界竜ではなく迷宮世界。その呼ばれ方の違いだけで特徴の予測はつくだろう。信行でもおおよその予測はできている。


「はい。特に何も言わなくてもわかると思いますが、迷宮です」

「……でも、迷宮なんてどこに?」

「世界竜に」

「え……でも、世界竜って生物ですよね?」

「世界竜は竜で生物ですけど、同時に世界です。一応生態調査なんかはされているようですが……世界ですから人智の及ばない事象は珍しくないんです……」


 その手の専門家でもさじを投げているし、神様も詳しくはわかっていないほどの出来事である。一番上の神ならば何かを知っているのかもしれないが、単に世界を作る際に細かく設定をされていないだけである可能性も捨てられない。ただわかっているのは世界竜には迷宮が発生するということだ。


「この迷宮ですが、蔵嶋様にも攻略してもらいます」

「さっきの書類にその手のことが書いてあったけど、本当なんだ……」

「はい。異世界からの来訪者は得てして普通の人間よりも強くなる素質があることがほとんどです。それだけの戦力を遊ばせておくわけには行かない、ということです。単に普通の職場で働くには常識も専門技術も持っていないことが多いというのも理由ですが……」


 一応信行は学校でいろいろ学んでいるものの、専門知識や専門技術をそこまで持っているわけでもないし、異世界における技術となるとまた変わってくる。さらに言えば、この世界では能力と呼ばれる特殊な力が存在するがゆえにそれ次第でまたどうなるかが変わってくる。


「でも、俺に戦う力なんてないけど」

「そんなことはありません。戦闘するだけならばこの世界……この世界に存在する限りは誰でもある程度は出来ることです。もともとこの世界の住人でなくとも、この世界に来た時点でこの世界への適応がなされるため、能力を得ることもありますし、存在力などの強化を行うことは出来ます」

「……でも」

「必要なことです……あまり厳しい言い方になると心苦しいですが、こちらにとっても慈善で異世界の住人を保護するわけではありません。相応に異世界の住人としてできることをやってもらう、そういう方針なんです」

「…………」


 単なる労働であればまだ厳しくても信行は受け入れることができただろう。しかし、迷宮への探索となると話は違ってくる。この世界における迷宮について信行はまだ知っているわけではないが、多くの作品における迷宮は罠やモンスターの類が多数存在する危険地帯である。命がけで挑戦し攻略する、なんてことになればもちろん死ぬ可能性もある。今までそんな危険に身をさらしたことがないのだから行きたくないと思ってしまうのはしかたがないことである。

 しかし他に頼る者もなく、先に書いた書類の内容からもそういうことに従事しなければならないのはある程度理解していた。ただ、やはり直接話を聞いて受け入れるのは簡単ではないということである。


「迷宮探索もいきなり高難易度の迷宮に挑戦しろ、というわけじゃありません。他の迷宮探索者と同様に最初は簡単な迷宮からの攻略になりますし、異世界から来た人たちは強くなることが確定している以上育てるための装備や道具の支援もこちらで行います」

「……うん、覚悟はまだ……ちょっとできてないけど、わかってる」

「そもそもある程度戦闘訓練をして、戦いに慣れてからの挑戦となりますからまだまだ先の話です。えっと、少し脱線しましたが、話の続き……迷宮について話しますね」


 そう言って世界竜における迷宮の話に戻る。


「迷宮には小迷宮、中迷宮、大迷宮、中心迷宮の四種類の迷宮が存在します。正確に言うならばそうした区分にわたし達が分けているだけですけど」

「分類の基準は? 大きさ?」

「基本的には、迷宮探索をして最奥までの行き来にかかる時間……とされるのが小中大の迷宮です。ある程度の実力を持つ迷宮探索者が一日で最奥まで行って入り口まで戻ってこれる日帰りの迷宮が小迷宮、攻略に一週間程かかるかまたは階層が四つ以上の迷宮が中迷宮、攻略に一月はかかるほどの巨大さを持つのが大迷宮です。おおよそ簡単に分けた限りでは」

「……聞いている限りではその三つ以外の隙間的な迷宮があってしかるべきな気が」

「ええ、ですから大雑把な区分です。実際のところ、事前に使い魔を放ち内部の様子をある程度把握したうえで感覚的に区分しているだけだったりします」


 かなり酷い分け方である。しかし実際のところ分け方はそれだけ大雑把な分け方にならざるを得ない。最奥まで行って攻略してきたうえで迷宮の区分分けをする意味はあまりないし、かといって最初から迷宮にその内部構造の内容が記載されているわけでもない。簡単な調査で大まかに記すしかないのである。


「なんてひどい。いや、まあいいか。中心迷宮って言うのは?」

「中心迷宮はこの竜の心臓……核に繋がる迷宮です。その内部構造は不明ですが、この迷宮だけは世界竜の背の上の世界に最初から存在し、その場所はどの世界竜でも同じ場所にあるのでわかりやすいですね。この迷宮は攻略を推奨されていますが、同時に最奥に存在する迷宮の核の破壊や回収も禁止されています」

「……迷宮の核?」

「はい。全ての迷宮に存在する迷宮の心臓、迷宮を維持する核とされている物です。どの迷宮でも最奥に存在し、その核を守る守護者が配置されています。これを壊すか回収することで迷宮を破壊することができます。基本的には破壊や回収が推奨されていますが、利用価値があると判断された迷宮は核の回収が禁止されますし、既に攻略済みの迷宮も禁止、中心迷宮ももちろん禁止です」

「もし中心迷宮の核を破壊した場合は?」

「世界竜が死に、この世界が崩壊して世界源流に放り出されます。つまり、この世界の住人全員が死にます」


 中心迷宮は世界竜の中心につながる迷宮であり、その核は世界竜の心臓である。つまり破壊すれば死ぬのは当然の話だ。


「ちなみに核の使い道って?」

「秘密です。大迷宮攻略か、中心迷宮の上層攻略ができなければその情報の開示はされません」


 それだけ重要視される情報である。

 おおまかに迷宮に関して、信行に対する期待は迷宮を攻略することであるためこれくらいの内容開示でカナエは話を区切る。他にも迷宮には資源が存在し、鉱山の世界竜であるここの迷宮であれば様々な石材や金属資源があるが、そういったものの採掘は専門家に任せる者であるため信行にわざわざ話すことはなかった。

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