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「…………疲れた」
「ご、ごめんねミツヤスさん!」
「なんかごめんね……」
「お疲れ。まさかこんなことになるなんてね……」
アーシェが二人に増えた。そしてその二人のアーシェは微妙に性格が違う。性格というか……俺と、フェリに対する感じ方、接し方が違う。片方のアーシェは俺に対してより積極的、感情的。もう一方はフェリに対して積極的、感情的。まあそれ自体には何ら問題はない。記憶や知識の類は両方とも同じものを持っているようだし、アーシェ自体の体重をちょっと持ち上げて確認してみたが、半分に体積的に分けられたとかそういうわけでもないらしい。
まあそのあたりは大した問題ではない。いや、アーシェが二人に増えたのは大問題なのだけど、それに関しては後で色々と考えてもいいし、正直アーシェにあの機械について詳しく聞けばわかる。何故ならあの機械を操作したのはアーシェであり、あの錬金術の道具で詳しく理解できるのもまたアーシェだ。恐らくそれで知ったのだろう。何故か俺たちには黙っていたわけだが。
さて、問題とは何かというと、この遺跡の出入りに関することである。この遺跡は都合上監視がついており、入ってきた人間の数も当然把握している。そうなると出てくるときに同じ顔のに人間が二人いたらどうなるか。入る時に双子というわけでもないし、中で合流するにしても中に入ったかどうかを確認しているはず。であれば一体何があったのか、と大きな騒動になりかねない。
そこで解決策として、俺が剣術の歩法を全力で使いアーシェを運んだ。気づかれないよう、全力で、なんとかした。その代償がこの大きな疲労である。
「そうだな……で、アーシェ。なんで黙ってたんだ」
「ちょっと言えないかな……」
「うん、言いたくない……ね。私の秘密だよ、ね、アーシェ」
「うん、そうだねー」
「……二人ともアーシェなのよね? はあ、呼ぶときにこんがらがりそうだわ」
確かに。どちらもアーシェだとするとアーシェと呼んだ時どちらが呼ばれたかわからないか。
「じゃあ、どっちかをアルシェリットって呼べばいいな」
「ええー!?」
「うーん、まあそれでいいんじゃないかな?」
「えっと、アルシェリット」
「……むー。フェリちゃんにそう呼ばれるとなー」
「えー。でも自分でいいって言ったんだよね?」
「……だめだ、余計こんがらがりそうだな。とりあえず、宿に戻る…………にしても、だ。説明をどうする」
「ああー……」
フェリも頭を抱えている。遺跡を出るのも大変だったが、その先、宿に関してもまた大変だ。同じ顔が二つ。まあ双子で通せばなんとかなりそうな気もするが、それはそれで面倒だ。そして、部屋も……四人部屋、は流石にすぐに使えないかもしれないか? 二人部屋の方がいいか。
「宿はとりあえず二人部屋を二つ、えっと……アーシェ二人の方がいいか?」
「ええ!? 私はミツヤスさんと一緒にいたい!」
「私はフェリちゃんと一緒にいるからね!」
「…………だそうよ?」
二人のアーシェは俺とフェリにそれぞれが片方に対して積極的だ。今まではそんなことはなかったと思うのだが……いったいどうしたのだろう。いや、それは後で聞こう。そもそも何故アーシェがあの機械を操作したのかわからないのだから。
あらためて二人部屋を取る前に……三人部屋に一度全員で集まって話し合う。具体的にはアーシェがあの機械を起動した理由について。
「で、何でアーシェはあの機械のことについて黙ってたんだ? 何故勝手に起動させた?」
「えっと……」
「うーんと……」
アーシェ同士が視線を合わせている。
「アーシェ、本当のことを教えてほしいの。アーシェに何かあったら……普通じゃ、いられなくなるじゃない」
「……うん、そうだよね、ごめんねフェリちゃん」
「…………ミツヤスさん、ごめん。勝手なことして」
フェリの想いにフェリ寄りのアーシェが謝り、そのアーシェに倣ったのか俺寄りのアーシェも謝ってくる。
「それはそれとして、結局あの機械は何だったんだ? アーシェが二人に分かれたから、そういう機能があるのは何となくわかるがどういうものなのか詳しくわからないんだが」
「えっと、あれはね……人を二つに分ける機械だよ」
そのまますぎる。
「害は?」
「そういうのは、特に……ないかな」
「そう……ならなんで分けたのよ。アーシェが二人いて、何かお得なことってあったかしら?」
「うーん、理由は色々あるけど……ほら、えっと、二人いると……錬金術師として働ける私と冒険者として働ける私がいる、みたいな?」
「それだけか?」
「……それだけかなー」
恐らく嘘だろう。そんな理由で自分を二つに増やす、いくら機能を知っていて安全性が分かったとしても、不安の方が大きいはずだ。
「……とりあえず、そういうことなら今はそこまで問い詰めない。叱りつけるのは後回しにするとして、部屋を新しくとろうか。アーシェが二人に増えた以上三人部屋だと手狭だしベッドの数も足りないからな」
「あ、叱りつけるの確定なの?」
「当たり前だろ。こっちは本気で心配したんだからな」
「そうね。こう、痛いのをきっちりとしてあげるわ……ねえ、アーシェ」
「ひう……お手柔らかに、お手柔らかにお願いしまーす!」
そして宿の三人部屋を引き払い、二人部屋を二つとることになった。まだこの街に来てすぐだというのに、いきなりこんなことになるとは思わなかった。しかしこれから先アーシェが二人、となるとそれはそれで困るだろう。そもそも人を二人に増やす、ということがまともなことであるはずがない。念のため遺跡のあの部屋の入り口は何とか頑張って閉めて報告もしていない。再度利用する可能性が高いと予測したからだ。恐らくは少しの間、少なくともアーシェが二人に増えたことでの問題が完全に解決するまではこの街に滞在することになるだろう。




