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アーシェは店主の険しい表情にびくっと体を震わせている。まあ声色も怖いし問い詰めは最も怖い。アーシェと店主の間に体を割り込ませる。隠すと言うほどではないがこちらに意識を向けさせてアーシェへのそれを分散させた。
「ちょっと女の子に厳しい言い方はよくないんじゃないか?」
「ああ? あー……だがなあ……いや、お前の言う通りか」
睨むような、厳しく険しい表情をいったん目を瞑り解く店主。心を落ち着けたのか、目を開いた時点ではいつもの……かは知らないが、少なくとも良く見た店主の表情に戻っている。
「悪いな嬢ちゃん。ちょっとこれがかなりとんでもないものでな……」
「い、いえ……ちょっとびっくりしちゃっただけなので」
「しかし、本当にどこから持ってきたんだ? 普通は奥まで行っていくらかよさげな鉱石を持ってくるくらいだぞ? こんな金属板なんかを持ってくる奴はそうそういないんだが」
まあ確かにアーシェのような錬金術という特殊技術をたしなんでいなければ金属板の状態で持ってきたりはしないだろう。鍛冶屋でも営んでいれば設備さえあれば溶かして金属塊で持ってこれるかもしれないが、そもそも鍛冶屋なら武器屋にどういう金属かを鑑定してもらう必要もなく自分で扱える。確かに金属板なんてものを持ってきたらなぜこんなところに持ってくる必要があるのか、ということになるだろう。加工技術があるのだから。そういう意味合いでは錬金術という技術はかなり特異的であると思う。
「錬金術です!」
「錬金術?」
「まあ、技術云々は置いておくとして、金属に関してはどうなんだ?」
「ああ……まあ、いいが。そうだな……やはり珍しいというのが大きいな。これは普通の金属じゃないだろう? ふむ…………似ている金属はあるが、それとも違うか。恐らく合金だとは思うが、これは見たことがないな」
合金自体はこの世界でも問題なく存在する。ただ、加工技術の問題がある。金属自体は多種多様に存在し扱っているのだろうけれど、より正確に分離して混ぜるのが難しいのかもしれない。
「それを武器に加工する場合、どれがいいかはわかるか?」
「ああ。まあ、俺も色々と武器を取り扱ってるからな。わかる…………そうだな、どういう武器にするか次第だが、これとこれがいいだろう」
二つの金属板を置いて示す。残りはまとめて横に置かれている。
「えっと、ミツヤスさんの武器って」
「ああ……折れたのはこれ、今使ってるのはここで買ったこれだな」
折れたほうの剣とここで買ったものを置いて見せる。
「なかなか普通にいい剣だな。安物ではないが、ここにおいてあれば……まあ、こっちと同じくらいだろうな。ふむ……これをつかってるならこっちだろう。まあ、加工難度や量の問題もあるし向こうが作る気にならなければ意味がないしな」
「……まあ、職人は面倒だからな」
とても高い技術力を持った偏屈爺。物語などではよくあるイメージだがこの世界でもそういうものは珍しくない。
「で、紹介はしてくれるのか?」
「ああ。ま、場所を教えるくらいだけどな」
「それでも十分です、ありがとうございますおじさん!」
「……おじさんかあ」
気落ちした様子だが、きちんと鍛冶屋の場所は教えてくれた。二か所……作ってくれる可能性が高い方と、技術力が高い方の二つ。とりあえず技術力が高い方に行ってそっちで断られてから作ってくれる可能性が高い方に向かう、そういうことになった。
「何の用だ?」
武器屋の店主よりも怖い表情で筋肉隆々な鍛冶屋の親方っぽい人に出迎えられる。威圧感が半端ないのでアーシェは後ろに隠れている。
「武器の作成を頼みたい。作ってくれる鍛冶屋ってことでここを紹介されたんだが」
「ふん。どこの紹介かは知らんが……ただで作ってやることはしないぞ?」
「え、えっと、お金なら」
「金などいらん。作るもの、素材、そして作る相手だ。飾りは要らん。そんな要求をしてくるなら蹴り飛ばして追い出すぞ?」
随分な人物だ。作り手としては、作るものにその本分を果たしてほしいということだろうか。
「えっと……ミ、ミツヤスさん!」
「はいはい。作ってもらいたいのは俺の剣だ」
「ふむ……」
じろじろと上から下、体つきを確認するかのように視線が俺に向く。
「あんまり実力があるようには見えないな」
「見た目で判断してほしくはないんだけどな。実力試しでもするか?」
「……………………」
ずぐり、と刺すように押し付けられる気迫を感じる。後ろのアーシェはぶるりと震えて背中に体を押し付けてきた。まああれだ……怖いというか、恐ろしいというか、そんな感じなのだろう。頼られるのは悪いわけじゃないが、あまりこういう風に寄られると…………こちらとしても一応男なので困る。俺の方にはこの程度の気迫の影響はない。しかし、これほどまでに気を向けられると言うことは結構強者なのかもしれない。まあこの場所の歴史を考えると昔からいる人間は相応に強いだろう。
しかしこちらとしても、そういうことをされっぱなしというわけにもいかない。剣に手をかけ、気を向ける。向こうの気はうちの師匠と比べると対しことはない。師匠に本気で当たる時に向ける気迫を向ける。
「っ…………」
ぴくっとちょっとだけ反応した様だがそれだけだ。
「ふ、なるほど。相応に実力はあるようだな」
「わかればいい」
「だが実力があるだけで作ってやるつもりはない。面白い素材を持ってこなければ作る気はないぞ?」
「アーシェ、出してやれ」
「え? あ、う、うん!」
ふっと消えた気迫に理解が追い付けなかったからかアーシェはちょっと気が抜けていたようだが俺に言われて鞄を漁る。そして金属の棒を出す。
「えっと、武器屋のおじさんにおすすめされたのはこれだけど、一応作ってみた金属は全部出してみました。ミツヤスさんの……あの、折れた剣を治すために作った物です。えっと、ミツヤスさん」
「この剣だ」
アーシェに言われて例の折れた剣を見せる。鍛冶屋の親方っぽい人は折れた剣とアーシェの出した金属を検分する。最初は割とどうでもよさそうにしていたが、触れていくうちに徐々に表情が険しくなる。
「この金属は何だ?」
「え、えっと……私が作りました」
「…………ふむ」
アーシェの方にちらりと視線を向けること以上のことはせず、親方っぽい人は指で触ったり、叩いて音やら硬さやらを確かめている感じだったり、近くにあった道具で傷をつけてみたりしている。
「こっちの剣はごく普通のものだな。まあ、それなりにいい腕と良い鉄を使って作られたものだろう。この街なら普通に見かける程度のものだが。折れているからはっきりわからんがおおよそ元の形状は推測できる。形を作れと言うなら楽にできるだろう。この金属の方は…………かなりのものだな。使い道が限られるものもあるが、どれも珍しい……そうだな、譲ってほしいくらいだ」
「え、えっとー……譲ったらミツヤスさんの武器は作ってくれますか?」
「それくらいなら当然してやる。そうだな、譲ってくれるのであればただで二振り作ってやろう。ああ、ついでにお嬢さんでも使えるような短剣を作ってやろう。そこの小僧……と比べるのもおかしいが、戦えるようではなさそうだが色々と役に立つだろう」
「え? そ、そんな! いいですよー?」
「なに、金属を貰う分の対価だ」
いつの間にか親方っぽい人が全部貰っていくことになっているがいいのだろうか。
「アーシェ、全部渡してもいいのか?」
「ミツヤスさんの武器を作ってもらうためのものだから別にいいよ?」
アーシェは作ったっきりで興味は無さげである。まあ、それならそれでいいんだが。
「じゃあ、俺の剣を二振りとアーシェの短剣を作ってもらう。報酬はここにある金属と」
「そうだ。まあその一部は剣の素材に使うだろうがな。ああ、あとこの剣も再利用するぞ。いいか?」
「構わない」
「わかった。じゃあ仕事に取り掛かるとしよう」
「よろしくお願いします!」
そういうことで、剣ができるまではこの街に滞在することになる。できても調整も必要だろうからすぐには旅立てないだろう。どうせ途中でいろいろあったほとぼりが冷めるまではゆっくりする気ではあったし……そうだな、久々に旅しないでゆっくりというのも悪くはない物だろう。この街でやれることは少なそうではあるが、ゆっくりとすることくらいはできそうだ。




