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結局鉱山に行ってしたことと言えばアーシェが鉱石を取り、錬金術で金属塊にするくらいだった。よくよく考えれば俺は一応剣の試し切りをするつもりで行ったのが、ろくな魔物が存在していなかったので殆どできてない。それに気づいたのは帰ってきて眠る直前くらいだった。
翌日。今日はどうしようかと思っていたが、アーシェはなにやらやることがあるとやらで部屋にこもっている。朝食もとらずに何やら昨日とってきた金属を出してじっと見つめている。流石に朝食を取らずにそのまま、というわけにもいかないので下で朝食を貰いそれをアーシェのところにもっていく。今度は金属だけでなくルーペのような道具や箱、いろいろと出して何やらしている。
「アーシェ、なにしてるんだ?」
「んー……」
反応なし。かなり集中しているようだ。なんだかんだで錬金術師の弟子、その手のことに本気で取り組むと周りが見えなくなるくらい集中するのだろうか。もっともそれはそれでかまわないのだが……
「アーシェ」
「……あれ? ミツヤスさん? どうしたの?」
「お前朝食食べてないだろ。腹減るだろうし一応貰ってきたから食べておけ」
「うん……そこにおいておいて、後で食べるから」
食べないか、それとも後でも本当に後でで自分のやることやった後とかそんな感じになるのだろうこの感じだと。
「ちゃんと食べておけよ」
「………………」
だめだ。これは一段落つくまではこのままかもしれない。
「アーシェ、俺はちょっと街の外に出てくるからあまり危ないことはするなよー」
「…………こっちと……こっちかな」
気配だけ探っておくか……宿の中にいる限りは安心だが、外に出て大丈夫かはわからないし。持ってきた食事は離して置いておこう。急に動いてひっくり返すとかあると面倒だし。まあさすがにそこまでドジっ子とか天然というわけでもあるまい……とは思うのだが。
街の外に出る理由は極めて単純だ。
「ふっ!」
剣での試し切り。相手は当然ながら魔物である。
「ふむ……この辺りは結構魔物が少ないな」
気配を探ってみるが、あまりいない。まあ鉱山の中よりはましだ。歩けば当たるほどいれば楽だがそれだけいたら危険すぎるよな。魔物だって一応生物だから環境や周辺の食糧事情で生息数は変わってくるだろう。あまり狩りすぎると食物事情やら何やらに影響が出るか?
「……でかいのがいるな」
大きな気配を見つけたのでそちらへと向かう。一応剣は試しで振ったり感覚を馴染ませるために構えたり振ったりといろいろしているが、やはり戦いの中であわせるのが一番だ。もともと師匠のところで修行していた時はただただ師匠と木剣で模擬戦だった。それ以外は魔物相手と戦う、ひたすら戦うばかりの日々。今更まともな剣術を習っても使えるだろうか? そもそも師匠のところのそれが一種の剣術なわけだし必要ないだろう。いや、あれを剣術と呼んでいいのかは疑問だが。
「熊……」
野生の熊の魔物。でかい気配を感じていたが、確かにでかい。五……いや、六メートルってところか? もうちょっとありそうだな。角まで生やして……棘まで生やして……腕まで生やして……いや、ちょっと待て。
「っと!」
四つの腕を振るってくる。立ったらその威容ははっきりとわかる。でかい。体の毛も針のように鋭い。まともに当たれば針に貫かれてやばいだろうな。
「まったく、大概の魔物もそうだけどなあ……」
化け物過ぎるって感じだな。まともな動物っぽい魔物もいるが、強いやつほど異常な部分が増える。
「行くぞ」
相手に不足はない。どれだけできるか、どの程度できるか、武器もそうだが俺の方も腕が落ちていないかを確認しないとな。
アーシェは複数の金属を見ながら考えている。光安に渡す武器、それを作るための金属のことを。鉱山で拾って錬金術でまとめた金属は別にこれと言って珍しい金属ではない。極々普通の金属でも剣にする分には全く問題はない。しかしアーシェの気分としては、出来得る限り最大最高の金属で作った武器を提供したいと思っている。
そこでアーシェが寝る前に思いついたことが一つ。先日アーシェと光安が話していた会話に出てきた合金である。アーシェはべつに金属に関して造詣が深いわけではない。よく使う金属しか知らず、ここで手に入れた金属もまとめたはいいが殆どその名前もよく知らない物である。それでもある程度性質や性能が分かるのはアーシェの持っている道具のおかげだが、それで色々と調べている。
そもそも金属加工をするのは本来大変である。熱したり叩いたり溶かしたり、相応に設備が必要だ。しかしアーシェは錬金術の技術で完璧な合金を作ることが可能である。しかも加工に要する時間は殆ど必要なく、必要なものは錬金術を扱うための箱と魔力のみ。それゆえにいくらでも合金を作ることができる。
「うーん……だめだー!」
それを思いつき、金属を用意して分離させ、色々と試している。二つの金属で半々にしたり、三つ四つと混ぜ合わせたり、比率を色々と試したり。しかし当然だがアーシェは金属に関しては無知である。錬金術で作られた道具があるからと言ってアーシェが望むものが自由に作れるわけではない。そもそもアーシェとしては今回の試みは初の試みである。
ゆえに先ほどから何度も何度も失敗をしている。一応できた合金の性質や性能に関してはわかるのでそれでおおよそ判断している。単純に合金を作るだけならば難しくはない。問題はその合金が剣としての適性が高い物か、まともに扱えるものなのか、そういう問題だ。
「単純に同じだけ混ぜるのはだめ……中心となる金属を決めたほうがいい感じになるみたい……」
何度も、何度も作業を繰り返す。問題となるのは魔力の消費だが、それも時々休憩を置いて回復させている。
「むー……ミツヤスさんにいてもらったほうがよかったかな?」
アーシェがどれだけ作る作業を繰り返し、いい金属ができたとしてもその金属を加工した剣を使うのは光安である。ゆえに実際にどういった剣を求めるかわかっていないと本当にただ渡すだけの剣を作る羽目になる。光安に使ってもらいたいのであれば、どのような金属がいいかわからないといけない。しかしその当人はこの場にはいない。
「……でも今のうち、今のうちに金属を用意して……あ、でもどこに行けばいいのかな?」
アーシェでは金属を作っても剣は作れない。剣を作るのは鍛冶屋である。先日訪れた武器屋の店主はどこに行けばいいかまでは教えてくれていない。それは自分で探せと言うことなのかもしれないし、単に教え忘れただけなのかもしれない。アーシェはあまり深く考えない。
「まず金属だけとりあえず作ろう。そしてできたら教えてくれたあのおじさんに見せて、ミツヤスさんの買った武器にあいそうな金属を選んで、それで鍛冶屋の人を教えてもらってそこに持ち込んでミツヤスさんの剣を作ってもらう。うん、それで完璧だね!」
ひとまずアーシェの中ではどうするべきかという結論が出たようですぐに合金作りに戻る。合金作りが終わらなければ結局鍛冶を頼むにしても素材がない。まず最初にやるべきことは武器にするべき金属を用意することと結論付けたようである。




