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「ウォーターボール!」
襲ってきたでかい蜘蛛に水の球が飛んでいく。この世界の呪文詠唱が英語なのには少々疑問があるが、アーシェも別に言語に関して何か知っているわけでもないらしい。ちょっと聞いてみたが、そういうものだと自然に認識している。もしかしたら昔からそういう風に教えられているのだろうか。まあそれはどうでもいい。
アーシェに戦闘へと参加させ、戦闘慣れしてもらうのは基本的に相手の数で差が出てくる。というのも相手の数が多いとアーシェは比較的パニックになりやすいようだ。それは単に一度に襲い掛かられると怖いからか、それとも以前の狼の時を思い出すのか。まあ今の内だけかもしれない。攻撃しやすいのはやはり数が少ない時、とくにでかいのが一体で襲ってきた時はやりやすいようだ。まず的が大きしい俺が相手をする前に攻撃しやすい、相手をしていてもこちらに当てる危険が少ない。まあそのかわりアーシェの攻撃が有効打になっているかというと……あまりなっていないと言うしかない。
先ほどのウォーターボール以外にも、風の魔法などでダメージとしてはあまり高くない攻撃をしている。それは俺を巻き込んだ場合に安全を確保するためだが、当然俺が安全ということは魔物も安全ということだ。単純な耐久力の観点で言えば魔物の方が耐久力が高いのだからそうもなる。
かといって全く意味がないかというとそうではなく、魔法の攻撃には魔物も動物も危険意識が強いのかよく反応してくれて大きな隙になる。その分攻撃はアーシェの方に向くので急いで倒さなければならないのだが。
「ふう……」
「よく頑張ったな」
「えへへー。私だって戦えるんだから!」
まあ、一対一なら実際にはアーシェの支援は要らないが……言わぬが花、本人が満足できるのならその方がいいだろう。無駄というわけでもない。こちらの労力が減るならばその分楽になるわけだし。
「なら数がでても何とかしてほしいけどな」
「うぐ……そこは言い返せない……!」
本当にアーシェの支援が欲しいのは数が多いときだろう。俺自身が戦うにしても、一対多はきついし取りこぼしも大きくなる。場合によってはアーシェの方に通してしまいかねない。今は何とかなっているが……場合によっては厳しくなるだろう。
「さて……面倒だな。でかいと」
「別に全部わざわざ解体しなくてもよくないかな? もったいないとは思うけど」
「できるだけお金はあったほうがいいだろう。アーシェの持っている金も無限じゃない。そもそもアーシェのそれは師匠から貰ったお金だろう。貰うのに慣れすぎると将来生活できるか怪しいぞ」
「そ、そうかなー?」
アーシェ自身は素材さえあればいろいろ作れるから生活に困らないだろう。しかしその素材をどうやって得るかはまた別の話だ。自前で確保できるなら自前で確保したほうがいい。
「ほら、蜘蛛の糸。素材にできるんだろう」
「うん、ありがとう! 糸とかだと布にできるんだー」
「……鳥の羽だろうと、綿花の部類だろうと、蜘蛛の糸だろうと糸系素材なら何でも布にできるのはやっぱり疑問だなあ」
どう考えても根本的に素材が違うのによく同じにできるものだと思わざるをえない。まあ錬金術だしな。思考停止になるが、深く考えてはいけないのだろう。俺の学んだ剣技と同じで。
「確かにできるものは同じだけど、微妙に違うんだよ? 素材次第では切れにくかったり、燃えにくかったり、濡れても乾きやすかったり」
「へえ……でも布としては一緒なんだよな?」
「うまく作れればいい布になるし、失敗すればぐっちゃぐちゃな布になるくらいで素材が違ってもできるものは基本的に同じかな」
「廃品回収とかでボロボロの布とかを回収して作り直しとかできるんじゃないのか?」
もしかしたらそういったすでに作られたものも素材として再利用できるかもしれない。完全に同じものを作り直す場合は特殊素材が必要かもしれないが、そういったものを糸素材として布として作る場合はどうなのだろう。
「できると言えば出来るけど……」
「けど?」
「師匠がそういうのはダメだって言ってたから」
ダメか。でもできないではない……のか?
「ダメって言うのは?」
「ええっと、錬金術でやっちゃうと不要な部分とかがこう、変なものに変わって処理が大変なの。それに私たちがそういうことをやっちゃうとそういう仕事をしている人から仕事を奪っちゃうことになるから……」
「ああ。確かにそういうのはあるかもしれないが、でも他に物を作るのも大差ないんじゃないか?」
「うん。だからあまり大量につくったりとかはしないで、特殊な道具とか冒険者ギルドの依頼とかのをしていたんだと思う」
そうか。確かにそれならば冒険者ギルドに行くのも納得だな。それに特殊な道具というのも錬金術師でなければ難しい、作れない物も多いのだろう。なんだかんだで全属性の魔法の才能がなければ扱えない技術だ。当然彼らくらいの才能がなければできない作れない物もあるのだろう。
「そういうものか……」
「も、森から出れたー!」
「開放的だな」
「そういう問題じゃないよ!? 森の中って魔物ばっかりひっきりなしだったもん!」
「動物もいたぞ」
「似たようなものでしょー!」
なんだかんだで森の中では結構な魔物やら動物やらに襲われた。まあこっちを通る人間が少ないと言うこともあるし、わざわざ森に入って動物を狩る人間もいなかったのだろう。人間の脅威を知らない動物ゆえに、人間に容赦なく襲い掛かってきた。それに対しこっちは徹底的に反撃した。次回通るときは少しは楽になっているか……それとも逆に苛烈になっているか、それを知るのは次にここを通った旅人次第だろう。
「……ねえ、次の街って」
「かなり先だな。あっちの方」
このルートは一応森抜けで馬車でこちら側に来るよりは早い。ただどちらを行くにしても結局道のり的には遠いのには変わりがない。そもそも移動速度的に言えば森から抜けた後も結構移動する都合上馬車の方が総合的に速い。森の向こう側に行くと言う点においては馬車よりもこちらを通ったほうが速いが。
「ううー……森から出たらゆっくりできるかなーって思ったのにー!」
「残念ながら、だな。まあ安心しろ。森を越えれば魔物も動物も比較的襲ってこなくなる」
全く襲ってこないということはないが。まあ、森の中の環境よりはやりやすいし見つけやすい。大きな動物よりも小動物の方が多めで魔物も比較的弱めだ。まあどこであっても動物魔物、脅威というものはよくあるものだ。
「よかったー……でも遠いんだよね?」
「そこそこな。まあ歩いてあと三日四日くらいだろう」
「ふええん。街でゆっくり休みたいよー」
道なりに進み途中で馬車の通る道とも合流する。当然通る馬車とすれ違うこともあるので街道沿いといえど端に寄っていたほうが安全だ。アーシェは途中自分たちを追い越していく馬車をどこか羨ましそうに見ている。馬車があると移動は楽だろう……問題はやはりお金だ。馬車の乗車費は決して高いとは言えないがあまりどんどん乗っているとお金の消費が大きくなる。なのでできるだけ控えたほうがいい。自分で買うなんていうのはもってのほかだな。維持費がやばいだろう。
流石にアーシェも自分の馬車が欲しい……とは言わないだろう。そもそもそんなお金もない。いや、あるのかもしれないがどれだけ使うことになるやら。それならまだ移動に便利な道具でも作るほうに思考を誘導したほうが建設的だ……いや、いっそそういう方向で話をしてみてもいいか? アーシェに錬金術師としての実力をしっかりとつけさせるのはいいかもしれない。
まあ、ひとまずこの道を進んで早く街に行こう。アーシェも言っているが、俺もちょっと街で休みたいとは思わなくもない。野宿などのきつい環境に慣れているとはいえ、やはり安全でゆっくりできる方がいいのは当然なのだから。




