11-6
「くっ!」
「ミルハさん!?」
「大丈夫だ! クレアは上のを頼む!」
「っ……!」
街の中に魔物の姿がある。まだ侵入してきた魔物は大量と言うほどでもなく、また街中にいる人々の一部や冒険者たちが戦い、全てとは言わないが倒すことで数は減っている。とはいえ、一部の魔物はミルハのような実力者じゃなければ倒せないような強い魔物もいたり、空を飛ぶ魔物が襲い掛かってくることもあり、中々に大変な様子だ。これでも空の魔物はキェモアの精霊魔法の力により減っており、また今も魔法使いや多くの冒険者によって数は減らされているが、もともとの総量が多すぎる。それらをクレアなどが下から狙うことで対処し、下にいる魔物はミルハが倒しつつクレアを守っている。
「まったく、ギルドに行く前に武器を取りに行って正解だったか?」
「ギルドにも武器の在庫はあったと思います……」
いくらオールドエンドが世界の果て、流れ着く世界の近くにある街で色々と魔物の襲撃などが起きる大変な場所とは言え、流石に街中で堂々と武器を持っている機会は少ない。いや、冒険者としての活動中ならばともかく、普段の活動時にはさすがに持ち歩いていない。ミルハとクレアだけが一緒と言うのは基本的にそういう機会であり、武器を持っていないことが多い。ゆえに宿に武器を取りに行った。別に取りに行かなくともいが、慣れた武器の方が都合がいい。
まあ、その結果こうして魔物が侵入してきたことへの対処で忙しくギルドへ行けていないのだが。
「しかしこの数、厄介だな」
数が多い。空の魔物はだいぶ減っているが、逆に地上の魔物は徐々に増えているように感じる。倒せる雑魚が増えるのはそこまで問題ないが、ミルハの対処が必要な魔物の数が増えるようになると魔物への対処をしている冒険者がやられる数が増える。そうなると他の魔物の数も増え、ミルハの相手をする数が増える。そうしているうちにクレアがやられる危険が高まり、またミルハも対処しきれずやられる危険性がある。
「なんとか突破して……ギルドに行くか、キェモアかシンヤと合流を」
「ヤカワタさんは?」
「シンヤと一緒にいるだろう……とは思うが、用事とか言っていた気もする。あれで意外と他との関わりが強いからな」
ヤカワタはミルハ達やキェモア達の前から冒険者でオールドエンドにいる。そういうことなので彼女はあれで意外と顔が広い。サフィラの時もあっさりとシリチを店番兼護衛代わりに連れてきたりしているし。今回もそういった他との繋がり……まあ、主に妖精の横のつながり関連で出張っているみたいである。
「他の妖精とか見た覚えがないんですけど、いるんですか?」
「いるみたいだが……妖精は妖精で独自に活動していることが多いようだから見ないのが普通なんだろう。最近は妖精の有用さを知ったパーティーが誘っていることがあるみたいだが」
具体的にはゴブリンキング討伐に出向いた時に妖精の強みを知ったパーティーとかがいくらかの他のパーティーに内容を話してどれくらい妖精が使えるかの確認をしたりとかしているらしい。とはいっても、妖精は気まぐれで気に入った相手がいなければパーティーを組む事自体難しいだろう。そういう点ではヤカワタはシンヤに自分からついてくるあたりかなり気に入られている珍しい例だ。まあ、それくらいの相手がいなければ継続して仲間にできるかはあやしいのだである。
「っ!」
「くっ!」
上から空を飛ぶ魔物が幾らか襲ってくる。そしてそれに合わせるように地上にいる魔物も。数の有利は魔物の方が上だ。ミルハたちも同時に襲われれば対処は難しい。クレアは思わず目を瞑り体を縮こまらせ、ミルハはそれでも対応しようと魔物たちに目を向けている。
「フェアリーサンダー!」
「フェアリーファイアー!」
「フェアリーアロー!」
「フェアリーサンダーレイーン!」
「フェアリー何とかシャワー!」
「フェアリーエクスプロージョーン! その何とかって何さー!?」
だが、覚悟していた終わりは来なかった。雷や炎、エネルギーの矢に何か雰囲気的な攻撃の雨霰、最後に爆発まで起こされている。もちろん、その爆発の使い手はミルハたちの良く知る相手であり、それらの発生源は攻撃が降ってくる前に聞こえた呪文でおおよそ正体はわかる。
「……ヤカワタ! それに、何か……えっ、なんだその妖精の群れ?」
「お、多いです……ね……」
妖精がおよそ数十匹……いや、匹と言うのは失礼だろう。妖精が数十人の集団で纏まっている。妖精自体オールドエンドでもそれなりに見かける数は少ない。しかしそれが数十、珍しいと言う話ではない。それだけの数が入れば上位の冒険者にも匹敵するほどの強力な力を有することだろう。実際先ほどの攻撃を見ればあまり強さが目立たない妖精魔法でも十分な威力を発揮するのはわかるのだから。
そんな妖精たちをヤカワタが率いている。妖精の中にはシリチもいる。まあ、シリチは他のひとまとめの妖精たちの一人だが。
「ミルハー、大丈夫だった?」
「ああ、助けてもらったようですまない。ところで……そのたくさんの妖精たちは?」
「えっとね、さっきまでみんなで集まってあーだこーだって話し合いしてたのよ。まあ、時々妖精たちでみんな集まって宴会したり殴り合いしたり魔法の撃ち合いしたり恋愛相談したり合コンしたりお見合いしたり婚活したりいろいろしているんだけどー」
なんともまた妖精たちも色々とやっているようである。まあ、妖精同士の繋がりは妖精たちにとっては子供を残す意味でも結構重要なので必要に駆られてだが。殴り合い、と言っているが別に喧嘩ではなくてボクシングとかそういうスポーツだろう、多分。
「でも、なんか話し合い中にあっちこっちうるさくなったみたいじゃない? 流石に住んでいる所とか、一緒にいる仲間とか知り合いとかどうにかなっちゃったら困るから、こうやってみんなで集まってあっちこっちの手伝いをしに来たわけー」
「そうか……」
「なんでかしらないけど、私がリーダーと言うかまとめ役やらされちゃってさー。ねー、手伝ってー」
「もう! ヤカワタが一番強いんでしょ! 世の中強さが全てなのよ!」
「せやでー。そこらへんの雑魚に手伝えとかあれやれいわれてもかなわんしなー」
「ええいっ! 貴様らー!」
「……とりあえず、他の冒険者の支援に回してやってくれ。私はとりあえず一度ギルドに行っておきたい」
「よし、おっけ! ならロモソ! ヘレネエ! クグルウ! 大体強さ別に三つに分けるから、そいつら率いていろんなところまわって! シリチは私についてきてミルハたちと一緒にギルド行き」
「ちょ、適当すぎないその指示!?」
「どーせ妖精なんてみんな適当に生きて適当に戦って適当に遊んでるだけだし! 好き勝手暴れてこいやー!」
「いえやー!」
「ろっそやー!」
「まるったー!」
「おっし! 適当な叫びありがとう! じゃあ行ってこーい!」
そう言って妖精たちが勝手に飛び立つ。ヤカワタの指示に従った形だが……まとめ役にされたロモソとヘレネエとクグルウに従うのはどうしたお前たち。
「ああ! もう! ヤカワタ、後で殴る!」
「あかんわこれ……はー、めんど」
「やだなあ……一人で好き勝手暴れたかったなあ……」
その飛び立った妖精たちを追いかける三人。ちまちまと妖精を捕まえ、いくらかの数でグループを組み、冒険者の手助けに飛んでいく。まだまだ飛び立った妖精の数は多いが、それらを集める気は内容だ。どこまで適当にやる気だお前たち。まあ、妖精はそれくらい自由奔放な奴らが多いので結構面倒な存在である。それでもヤカワタの指示には従うし、彼らも街を救うこと自体にはなんら抵抗があるわけでもない。むしろ色々とこの先安全に過ごすためにも力を尽くすだろう。あれで結構気のいい奴等である。
「……あれ、いいのか?」
「うん、もんだいなしー。それよりも、ほら、行くよー?」
「あ、待ってください」
「ほりゃー、とっとといこーや」
「そんな喋りだったかシリチ?」
「いやいや、結構その時その時で適当よ? 私達? ヤカワタよく見なさいよ、あれいつも割と適当にしゃべってるじゃない?」
「否定はできないが……」
その時その時、生きたいように、好きに生きるのが妖精たちである。




