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「どういうことよそれはっ!」
「ア、アイネ!」
村長の言葉に対し怒りの言葉を発したのはそれを告げられたルフェではなくアイネの方だった。ルフェ本人は言われた言葉に対しどこか納得の表情を見せていたが、アイネの方はそんなルフェの態度を理解できず、また村長も二年たってようやく戻ってきたルフェを追い出すようなことを言い出すのに納得がいかない様子である。
「わたし達もききたいところですが」
「ええ、ルフェが戻ってきたのにいきなり出ていけだなんて……」
この場にいるルフェの両親としてもその言葉に対しては言いたいことがある様子だ。そうして周りはざわざわとするのだが、その話の当人であるルフェは静かなものである。
「……ルフェも何か言ったらどうなのよ?」
「いや、ちょっとな」
アイネの言葉にルフェが苦笑いしながら答える。ルフェは村長の発言の意味を理解しているようだ。そんなルフェの態度はともかく、周囲がざわざわとしている状態、そんな状態で村長が手をあげる。発言がある、これから発言をする。そういう意図で手を挙げたものであり、それにより一旦周囲が静かになる。
「……確かにルフェは戻ってきたばかり、そんな者に対してこういうことを言うのは私としても心苦しい。それにルフェは村を守った英雄でもある」
「ならっ」
「しかし……だからこそ、だ」
だからこそ。つまりはルフェが村を守った、戻ってきたことに問題があるということである。
「それは一体どういう……」
「ルフェは村を守ってくれた。しかもとんでもない強さをもって。だが……その全てを守れたわけではない。最初に襲われた村人は守ることもできず魔物に無残に引き裂かれ、その悲鳴に駆けつけた村人たちも戦いながら数人がその命を散らした。死なずとも、怪我をした者は少なくなく、今後に支障が出るような怪我を負ったものだっている」
無情にも、ルフェが村を守ったといってもその全てを救うことは出来なかった。ルフェが村に戻ってこれたタイミングはアイネが襲われるタイミング、村に魔物が入りこんだ後でありそれ以前にあったことに対してはどうしようもないのは仕方がないことである。しかし世の中のことをすべて仕方がないという言葉だけで受け入れることは出来ないものだ。
特に今回はルフェが強大な力を持って戻ってくる言う形だったからこそ、村人としては思う所がある。なぜルフェがそのようなことになったのか、本当に戻ってきたのはルフェであるのか、戻ってきたのがなぜこのタイミングなのか、失われた村人を守ることは出来なかったのか、もっと早くに戻ってくることは出来なかったのか、特にルフェはそれを実現できるかもしれないような非現実的な超常の力を持っている。少なくとも周りから見ればそのようにしか見えないような異常な戦闘能力を。
「ルフェがもっと早く来てくれれば犠牲者は出なかっただろう」
「それはルフェのせいじゃないでしょう!?」
「そうだ。しかしそれですべての者が納得するわけではない」
たとえそういうものだと理性で理解していたところで感情がそれを許さない。一時的に許容することはできてもどこかに瑕は残る。
「それに、ルフェが今戻ってきたところでルフェの身の置き所はあるのか? 今までルフェは村にいなかった、死んだものとして扱われていたのではないか。そんなルフェが戻ってきてその身をどこに置くことができる」
「それは……」
村とは狭い範囲のコミュニティであり、独特な集団意識が存在する。既にある程度完成されているコミュニティの中に新参者は入りづらく、ある程度仲間意識が芽生えないと難しい。そういう形でのコミュニティにおいてルフェの立場はかなり特殊な形で、一度死亡と言う形でコミュニティから離脱した形だったのにそれが戻ってきたという状況である。当然単純にもとにいた所には戻れず、もともとルフェのいた場所は誰かが入りこんでいるか、すでに存在しないか、別の形に収まっているかなどそういった形で失われている。
もちろん元々村人であったのだからコミュニティに新しい形で参入すればいい……というのは少々楽観的な話だろう。むしろ村人であったからこそ、単純にコミュニティに参加することは難しく、かといって戻ることもできないという状況になるのである。また先ほど村長の言った通り、ルフェが守れなかった村人の関係者がルフェをどのように見るかをはっきりと判断することは出来ず、下手な形になれば排斥や攻撃、村内のコミュニティに亀裂が走る事態になりかねない。
「つまり、俺が村に戻るのは難しいってことですね」
「ああ、そういうことになる」
村長は無慈悲に告げる。彼は村を守る者としての立場があり、非情な決断も冷酷に告げなければならない。
「わかりました。村を出ています」
「……そうか」
「ルフェ!」
ルフェの告げた言葉にアイネが叫ぶ。ルフェはそんなアイネに笑顔を向ける。自分は大丈夫だと。
「っ……」
「ただ、少しだけ時間をください。出ていくにも準備が必要なので」
「ああ、それはかまわない」
そうしていくらか時間の猶予を貰う形でルフェは村を出ることが決定した。
「…………」
家の中でアイネがふさぎ込んでいる。ようやく戻ってきた幼馴染であり、好意を持つ想い人でもあるルフェが村を出ることが決定した。それがやはりショックであったのである。そうと決まったのであればルフェとの時間を作ればいいものだが、それすらできないでいる。
「おい、母さんこんなものでいいか?」
「そんなところね」
そんな状態のアイネを置いておいて、アイネの両親は何やらどたばた騒ぎながらあれこれと準備している。既に村長がルフェに村を出ることを告げてから数日、その間に彼女の両親は何かの準備をしていたようだ。
そしてその準備もようやく終えたのか、アイネの側に来て語り掛ける。
「アイネ、そろそろふさぎ込むのはやめたらどうだ。いつまでもうじうじしていてもしかたないだろう」
「…………お父さん」
今まで話しかけてこなかった父親に今更何をと言う心情で反応するアイネ。
「全く。今までルフェを待っていたお前がそんな状態でどうする」
「え……」
「アイネ、旅の準備をしておいたわ。いつルフェが出ていっても問題なくついて行けるわよ」
「ちょ、ちょっと!? どういうこと!?」
二人ががさごそと何やら準備をしていたのはどうやらアイネの旅支度のようだ。しかしアイネにはその行いの意味が理解できない。
「どういうことって……アイネはルフェについていかないのかしら?」
「……それって」
「お前はルフェ以外と一緒になるつもりはないんだろう? ならここにいても仕方がない」
「……いいの?」
アイネとしては確かにルフェと一緒に行きたい、共に在りたいという気持ちはあるが、しかし村を出ていくルフェについていっていいものかと考えている。この村には彼女の両親がいる。その村を離れ、両親を置いていってルフェについていっていいものかと。ちなみにこのことについてルフェの気持ちは無視である。
「ああ。お前が幸せになるのが一番だ」
「ただ、時々ここに戻ってきてほしい所だけど」
「もちろんよ……ありがとう、お父さん、お母さん」
両親の気持ちを受け、アイネはルフェについていく意思を固める。
「じゃ、行ってくる」
「ああ、戻ってきたばかりなのにもう行くのか……」
「ほとぼりが冷めたころに戻ってくるのよ? あまり長い間滞在できないかもしれないけど、時々顔を見たいもの」
ルフェの両親としても旅立つ息子に寂しい想いはある。特に二年間行方不明で死んだものと思っていたからこそ、その想いは強いだろう。しかし村で決まったことを覆すわけにもいかず、そうしてしまえば自分たちの立場も悪くなる。もちろん息子がいればなんのそのではあるが、その息子に両親の立場を悪くして苦労かけたくないと言われれば親として立つ瀬がないだろう。
なので息子を明るく見送り、時々戻ってくるように言うしかなかった。最も現在のルフェの実力を考えれば身の危険で村に戻ってこれなくなるようなことは少ないと考えられる点ではある意味安心感はあるだろう。
「ああ、まあ……一年くらいは間を置くよ」
村での出来事の傷がいえるのに一年、というのは少々短いものの、それくらいの間を置けばかなりマシにはなっているだろう。そんなことを思いつつ、両親に別れを告げルフェは村を出る。
村を出てあまり人の通ることの少ない街道への道を行く途中ルフェは人にであう。
「遅かったわね、ルフェ」
「……アイネか」
特に驚いた様子もみせないルフェ。その反応にちょっとむっとしながらアイネがルフェに近づいてくる。
「何よ。ちょっとは驚いたらどう?」
「そんな予感はしてたんでな」
少しは驚いた反応をしろというアイネに対しルフェは苦笑しながら答える。実のところ、ルフェのもつ超常的な戦闘能力はその身体にも十分存在する物である。端的に言って、滅茶苦茶身体能力が高いのである。力、反射速度、動体視力、五感。アイネの住む家はルフェの隣、距離的にそこまで遠くはない。そしてこの世界の建物はそこまで防音能力はない。普通ならば隣の家の人間の話している言葉が聞こえるということはあり得ないのだが、化け物じみた身体能力を持つルフェには聞こえてしまうのである。
要は、ルフェはアイネがルフェについてくるという話をすべて知っていたのである。もちろんそれを言うことはないが。
「ところで、アイネはどうしたんだ? 村の外に用事でもあったのか?」
「っ……え、えっと、そ、そうね……」
どう言ったものか、どう言ってルフェについていけばいいのか。アイネは言葉が思いつかない。悩んだ結果、アイネは馬鹿になることにした。
「ルフェが出ていくなら私も出ていくわ! そして私はルフェについていく。幼馴染でしょ、ちゃんと連れて行きなさいよ!」
「ええ……」
全く論理的で説明になっていない内容である。ただ、それをルフェは否定することなく、若干もう少し理由付けできる話にならないのかと呆れるくらいだった。
「まったく……アイネがついてきたいのならそれでいいよ。ただ、旅するのは大変だぞ?」
「何よ。ルフェは旅したことなんてないでしょ……私もないけど」
「はは、まあそうだな」
二人は並んで街道に続く道を進む。初めての村の外、彼らの旅路に何が待っているものだろうか。アイネはその先を思い少し戦々恐々と、ルフェはまるで気にした様子もなく呑気に歩いていくのであった。




