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どうしてこうなったのか。繋がっている彼から逃げながら今日のことを思い出す。
今日は珍しく明日までゆっくりできる休日だった。社会人になってからはどうしても二日間しっかりと休みを取れる機会というものは少ない。そしてその時間を友人と遊びに使える時間も。一人二人ならば時々休みが合うが、私達五人全員の休みが一致することは殆ど無いだろう。それがたまたたまとれたため、今回全員で集まって遊びをしていた。
遊び、といっても普通に遊ぶものではなく、TRPG、テーブルトークロールブレイングゲームと呼ばれる時間のかかるアナログな遊びだ。昨今はネットで集まることもできるかもしれないが、こういうゲームは皆で集まってわいわいと遊ぶからこそ楽しい。別にネットで仲間と遊ぶのも、知らない人と一緒に遊ぶのも否定しないがやっぱりアナログで遊ぶのが一番だ、あれこれと準備して、ああだこうだと生で話し合って。
特に私たち五人は元々大学で同じサークルのメンバーだった。さらに言えば気が合ったのと地元通いで卒業後も外に出て行かなかったのもあるのだろう、最終的にずっとサークルから続けて遊んでいるのがこの五人だった。
社会人になると集まる機会は少ないが、それでも機会を見繕って続けていた。今日もそういう形でみんなが集まった。
基本的にTRPGといってもいろいろな種類がある。現代風のファンタジーの混ざったものから完全なファンタジーのもの、伝奇物など種類は色々だ。今回はその中の伝奇物、ある神話をネタに使った作品だ。プレイヤーキャラクターは現実世界にいるような一般的に人間を基本とし、そこから職業や技能を選択しゲームに扱えるキャラクターを作る。
こういったゲームだとプレイヤーとキャラクターの性別が違うことも多く、私達も男友達が一人女性を、私を含めた女性陣は男性キャラクターを作っている。キャラクターの職業によっては色々と問題が出てくることもあるが、今回はどんな職業でもいいということから、犯罪者を選んだり学生を選んだり……私は警官を選んだ。当然拳銃を所持できるという利点もあるからだろう。皆はロールプレイ重視だったりとそういった要素から選んだが、実利から選ぶのも悪くはない。
そのうち、犯罪者の職業……職業? まあ、その職業のプレイヤーに拳銃を持たせたいという話になった。通常最初に持っていける道具、持ち物の類は主にゲームマスターによって制限がかかることが多い。一人のプレイヤーだけ強すぎる、ゲームバランス的な問題、色々な理由からだ。特に現代メインでは拳銃のような強力……かどうかはわからないが、有用な武器一つあるだけでゲーム内容が変わってくる。強いプレイヤーに合わせると他のプレイヤーが死にやすくなるし、逆に弱いプレイヤーに合わせるとゲームが一方的で詰まらない。特にこのゲームは生きるか死ぬかのぎりぎりの方が面白いはずだ。
しかしゲームマスターはあっさりとそれを許容した。職業もそうだが、今回の話では武器が強くても弱くても、何を持ち込んでもシナリオ的に問題ない。誰かが強くても後々面白くなるのだから構わないと。
少し、その事に奇妙な点を覚えながらも、私たちはゲームを始めた。
シナリオ名は"異界から漂流者"。キャラクター達の導入はなく、突然ゲームマスターが情景描写を始めた。
「薄暗い闇の中。光が存在しない場所。明かりもないのに、薄ぼんやりと周囲のことが見ることができる。周囲はまるで洞窟のように見えなくもない。しかし、洞窟というには少々壁や床が異質だ。それはまるで肉のようだ。壁も床も赤い血の色をした肉のように見え、微かに脈動もしている。そして壁には血管のようなものが生え、床や天井にも突き立っている。そんな異様な雰囲気の洞窟のような場所、その入り口に君たち五人は倒れていた。そのうち君たちは目を覚ます」
プレイヤーは五人。私と友人が四人。嘉村夜江、石田未遊、曲地直人、萩野幸也、斎藤達樹。キャラクターは古島学人、麻帆原鵺夜、照月瑠奈、アルバート・ガンジス、黒井魔人。どう考えてもキラキラネームの類や絶対につけない名前、ありえない名前だと思うけれどこれはゲームだし構わない。むしろ普通の名前にする方が詰まらないと思う。自分の名前を使う場合もあるが、ロールプレイ重視だとむしろ別の名前で別のキャラクターにする方が面白い。没入する感じにするとこのゲームだと悲惨な死に方も珍しくないのでやっぱり別キャラで言った方がいいだろう。
「最初に目を覚ましたのは古島学人。夜江、君のプレイヤーだ」
そうして私のプレイヤー、学人が目を覚ました……というロールプレイをする。気が付いたら目の前の光景が今まで仕事をしていた警察署ではなくなっており、血の色ををした肉の建物の中……建物ではなく、もしかしたら生物の体内か何かなのかもしれない。そういうのは多分後で分かるだろう。順々に他のプレイヤーたちも起きた描写をゲームマスターが行い、最後に瑠奈、直斗のプレイヤーが目を覚ます。恐らくは体力的なステータスで目を覚ます順番を決めたのだろう。年齢性別ダイスで決めたステータス的にも私のキャラクターが一番体力が大きい。
目を覚ました後は混乱や言い合いなどのロールプレイを行うが、そういったロールプレイだけで話をしていても仕方がない。そういった部分も面白くはあるが、やはりゲームのシナリオを進めないといけない。ひとまず私のプレイヤーが警察手帳を取り出し、それで自身が警官であることを示しいったん全員に信用させる。当然犯罪者キャラクターである達樹のプレイヤー、魔人は警察手帳を見てビビる。魔人っていう名前なのにビビるのは面白いかもしれない。むしろ名は体を表すというか。
周囲をプレイヤーたちが見まわし、入り口……出口? 今自分たちのいる場所から考えれば、そこ以外に行先がない。ならば出口だろう。そちらの方に私のキャラクターが先導し他の仲間を連れて行く。入り口すぐのところに立札が一つ。そこに書かれていたことは……
「立札にはこう書かれている。"この世界に迷いし者たちよ。この世界の底、最も奥に杯がある。それを用いれば汝らの願いをかなえることができるだろう"。そして立札にはこの場所の地図と思わしきものも存在している。しかしその地図は未完成であり、途中から途切れている部分が多い。その地図を参考に進んでもいいが、その中で一つ大きな部屋がある。その場所には大きくこう書かれている。"繋がりの穴"と。何故そんなことが書かれているかはわからないが、何か重要な場所であることはその地図からもわかるだろう。君たちはどの場所に向かっても構わない。ただしその地図が本当に参考になるかは不明だ」
そうゲームマスターは言って私達に地図のコピーを渡す。よくある小道具だ。確かに言っている内容が書かれている。重要そうだが、行くと確実に何かイベントが起きるのは間違いない。それがいいことか悪いことかは不明だが。
私たちはプレイヤーで相談し、まず地図が未完成の方向へと行ってみることにした。道があるのかないのか、何かあるのかないのか。ひとまず見てからどうにかするのもいいかと思ったのである。その方向に行くと、その地図の途切れている部分には化け物がいた。見た目で何か、プレイヤーである私たちは今までプレイしてきた経験から予測はつくが、キャラクターはその限りではない。しかし、その化け物が自分たちの手に負える相手かはわかる。
キャラクターは私のキャラクター以外は武器を持っていない……と、基本的には認識している。瑠奈の傘を武器として使える点、鵺夜の格闘技能があれば武器無しでも戦えること、そしてプレイヤーは知っているが魔人は拳銃を持っている。それだけ攻撃手段があればまだ戦うことはできる可能性はあるだろう。もっとも物理攻撃を無効にする化け物もいたりするが。
恐らくはゲームマスターが行けないようにと配置した化け物だろう。であれば強化されている危険もあるし、そもそもこのゲームは戦闘を避ける傾向のあるゲームだ。筋書き通り、イベントを行う場所に向かうことにした。そしてそのイベントの起きそうな場所、地図上に"繋がりの穴"と書かれたところに向かった。
私たちが覚えているのはそこまでだった。そもそも、なぜ私たちは誰も疑問に思わなかったのだろう。今日集まった五人全員がプレイヤーであることに。いったい誰がゲームマスターをしていたのか。
そして、先ほどの状態に私たちは陥った。今の今までゲームをしていたのに、いつの間にか目の前の光景が変わっていたのだ。言い合いにならなかったのは他にその場に人間がいて、謎の声が聞こえてきたからだろう。むしろいきなり現実離れした光景を前にしてゲームのキャラクターのような対応ができるだろうか。ゲームと現実は違う、私たちはゲームのように、キャラクターのように対応できなかった。そうしてそのまま話は進み、混乱したままあの展開になった。
「っ!」
あの時のことを、今も鮮明に思い出せる。理解できない、理解したくない。友人が死んだ光景なんて!
「大丈夫か?」
「っ!?」
突如声がする。ああ、何故私は今まで気づかなかったんだろう。繋がりが、そこにいることを教えてくれるのに。私の後ろに、逃げてきた私の後ろに、私のプレイヤーキャラクターである古島学人。警官であり、拳銃を持つ、いつでも私を容易に殺すことのできる彼が立っていた。




