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「ふう……」


 今日も変わらず同じ日々が続く村の中、アイネが自宅で家事を終え、休んでいる。そんな彼女の元に彼女の父親が近づいてくる。


「なあアイネ……」

「何お父さん?」


 親子の会話というものは特に珍しいものではなくありふれたものだ。しかしそんな会話をしようとしてくる父親に対し、アイネは微妙に機嫌が悪そうに答える。ここ最近は父親が話しかけてくる内容はいつも同じだからである。


「お前もいい年齢だ。そろそろ結婚を……」

「嫌」


 父親がもちかける結婚についての話、しかしアイネはそれをばっさりと斬り捨てる。


「……ルフェはいまだに行方が分からない。ずっと待っていても仕方がないだろう」

「……いつか帰ってくるわよ。私、ルフェ以外と結婚するつもりないから」


 そう言ってアイネはその場を離れる。父親は去っていくアイネにかける言葉がなく、何も言えず見送るだけだった。

 現在ルフェの行方はつかめていない。最初の一年間は途中から諦めがありつつもルフェの家族が神山の方に行くときついでに探したのだが一年を過ぎてそれすらもなくなった。アイネもルフェを探しに行きたいとは思っていたが、女性は山に入れない。仮に入るにしても山登りに慣れていないアイネでは先に慣れる必要性があり、無理をしようとすれば自分も迷い行方不明になる危険性がある。それゆえにアイネができることはルフェが帰ってくることを待つことだけだった。

 そうして二年が過ぎる頃にもなれば、もはやルフェは死んだものとして扱われる。それはある意味仕方がないことではあるだろう。そしてそうなればアイネは婚約者のいない女性と言うことで当然だが結婚話が持ち込まれてもおかしくない。特にアイネはもう成人しており年齢的にはすでに結婚していてもおかしくない年齢だ。一応この世界では嫁き遅れというものはそこまで厳しい見方をされることはないが、アイネの年齢で結婚相手がすんなりみつかる年齢の上限である。その年齢を超えれば結婚できないということはないものの、望ましい相手を探すのは難しいだろう。

 だから父親がアイネに結婚の話を持ち掛けるのだが、アイネの意志は固くルフェ以外との結婚はお断りという状態である。


「はあ…………ほんと、ルフェは何処に行ったのよ」







 そんな日常がありつつも村には変わりがない。しかし世情は変わっていく。ルフェが消えて一年、魔王が復活したことが噂として広まり始めた。この世界では魔物と呼ばれる他の生物に対する攻撃性を持つ生物として歪んだ生態を持つ生き物が存在する。動物、人間、場合によっては植物すらその攻撃の対象とし、種族が同じ魔物ですら直接の親子関係になければ攻撃の対象とする可能性もある生態である。

 もちろんその生態にも例外となる事例が存在する。魔物の中でも上位にあたる知能の高い魔物、場合によっては魔族とも呼ばれるその存在が魔物を統率することでその攻撃性の対象を指定、限定的にすることが可能である。それにより同士討ちすることなく動物や人間を襲うように仕向けることができる。つまり魔王と言う存在は全ての魔族、魔物の統率者としての立場の存在である。

 そして魔王が出現したということは人間と魔族の戦いが始まるということに繋がる。今までも人間と魔族の戦いは何度も行われておりその中で魔王も何度か討たれている。人間の被害が甚大になったこともあり、攻防は一進一退……というほどはっきりしたものではないが、おおよそそういう状態である。

 そんな中、魔王が復活し魔族と魔物の活動が増え、村が滅んだという話や街が襲われたという話が少しづつ出てくることになり……その影響がこの村にも届く。


「うわああああああああああああっ!!」


 始まりは村の外での男性の叫びだった。


「っ!? 何だっ!」

「誰か見てこい!」


 村の中で仕事をしていた男性たちがその叫び声に動き出す。様子の確認に数人を向かわせ、残った者は何か危険なことがあった場合の対処として武器に使える農具を持っている者は遅れて様子を見た物に追従し、そうでない者はちゃんとした武器を取りに村の倉庫の方へと向かう。

 男性たちがそのように動く中、女性陣は村の中にある強固な建築で簡単な籠城が可能な建物に向かう。災害時などにも使われる公民館の類の建物である。


「大丈夫かしら……」

「……まだみんな集まってないわね」


 叫び声を切っ掛けにすぐに動ける人間ばかりではない。火を使っている者は火の消去を行い火事の危険を取り除く必要があり、足の悪い家族がいる者はその家族を連れていく必要がある。


「ああもう!」


 そのすぐに動けない人間の中にアイネも含まれていた。そして遅れて動こうとして、アイネは家の外に、既に魔物が村の中入っているのを見てしまう。


「っ!?」


 咄嗟に自分の体を部屋の中に戻し、魔物に気づかれる前に姿を隠す。先ほどの叫び声は魔物に襲われた村人だったようだ。男性陣も魔物に対処してはいるようだが、その全てを抑えるというわけにはいかず中まで入ってきたようだ。それはつまり結構な数の魔物がいるということである。一体でも村人で数人がかりで倒すものだが、仕事をしていた全員が向かっても抑えきれない数だというのであればそれは結構な数だろう。

 特に最近は魔王が復活した、村が滅んだという話が届くようになってきているのだからその関連で村が統率された魔物に襲われていると考えることもできる。もちろんその確証はアイネにはないが、そういった想像の働くような出来事である。


「……数が多いわね」


 外に出ようと思っても外にいる魔物の数が先ほど見た数よりも多い。魔物が流入している状態で村人が集まっている建物に向かうことは難しい。男性陣の様子は確認できないが、全滅していなければまだ戦っている可能性もある。どちらの方に向かうにしても、魔物がいる中を突っ切らなければいけない状態ということには変わらないが。


「……出るにしてもどっちに行ったらいいかしら?」


 建物に向かうか、男性陣の方に向かうかどちらの方に向かうか明確に判断は出来ない。どちらに向かうにせよ、魔物がいる状況ではどうしようがない。そうであるのならば答えは簡単になる。魔物のいない方向に行くしかない。


「っ! こっち!」


 魔物がうろちょろと家の前を移動してその結果道の先にいなくなったタイミングを見計らって入り口から家を出て一気に駆ける。気付かれないようにするかそれとも一気に駆け抜けて魔物を引き離すか迷ったようだが気づかれないようにしたところでうろうろと動き回る魔物の状況からすぐに見つかる可能性が高いということで逃げて引き離すことを選択した様子である。

 当然そうするアイネの足音を魔物が感知しアイネを追う。村の中であるため建物があり、それを利用し建物の陰から陰へと移動してその姿を隠そうという考えで移動している。魔物もアイネの移動に合わせているが、少し距離が開いている。このままいけばアイネがうまく魔物をまくことができるかとも思われた。しかしアイネも半ば意識していないが、魔物は家の近くにいた数体だけではない。


「きゃあっ!?」


 唐突に表れた別の魔物に思わずつんのめりそうになる。そして前にいる魔物に気づかれる。


「っ!」


 戻ろうとするが、当然後ろからも魔物は追ってきていたわけであり、前と後ろで挟まれた形だ。魔物のいない方向に行こうにも、半ば行き止まりのような状態である。もはや逃げ道はない状態だ。


「……もう駄目かな……ごめん、ルフェ」


 いなくなった幼馴染をもう待ってやることは出来ない。ここで魔物に襲われ命果てることになる、それをここにいない幼馴染にアイネは謝った。そしてそんなアイネを魔物が襲おうとして。


「おおおおおおおおおっ!!!!」


 空から流星が降ってきた。いや、それは流星ではない。人である。降ってきた人はアイネを襲おうとしていた魔物に降ってきた勢いをそのままに足を突き出し流星キックをぶちかます。何処から降ってきたかはしらないが、かなりの高速で振ってきたその人物の蹴りによって、大地に穴が穿たれる。蹴りをぶち込まれた魔物も当然その穴の中に。


「えっ……えっ? ちょ、ちょっと何が起きたのよっ!?」


 目の前に大穴が開けられて驚くアイネ。自分の足元手前までその穴は広がっており、もう少しで自分もその穴のできる衝撃に巻き込まれるところである。いや、その距離ならばその穴ができる時に巻き込まれていてもおかしくはないはずだが。


「アイネ、大丈夫だったか?」

「……え…………ルフェ?」

「ああ、俺だ。無事でよかった」


 空から降ってきたその人物は今まで影も形も見えなかった行方不明になっていたルフェその人である。


「い、今までどこに行ってたのよ!? 散々探しても見当たらなかったのに……そもそもいきなり空から降ってきたのはどういうことなのっ!!」

「ああ、ちょっと事情を説明するのはややこしいんだが……」


 アイネの言うことももっともだが、ルフェも好き好んでいなくなりたかったわけではない。面倒で大変で難しく奇妙でおかしな話になる、そんな内容の話をルフェがしようとしたところでルフェは自分を狙う生物の存在に気づく。


「ル」

「ふっ!」


 軽く自分に襲い掛かろうと跳びかかってきた魔物にルフェは拳を突き出す。アイネが気づきルフェに声をかけるよりも早いその行動は、魔物を吹き飛ばした。それも空まで、漫画的表現では星になってしまうような感じで。


「えっ」


 しかもその攻撃は魔物に直接当たっていない。ただ拳を突き出したその拳圧だけで魔物を天高くまで吹き飛ばしたのである。


「…………今なにしたの?」

「あー、そういう説明は後で全部まとめてするよ。今は……ひとまず、村に入りこんだ魔物を全部ぶっ飛ばしてこないと」


 とんと軽い音を立てて地を蹴って自分の作り出した穴から飛び出てルフェはアイネの隣に来る。


「アイネ、後ろをついてきてくれ。魔物は後ろに回さない。そこが一番安全な場所だから」

「わ、わかったわ」


 そしてルフェの村に入った魔物の掃討作戦が始まる。

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