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ハロウィン  作者: 湖南久留未
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第2話

「ご主人様は、何故そんなにニンニクが好きなんですか?もしかして、自殺願望でもあるんですか?不死身であることがお辛いとか……」


 深刻な空気が流れるかと思いきや、ご主人様はキョトンとした顔で小首をかしげている。

 なんですか、その今どきの女子高生のような顔とリアクションは。可愛すぎじゃないですか。


「いや?」



 私の悩んだ時間を返してください、ご主人様。



「なら、味ですか?味なんですか?」


「触れた瞬間爛れるというのに、味を感じられるわけがなかろう」


 それもそうですね。えぇ、そうだと思っておりましたとも。だからこそ、自殺願望があるのかと思ってしまうじゃないですか!

 もう、僕にはご主人様の考えが分かる気配もありません。まぁ、由緒正しいヴァンパイアの考えは、しょせん下僕である僕には理解できなくて当たり前なんでしょうけどね。


「なら、何がそんなにご主人様をニンニクへと駆り立てるんですか?」


「サーチェ、私は別に死にたいわけではないんだよ。死にたいわけではないが……わずかな傷は一瞬で治り、痛みを感じることもほとんどない。私という存在は、死に迫ることがあまりにもなさすぎて、生きている実感がないのだ。食事はする。睡眠もとる。だが、老いることも死ぬこともない。私は、私自身が本当に生きているのかどうか、本当にここに存在しているのかどうかわからなくなるんだ。」



 そう言って、ご主人様は少しだけ悲しそうな顔で笑った。

 僕たち下僕も、年を取ることなく、半永久に生き続けることはできる。しかし、ご主人様のような特別な再生能力はない。人間と同じように、怪我をすれば痛みがあり、致命傷を負えば死に至る。手当をし、自然治癒するのを待つしかない。致命傷さえなければ生き続けることが出来るだけだ。

 そんな僕たちからすれば、ちょっとした傷ならばすぐに治るし痛みもないというのは、大変羨ましい限りなのだが……。どうやら、ご主人様にとっては違うらしい。

 


 生まれてから今まで、ご主人様自殺未遂(仮)以外は大きな変化はなかった。それが当たり前で、変化のない日常に満足しているし、何か変化が欲しいと思ったことは特にない。

 だが、生まれてからまだ五百年程度の僕と違い、千年以上は生きているご主人様にとって、この変化のなさは退屈以外の何物でもないのだろう。そして、それが生きているのか死んでいるのかの疑問へとつながっている。ただの下僕でしかない僕には、それぐらいしか想像できないけれど。


「人間は、生を感じることが出来なくなるとリストカットというものをして、痛みや血液を見て安心することがあると聞いたんだが、私にはそれをすることが出来んのでな。それで、ニンニクを食べるようにしたんだ。これがなかなか生を実感できてクセになっているのかもしれん」


「どこでそんな知識を仕入れたんですか、ご主人様」


「パソコンからインターネットで。サーチェ、あれ、本当に便利なんだな」



 僕の考察、全然違った。



 あぁ、文明の利器が憎い。いや、便利なんで利用してるんだけども。新しいレシピ調べたりとかしてますし、導入をお願いしたのは僕ですよ。それでもですよ。誰ですか、リストカットなんて危険な知識を与えたのは!許せません。

 というか、リストカットで切るのは静脈なんで、死ぬ確率はほぼないですけど、ご主人様がニンニクを食べれば死ぬ確率のほうが高いんですよ?全然違うんですって。人間が毒薬飲むのと同じなんですよ。結構深刻な状況なんですけど……ご主人様はきっと理解してくださらないでしょう。これは、埋めることのできない感覚の溝だ。ご主人様の感じる数十年と、僕たちの感じる数十年には大きな差がある。



 しかし、それを伝えたところで、ご主人様には僕たちの感覚を理解することはできないだろう。ご主人様が生を感じられない苦痛を僕たちが理解できないのと同じように。



 悲しいが、これがご主人様と僕たち奴隷との差だ。ならば、何とかしてニンニク以外で生を感じられる体験をしていただかないと。そうでないと、ご主人様はまた同じことを繰り返してしまう。


「ご主人様、僕と一緒に何か新しいことを始めてみませんか?」


「急にどうしたんだい?」


「死にかける以外で、生を感じていただけるよう、今までにしたことのないことをしてみましょう。目新しいことというのは、実に楽しいそうですよ」



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