6-9-A この右手を
僕はグニグニしたなにかから飛び降りると、ぐるっと辺りを見回した。
広い部屋に、発達した根をうねらせている巨大な木と、僕とジェシカ。
「悠輝!?どうしてここに……」
そんなことはどうでもいい。それより今はあれをなんとかした方がいいんじゃないか?
巨木は見たことがある。ルシファーに見せられたあの幻影によくにている。でもそうだとすると、リュネットはどこにいるんだ?
「リュネットは、あの中です」
ジェシカは目を擦りながら立ち上がると、巨木を指差した。
蠢く巨木は、恐らく悪魔だろう。潜在的に魔力の多いリュネットを取り込むことで、悪魔の力が強まっている。魂から悪魔の部分を切り離すことも考えたが、リュネットの魂はきっと悪魔と一体化してしまっている。それを切り離すのでは時間もかかるし、なにより失敗したときのリスクが大きい。
「方法は、あります」
◇◇◇
巨木の悪魔の周りを、4本の剣が飛行機のように旋回しながら飛んでいる。悪魔がそれに気をとられている内に、僕は目の前に突き刺さった剣に麻縄を巻き付けていく。
「かぐや、次!」
「承知」
僕は巻きつけた麻縄の端を持って、次の剣へと走り、その剣にも同じように麻縄を巻き付けていく。そのままでは悪魔に背中を向けることになるが、実体化したかぐや僕の背中を守るように戦闘態勢に入っていてくれる。
剣から剣へ、麻縄を巻き付けていく。
悪魔を円形に囲むように突き刺された剣は、計12本。すべてを回るのではなかなか骨が折れる。
しかし悪魔と剣が戯れているおかげで僕の方に攻撃はこない。悪魔の方も、剣に何度か攻撃を仕掛けるが、俊敏な動きに翻弄されているようだ。
9本目が終わったところで、ジェシカの姿が見えてきた。
剣を操るのには相当な負荷がかかるらしい。ジェシカは苦痛に顔を歪めている。
僕がジェシカを視界に入れながら麻縄を巻き付けていると、突然、ジェシカが倒れた。
ジェシカに呼応するように、空を飛んでいた剣も床に落ちてカランと高い音をたてる。
「ジェシカ!」
僕は駆け寄り、ジェシカを抱きかかえる。
息はある。朦朧としているが、意識もあるようだ。
「すみません、ちょっと、ガス欠です……」
剣が無くなった今、悪魔の次のターゲットは僕たちだ。
根が物凄い勢いで僕たちに迫る。
かぐやは僕のかわりに剣に麻縄を巻き付けていたので、駆けつけることができない。
「悠輝!後ろじゃ!」
僕はジェシカを庇うようにして目をつむった。
「ハイヤー!!」
僕に迫る根は、天井を突き破って登場したその人によって木っ端みじんに砕かれた。
「こっからが本番やで!」
聞き慣れた関西弁、スリットの入ったロングスカート、その人は、モンファさんだった。
「252!345!175!」
モンファさんがトランシーバーに向かって叫ぶと、上空から天井を破り、まるでその場にいるかのような精密な射撃が行われた。
撃たれた根はその場所から朽ちるようにして無くなっていく。
『重力計算しなくていい射撃なんか初めてですよっ!」
モンファさんのトランシーバーからヨキさんの声が聞こえる。城の上空でヘリコプターかなにかで待機しているのだろうか。
ジェシカの意識は完全に戻っているようで、どうやらモンファさんの登場にとても驚いているようだった。
「も、モンファ!?あなた待機組でしょう!?なんでここに……」
モンファさんは、今までに見たことのないくらいの笑顔で言った。
「仕方ないやろ。ジェシーが可愛すぎるんや」
「なっ……!?」
同じセリフを初めて会った時にも聞いたような気がした。
「あれをやるつもりなんやろ」
そのつもりですと答えるジェシカ。
古来より伝わる、悪魔祓いの儀式である。
僕は左手でジェシカの手を握りリュネットのいる悪魔に向けた。
もう放すものか。
この小さくて柔らかい、少女の手を。
僕は、この右手を絶対に、




