6-8-A 放たれし剣戟
いくら扉渡りでも、ペルガモンまでは少し距離がある。
僕は真っ暗な空間を、ペルガモンに続く扉に向かってひた走っていた。
この空間を走っていると、僕が死神だと告白したあの日の事を思い出す。
ほとんど無意識で扉渡りを使ったのに、繋がったのは、松崎さんの書斎への扉だった。
扉の前でもう一度扉渡りを使い、自宅に戻ったが、結局僕が行き着くのはここだと思い知らされた覚えがある。
そのまま走っていくと、遠くに扉が見えてきた。5分もしないうちに着くだろう。
しかしすぐに違和感に気がついた。
扉が、開いている。
そしてそこから幾つもの人影がこちらに迫ってきている。どこかで見たことのあるようなシルエットだった。黒い体に翼が生えており、近づくにつれ、その表情が読み取れるようになる、はずだった。
しかし顔がない。
ルシファーと会った時に、上空から無数に現れた悪魔だ。
あの時はただ逃げることしかしなかったが、今なら存分に力を振るえる。しかし今はそれどころではない。
「かぐや、一転突破する」
「残りはここに放置することになるが、よいか?」
「後で片付ける。」
「承知した」
僕は立ち止まり居合いの構えをとると、刀のあるべき場所に黒い炎が灯っていく。
悪魔は飛んでいるせいか近づいてくるスピードが速い。
いくら射程を無視できるとはいえ、遠ければ遠い程威力は期待できなくなってしまう。
悪魔はその数を増やしながらこちらに迫ってくる。
ちょうど期待できる威力の射程圏に悪魔が迫った時、ちょうど僕の手元に少し大振りの黒い刀が現れた。僕が居合いの構えをとったので気を利かせてくれたのか、いつもの黒い刀身は、金の装飾が施された鞘に収まっていた。
僕はその体制のまま、悪魔に向かって走り出す。
かぐやを器として使役している時、僕の身体能力は飛躍的に強化される。
普段では考えられないような速度で僕は悪魔に接近し、一番近い悪魔に向かって一閃、抜刀と同時に斬り上げる。
斬られた悪魔はすぐに消えて無くなり、その向こうにいた悪魔も、射程を無視した斬撃によって次々と斬られ消えていく。
一瞬道が現れ、その向こうに開きっぱなしの扉が見えたが、増え続ける悪魔によってすぐにふさがれてしまった。
「きりがないのぉ?」
のんきに呟くかぐや。
僕を囲むように襲いかかる悪魔を切り倒しながら、僕は声を荒げる。
「今、それどころじゃ、ない、だろ!」
「お主、舌かむぞ?」
「誰のせいだよ!」
かぐやとの会話に完全に気を取られていた僕は、まさか悪魔が三位一体の攻撃をしてくるなんて思ってもみなかった。前の2体は斬り捨てたが、後ろの1体は、容赦なく僕に襲いかかろうとする。
しかしいくら待ってもその攻撃は僕に届かなかった。
「戦闘中に無駄話とはな。死ぬ気か?」
振り返った僕の後ろに立っていたのはライアン先輩。
手にしているの両刃の槍は、ライアン先輩の器で《ソリテュード》どんな人なのかは知らないが、ライアン先輩の器のことだから、きっと聡明な人に違いない。
「本当は俺が行きたいんだがな。今はお前の方が適任だ」
ライアン先輩は槍の先を上に向けて空中に放ると、柄の部分を思いっきり蹴り上げた。棒状のものを蹴ったとは思えないくらいに真っ直ぐ飛んだ槍は、空中で制止すると、幾つもの光の槍へと姿を変え、雨のように悪魔の群れに降り注いだ。
「今だ!行け!」
ちょうど扉までの道を作るように悪魔が消える。
扉から出てくる悪魔を除けば、そのほとんどは殲滅されたように思う。
「ありがとうございます!」
僕はライアン先輩に深いお辞儀をして、再び扉へと走り出した。
「邪魔だあぁーーっ!」
かぐやを正面に構え、悪魔の密集する扉に向かって半ば突進するように突っ込んだ。
悪魔の群れは四散し、無事、扉をくぐることができたのだが、問題はそこではなかった。
僕が出た場所は、空は鼠色の雲に覆われ、不可解な形をした城が建っている。
辺りを見渡す限り、ペルガモンであることは間違いないようだが、この城付近一帯はおそらく結界に覆われていて、普段は見えないのであろうと確信した。
僕は急降下しながら足下に広がる城を見つめた。
僕が扉渡りを使って移動した場所は、悪魔の根城にしている城の真上だった。雲が近い。
しかし、このまま落下したら命はないだろう。
「扉じゃ!扉!早く!」
かぐやが叫ぶ。僕は急いで足下に扉を作った。地面と平行に扉を作ったのは初めてだ。
扉渡りの空間でも、僕は落下していったが、これで落下距離はだいぶ縮まったはずだ。かぐやのとっさの機転には感謝しなくてはならない。空中に出た瞬間若干放心状態になっていたから。
出現した扉はひとりでに開き、僕を現実の世界に連れ戻す。
少なからずダメージは受けると思っていたのだが、そうでもなかった。
落下地点にあったグミのようななにかが、クッションの役割を果たして衝撃をほぼゼロにした。グミのようななにかは僕に踏まれても尚グニグニを蠢いていたので、とりあえず斬った。
人の気配がしたので振り返ると、そこには超然美少女がいた。
城の床にへたり込み、僕を見て驚愕の表情を浮かべている。
腰まであろうかという長く白いツインテール、ルビーを思わせる赤い瞳。
夏祭りの夜に出逢った、見紛うことのない、あるひとりの悪魔祓いの少女。
「久しぶり。ジェシカ」




