6-7-B 私の向かう場所
扉渡りの力によって出現した巨大な扉の前に、各国から呼び寄せられたエクソシストが集まっていました。
それぞれの思いを胸にざわつくエクソシストたちを鎮めるように、アルバートが声を発します。
「聞いてくれ!」
台に乗り、少し高い位置にいるアルバートをエクソシスト全員が見つめます。
「エクソシストの精鋭諸君に通達する!これから出向く戦場では命を懸けて戦ってもらうことになる。だが、あえて言おう……生きて帰ってこい!」
ひとつ、またひとつと拍手が起こり、だんだんと大きくなっていきます。その拍手とともにエクソシスト全体の志気が上がっていくのがわかります。
今この場所に集結しているのは、扉渡りを使ってペルガモンに向かう攻略組と、それを見送る待機組。待機組は本部に残り、攻略組に指示を送ります。
小次郎は攻略組ですが、片腕を失いリハビリ中でもあるモンファと、その付き添いでヨキは待機組にいます。ヨキの姿が見えませんが、どこに行ったのでしょうか。
「なぁジェシー、それなんなん?」
モンファが聞いてきたそれ、というのはこれのことでしょう。私は肩に背負った白いゴルフバックに目をやります。
沢山入って、できるだけ小さいものを、とお願いしたはずなのに、背負ったときのシルエットがまるでバックから髪が出ているような感じになってしまっていて、気に食わないですが、仕方ないです。
「これは……ただの骨董品です」
モンファはだいたい察したようで、小さくため息を尽きました。そしてあるものを見せてきました。
それは、赤く染まった剣の柄でした。
「これ、第8訓練場でジェシーがつこうてた剣の柄や。見えてなかったやろ。《色》」
まさかそこまでバレるとは思っていなかったので、正直焦りました。
確かに私はあの訓練の直後、色が見えていませんでした。
魔力欠乏症のステージの高い症状です。
私たちの使う結界のように白と黒の世界ではなく、古い写真のような淡い褐色で、自分が流しているのが汗なのか血なのかもわかりませんでした。もしかしたら痛覚も鈍っているのかもしれません。
あくまで一時的なものでしたが、繰り返せばどうなるかわかりません。
「ジェシー。あれを使うのはやめた方がええ。ジェシーの体がどうなるか……」
「……ジェシカさーん!すみ、ません!お見送りに、来たんですけど、ちょっと、後回しにしていた事、忘れてて、すみません……」
モンファの声を遮るように登場したヨキは、肩で呼吸をしていました。
ヨキが仕事を忘れてたなんて、珍しいですね。
でもちょうど良かったです。危うくモンファにこれを取り上げられるところでしたから。
蝶番の軋む音がして、巨大な扉が開いていきます。
アルバートのかけ声とともに、攻略組が続々と扉の向こうに消えていきます。
「じゃあ、行ってきます」
「……」
「え、あ、行ってらっしゃい」
無言のまま私を見つめるモンファに、それを見て当惑するヨキ。
私は少し無理をして笑顔をつくった後、2人を背に、扉へと歩き始めました。
私は、自分がこんなにも強い人間だったかと少し驚いていました。
悪魔の根城へ攻め込むのですから、当然、大罪級の悪魔もいるでしょう。
悠輝のおかげで《怠惰》と《強欲》は完全に消すことができたでしょうが、私を恨んでいるであろう《嫉妬》は逃がしてしまいましたし、何より、《傲慢》には手も足もでませんでした。
そんな場所から、たったひとりでリュネットを救い出そうなんて無謀です
でも私は行かなければいけません。
リュネットのこと、悠輝にも紹介したいですし、日本旅行だって、まだ途中です。
私は、ほんの少しの思い出と、過大とも思えるくらいの希望を胸に、扉をくぐりました。




