6-6-B 扉渡り
皆さんが死神の事を話している理由のわからぬままに、翌日、大規模侵攻作戦のミーティングが行われました。
ペルガモンにある悪魔の城は、悪魔独自の結界の中にあり、何の力もない人には見ることも触れることもできないそうです。
今回の作戦の概要は、まず結界を破り、城内に侵入。それぞれ5~6人の編成を作って城内全域を制圧。会敵した場合は、各個撃破。目的は、すべての悪魔の殲滅。
ずいぶんと簡単な作戦ですが、今回の作戦に参加するのはエクソシストの中でも精鋭中の精鋭。
作戦指揮を執る元軍人のアルバートを筆頭に、各地から有能なエクソシストが集められています。
ですがこの作戦には、ひとつ問題があります。
そんなに簡単に、城内に侵入できるのか。
しかしこの問題は、誰かが質問するまでもなく、昨日からの私個人の疑問と共に解決されることになりました。
アルバートは続けます。
「皆耳にしているかもしれないが、今回の作戦には《死神連盟》が手を貸してくれることになっている!入ってきてくれ!」
アルバートの言葉に、ミーティングルーム全体に動揺が走ります。
もしや、と思いましたが、さすがに悠輝が来るはずもなく、ミーティングルームに入ってきたのは初老の男性でした。しかしただ老いているのではなく、全身が引き締められていて、その昔日本に存在したというサムライのような感じがしました。何かスポーツでもやっていたのでしょうか。
「松崎繁と申します。短い間ですが、どうぞ、よろしくお願い致します」
松崎さんと名乗るその男性は深々とお辞儀をすると、アルバートの隣に用意されていたイスに座りました。
「今回の作戦では、城内に侵入できるかどうかという事が最大の要となる!そこで、M'r松崎の《扉渡り》という技術を使わせて貰う!」
扉渡りという言葉にざわつく室内。
それに付け加えるように松崎さんが付け加える。
「扉渡りというのは、こちらの世界と隣り合わせに存在する空間に一旦繋ぎ、そこから目的地に行く技術です。隣り合わせの空間は、こちら側よりも縮尺が小さいので、短時間かつ効率的な移動を可能にします。まぁ、実演したほうが早いでしょう」
そう言って松崎さんは立ち上がると、後ろの壁に手をつきました。何をしているのかと考える暇もなく、壁から浮き上がるように扉が現れました。
洋風の扉で、豪華な装飾が施されていて、悠輝も同じようなものを使っていた事を思い出します。
松崎さんはその扉を開け、中に入ると、1秒もしないうちに松崎さんの声が聞こえてきました。
「いかがでしょう」
しかしその声が聞こえてきたのは私たちの真後ろ。つまり、扉渡りを使って、ミーティングルームの反対側に出現したのです。
松崎さんのパフォーマンスに近いそれを見た途端、ミーティングルーム内が拍手であふれました。
確かにこれを使えば城内には容易に侵入する事ができそうです。
ミーティングの後、松崎さんの周りには人集りができていて、あわよくば悠輝の事を知っているかも、と思ったのですが、それを聞くのは無理そうでした。
ところが、無駄に天井の高い庁舎の廊下を歩いているとき、偶然にも松崎さんの姿を見かけました。私はチャンスとばかりに他の人にとられないうちにサッと近づいて声をかけました。
「良かったら、お手合わせ願えませんか?」
自分が戦闘狂になった覚えはありませんが、松崎さんに話しかけた瞬間、なぜかそう言ってしまっていました。
後で考えたら、もしかしたら自分は死神の力というものを知っておきたかったのだと思います。今の自分の力が、死神である悠輝と比べてどのくらいの位置にあるのかということを。
松崎さんは少し驚いていましたが、結果的には快く承諾してくれました。
私たちは模擬戦の行える第3訓練場に入ると、それぞれが準備を整え、ブザーが鳴るのを待ちました。
◇◇◇
禁書庫での調べのおかげで、エクソシストよりも死神の方が秀でていることはわかっていましたが、まさかここまでとは思ってもみませんでした。
松崎さんはおそらく魔力で形成された拳闘を装備し、私も同じように2本の剣を形成しました。スタイルの似た武器だったので、ある程度頭の中でイメージはあったのですがそんなもの形にするまでもなく、ブザーの鳴った瞬間に松崎さんの拳は私の眼前に迫っていました。
寸止めで無かったら、何メートル吹き飛ばされていたでしょうか。形が残ればいい方なのかもしれません。
やはり、私の想像通りでした。悪魔祓い協会はこの力に恐怖している。いずれ自分に向けられるのではないかと。
以前の私もそうでした。でも、今は違う。きっと悠輝だってそう。
そうだ、私と悠輝が一緒になって、このふたつの組織の架け橋になれば……
……私と悠輝が一緒になって?
違います!別にそういうんじゃありませんから!って、誰に弁解しているのでしょう……
その時、松崎さんがふと思い出したように「あぁ、君がそうか」と言っていたのですが、謎の羞恥に襲われていた私は、気づくことができませんでした。
とりあえず、リュネットを助け出す。それが先決です。




