6-6-A 死神と悪魔祓い
僕は洋風な造りの書斎にいた。ここに来るのは、昨日の夜ぶりだ。
「悠輝君。大きくなったね」
僕の目の前にいるのは松崎さん。
4年前に見た時から、少しも衰えを感じない。むしろがたいが良くなったような気がする。
強いて挙げるとしても白髪が少し増えたくらいか。
「君が何をしたのかは、ライアン君から聴いたよ」
妹の記憶を消したことだろう。部分的とはいえ、許されるようなことではない。
「確かにそうだ。しかしね、悠輝君」
松崎さんは、僕の見たことのない顔をして言った。
「バレなきゃ犯罪じゃないんだよ」
松崎さんはこんな事を言う人だっただろうか。
まさか、偽者?
「ははは。冗談だよ悠輝君。そんなに身構えないでくれ。ともかく、私はそのことを上に報告するつもりはないよ」
ここは素直に感謝するべきなのかもしれない。
今かぐやの力を失ってしまったら、僕は何もできなくなってしまう。
頭の中で、鈴が小刻みに揺れているのに気がついた。
この音がするときは、緊張しているときか、照れている時かどっちかだ。
あぁ、照れてるのか。
僕は照れるかぐやを無視して、ここに来た理由を述べる事にした。
「松崎さんは、本部のコミュニティーリーダーですよね」
「ああ。そうだが」
「ということは、本部の考えていることも自然と耳に入ってきますよね」
「ある程度はね。しかし、それがどうかしたのかい?」
「悪魔祓い協会って知ってますか」
「……っ!」
どうやら知っているらしい。
カズは、ジェシカは死神と接触したことで規定違反を帳消しにされたと言っていた。祓力剥奪という最も重いレベルの違反であるにも関わらず、それを帳消しにされたということは、死神とエクソシストの間に何らかの繋がりがあったのだと僕は考えた。
しかしそれは何らかの理由によって、現在はその関係性を隠している、もしくは、無かったことにしようとしている。
「どこでそれを聞いたんだい?」
下手に誤魔化すのはよくない。僕はジェシカのことを話すことにした。もちろんすべてではない。それに、名前も明かさなかった。もしかしたら、ライアン先輩にも迷惑がかかってしまう可能性もあるからだ。
「……なるほど、その少女がエクソシストだった。という訳か……」
松崎さんは、しばらく考え込んだ後、何度かためらってから口を開いた。
「君には話しておこうと思う。実は、エクソシストと死神というのは本質的には同じなんだ。内なるエネルギー《魔力》と呼ばれる力を行使できる存在。《魔法使い》といえばわかりやすいかもしれないね。ただ、与えられた仕事が違うだけなんだ」
本質的には同じ。
もしかしたら、悪魔と魂を喰らう者も同じなのかもしれない。そう考えれば、始めて悪魔に会った時の既視感にも説明がつく。
「ところがね、簡単に言ってしまうと、死神の方が強いんだ。魔力を行使するという面でもそうだし、命に直接関わっているという意味でも死神の方が勝っている。それが分かったのはここ20年くらいのことなのだがね、悪魔祓い協会の方が一方的にこちらと縁を切ってしまってね。それならばと死神連盟も縁を切り、一切の関係性を無かったことにしたんだ」
まるで子供の喧嘩のようだと思ってしまった。
しかし自分より強い相手に恐れを抱くのは当然のことだ。その相手の名前が《死神》なら、尚更そうだろう。
「しかしね、最近、その悪魔祓い協会から連絡があってね。なんでも、大きな戦いがあるから手伝って欲しいと言うんだ。上は当然何色を示しているがね。」
松崎さんは、死神のことに関してやけに詳しい。
それはつまり、松崎さんが上層部の人間であり、また、死神連盟が一枚岩でないことを示している。
僕は松崎さんにありがとうございますと一礼すると、書斎を後にした。
いろいろわかってきた。一度情報をまとめる必要がある。
後は、あの人からの連絡を待つだけだ。




