☆1-7 生きて返すわけにはいかないかも
『付き合ってください』か。
誰かにこんなに分かりやすい好意を向けられたのはいつぶりだろうか、なんて考えられたのは一瞬だった。
『あー!ごめん!付き合って!っていうのはそういう意味じゃなくて!えっと、その』
耳まで真っ赤にして否定する中村さんは、店に来ていた客が視線がようやく散った頃に、落ち着きを取り戻して話し始めた。
「えっとね、付き合って欲しいのはね、犯人探しなの」
犯人探し?
この頃何か事件でもあったか?
中村さんはアイスティーを一口飲んで、再び真剣な表情を見せた。
「うん。それがね?生徒の所持品が次々盗まれてるんだって」
協力するかどうかは別として、話くらい聞いておこうかと思う。
所持品が盗まれてる?いつ頃から?
「夏休み明けたくらいからで、雑貨から小型の家電まで幅広く。携帯盗られた人もいるみたい」
言い方がまるで100円ショップの売り文句だな。
なくなったらものに統一性が無いと考えると、ただ無くしただけ、とも考えられなくもないが、そうでもないのだろうか。
盗んだものに統一性が無いなら、盗まれた人に何か共通点は?
「私も結構頑張って考えたんだけど全然思いつかなくて」
教師たちには相談したのか?
もしそれで何もしてこないならそっちも怪しい。
「一応相談したんだけど、犯人の手がかりがなさすぎて先生達では動けないんだって。できれば生徒会の中だけで片付けて欲しいって」
まだ一般の生徒にはばれてないんだな。
一回目以降が模倣犯、という可能性も消えたわけだ。
では、中村さんはなぜこの事を知っているんだ?
「だって私、一応生徒会の人だから」
待てよ。
生徒会の中だけってことは僕これ断ったらどうなってしまうのか。
「生きて返す訳にはいかないかも」
まさかそんな事はないだろう。
まあ、ここまで聞いて協力しないというのもなんだからな。
協力させてもらう事にした。
「もーつまんないなー。あーでもでも、ありがとね!」
気づかないうちに、悪魔用の防犯ブザーを握りしめていて、自分が情けなくなった。
◇◇◇
それから他愛もない話をした後、帰路についた。
ここは私が払うよ、と豪語されたが、男としてどうかと思ったので、丁寧に断った。
帰る間際、「こっちがホントのお礼だよ!守ってくれてありがとね!」と、手作りのお菓子を貰った。
守った、というのは全くの嘘なので、心が痛む。いつか本当のことを言えたらいいな。
帰る頃にはすっかり暗くなっていた。
しばらく歩いていると、コウモリのような翼で空を飛んでいる人を見つけた。
目を凝らして見るとジェシカさんだったので、手を振ってみた。
「おや、こんなところにいたんですね。ストーカーですか?」
違うから、もういいよ。
「そうですか。それは残念」
残念なのか。
それはさておき、何か用事があるんじゃないのか?
「あ、そのことに絡めてですが、あの中村様の件、悪魔の仕業かもしれません」