6-4-A 遠ざかる背中
8時30分だと?まるでホームルームに被っているじゃないか。ホームルームをサボってまで朝に伝えなくちゃいけないことがあるとでも言うのだろうか。まさか昨日の事か?いや、それはないだろう。中村さんの記憶が改ざんされてしまっていたのだから、カズの記憶も同じ状況にあるに違いないのだから。
僕は紙を制服のポケットに突っ込むと、最近仲良くなったクラスメートに「保健室に行く」と伝え、僕は特別棟に向かった。
この時、チャイムが鳴った。ホームルームの開始を知らせるチャイムだ。
ホームルームの時間なので、当然廊下に人はいない。
こうして静かに歩いていると、周りからの情報が一切なくなり、つい考え事をしてしまう。
カズ、こと鳴神一茂は、僕の小学校からの付き合いのある友人だ。
出逢いに関しては詳細に憶えていないが、初対面のはずなのに、初めて会った気がしなかったのを憶えている。
家に遊びに行くだとか、2人でどこかへ行くといったアクティブな思い出はないが、僕が学校にいるときは、常に側にいてくれたような気がする。
待ち合わせ場所である3階階段とは、3階から屋上に繋がる階段のことで、特別棟という立地上、人がほとんどこない。そのため、告白だとか、逢い引きだとか、そういったイベントの聖地のようになっているのだが、まさか告白か!?
いやいや、いくらなんでもそれはないだろう。
僕は変な汗をかきながら3階へと繋がる階段に足を踏み入れた時、僕はなぜか違和感を覚えた。
しかし、その違和感の正体を探る前に、件の人物は僕の目の前に現れた。知らないうちに、3階階段まできてしまっていたようだ。
「遅いじゃないか。悠輝」
「いや、ごめんごめん。ちょっと考え事してた。で、要件は何?」
ホームルームの時間に呼び出したのだ。それ次第では説教しなくてはならない。
「単刀直入に言う。俺は神だ」
いきなり何を言い出すんだ。
「説明してもわからんだろうから、説明は省く」
いや、説明してくれよ。カズが神?わけがわからない。
「まず、中村弥生の記憶を改ざんしたのは悪魔祓い協会じゃない。俺だ。悪魔祓い協会には、記憶を消すことはできるが、改ざんするほどの技術はないからな」
ちょっと待て、悪魔祓い協会のことを知っているのか?記憶の改ざんをしたのはカズ?
思考が追いついていない。
「次に、シュバリエ・ジェシカ・ド・リュフワは、記憶を消されてはいない。死神と接触したことで、今回までのすべて規定違反を帳消しにされた。悪魔祓い協会の連中は、大規模侵攻作戦で、死神の力を借りるつもりらしい」
待ってくれ、本当にわからない。どうしてそんな事を知っている。
「それから最後!お前の違和感の正体を教えてやる。お前は、中学生の時、引っ越しをして、転校しているはずだ」
違和感の正体?そんな事どうでもいい。カズ、君は一体、何者なんだ。
「お前を初めて見たとき「こいつ何か面白いことをやりそうだな」って思ったんだ。だからこうして見守っていた訳だが、俺の予想通り、お前は面白いことをしようとしている。だから、少しばかりヒントをくれてやったのさ」
カズは楽しそうにそう言うと、唖然とする僕を通り越して3階へ降りて行ってしまった。カズが廊下を曲がり、姿が見えなくなったところで僕は我に返った。
急いで追いかけたが、カズはもういなかった。
カズの少しだけ大きな背中を見たのは、この時が最後だった。




