6-2-A どうしたいのか
夜の支度をすべて終えた僕は、1人、部屋で考え事をしていた。
時計の針はすでに11時を回っていて、秒針の音だけが、部屋に響いている。
何を考えていたのか、簡単だ、これからどうしていくべきなのか。
予定に変更がなければ、数週間後、ペルガモンへの大規模侵攻作戦が開始される。ジェシカもそれに参加するのだろう。ペルガモンには、リュネットがいる。
しかし僕がジェシカに会う事は、もう叶わないだろう。僕はこの力で、ジェシカを恐怖させてしまった。
チリン
突然、僕の目の前にかぐやが現れた。
「一度、あの金髪に会ってみてはどうじゃ?」
あの金髪というのは、ライアン先輩のことである。
「パッツインの兄貴なのじゃろう?」
パッツインというのは、前髪ぱっつんと、ツインテールを足して2で割った用語で、主にジェシカのことを指している。
そうしたいのは山々だが、正直、ライアン先輩に合わせる顔がない。僕が妹の記憶を消した時、ライアン先輩との関係はなかったことになっているし、僕とジェシカが出逢って最初の悪魔を倒した時も「お前を助けに来た訳じゃない」と釘を刺されている。
「まあまあ、いいからいいから」
いつの間にか部屋の中に扉ができている。
僕は促されるままに、扉の中に消えていった。
◇◇◇
この扉の前に立つのは何年ぶりだろうか。僕は深呼吸して、ゆっくりと扉を押した。
「見ない顔だな。新入りか?」
部屋にいたライアン先輩は一言そう言った。
会うのは数ヶ月ぶり、きちんと話すのは4年ぶり。まず何から話したらいいのかわからない。
「僕は、ジェシカを傷つけてしまいました」
「知ってる」
ライアン先輩は顔色一つ変えずに答える。
「僕は、これからどうすればいいんでしょうか」
「知らん」
「真面目に答えてください!」
叫ぶ僕の声を遮るようにライアン先輩は言った。
「俺はお前が何で悩んでるのか全く見当がつかない!」
「何で悩んでるかって、それは!…」
「一つアドバイスをしてやる。どうしたらいいのか、よりも、どうしたいのか。で考えるんだな」
ライアン先輩は紅茶を飲み干すと、部屋を出て行ってしまった。
ライアン先輩は、僕たちの事情をある程度は知っているはずだ。
僕はジェシカを傷つけてしまった。もう一度会えば、きっとまた傷つけてしまう。
僕はいつもそうだ。守ろうとして、守れなくて、救おうとして、救えなくて、僕が関わっただけで、その人を不幸にしてしまう。
「それは自惚れじゃな」
声の主は、いつの間にか出てきていたかぐやだった。
「お主が関わっただけで不幸になるじゃと?よいか。人というのはな、誰かと関わらなければ生きてゆけぬのじゃ。人と人が繋がって、またその人が別の誰かと繋がって、やがて自分に帰ってくる。そうして人の世は成り立っておるのじゃ」
九十九神に何がわかる。と言いたかったが、この時のかぐやの言葉は、やけに僕の中に響いた。
「お主と関わったくらいで不幸になるのなら、人の世は今頃地獄絵図じゃろうな。じゃから、お主がそんなに気をもむ必要はないのじゃ。それに、妾は今のところ幸せじゃ」
かぐやの思わぬ言葉に、正直驚いてしまった。
僕は、何も守れない、救えない。
でも、守りたい仲間がいて、救いたい友人がいる。
どうしたらいいのか、よりも、どうしたいのか。
僕は、どうしたいのか。




