6-1-A 判断基準
帰宅した僕は、妹と少し遅めの夕食を摂っていた。
「そっかぁ、ジェシカちゃん帰っちゃったのか。お別れ会とかすれば良かったなー」
どうしてこんなにショックを受けているのか、自分でも不思議だった。
これまで死神の力を使わなかったのには、妹への贖罪と、ジェシカの心情を察してのことだった。恐らく、幼少期、両親の死の直前にジェシカが見た夢というのは、死神と両親の会話なのだろう。
魂をあの世に送り届ける際、死神と魂は、少しの間だけ会話する事ができる。
ジェシカは何らかの力によって、それを目撃したのだ。この考え方では、リュネットを直前に助けられたことに関する説明がつかないが、ジェシカは無意識下で、死神に対する恐怖に近いものが芽生えていたに違いない。
「お兄ちゃん?何ぼーっとしてるの?久々にキモイよ。ごはん冷めちゃう」
そう言っておかずを口に放り込む悠羅。
……久々にキモイ?最近はキモくなかったのか?
「え、あ、うん。なんか、楽しそうっていうか、生き生きとしてるっていうか。うーんいつからかな……夏祭りの時かな?」
ジェシカと出逢った、あの夏祭りの時からか。
僕が生き生きとしていた?どうしてだろう。
「お兄ちゃんね、いっつもうじうじしてるんだよね。なんでもないのにさ。だからキモかったんだけど、最近はそうでもなかったよ。ジェシカちゃんがうちに来てからはちょっとかっこよかったかもね……っ!?」
妹は話を終えてごはんを口に放り込むと、動きが止まった。
そして、まだ数回しか噛んでいないであろうごはんを無理やり飲み込むと、残りの夕食を掻き込むようにたいらげてしまった。
そして豪快にお茶を飲み干すと「ごちそうさま!」と言ってソファーのほうに行って、テレビをつけた。囲碁の解説が放送されている。
顔が赤いし、耳まで真っ赤だ。風邪をひいているんじゃないのか?
「風邪、は、ひいて、ない!見たいテレビがあったの!」
いつになく慌ただしい妹だったが、アホ毛が左右に揺れている。
しかし、まさか囲碁に興味があったとは思いもしなかったな。
それにしても、キモイかキモくないかの判断基準があったとは驚きだ。
僕がキモくなくなったのは、夏祭りの日から、か……




