☆1-6 付き合ってください!
中村さんが、ひとりでは入りづらい、という喫茶店に向かいながらよく考えた。
ちょっと不良から助けたくらいでお茶に誘うのだろうか?しかもそのことを本人は頭を打っていたせいで実際には見てないわけだ。
不用心すぎる。もしこれで他意がないのだとすれば、相当な勘違い製造機でる。
きっと何か裏があるに違いない…
◇◇◇
カランコロンとよくあるタイプの音がして、喫茶店のドアを押した。
時間帯のせいか人が少なく、テーブル席に案内された。店員が慣れた手つきでお冷やを二人分置いていった。
シックな造りのお店だった。道に面した側は一面ガラス張りで、木で統一されたインテリアはどこか温かみがあった。
それから、適当に飲み物を決めて、注文した。
「じゃあ、私は、アイスティーで」
「僕もそれで」
頼んだものが同じだと分かった中村さんは、こちらを見てへへっと笑った。照れているような、ほんの少しうれしいような。いや、それは僕の感情だったかもしれない。
飲み物なんてなんでも良かったのだ。だから、同じものにした。最初からそうするつもりだったと言えば聞こえはわるいかもしれないが、そのつもりだったし、それでどうなるとも思っていなかった。緊張が全ての根元である。
しかしそれからは無言だった。中村さんはなぜか俯いてしまっているし、かくいう僕も緊張して何も話せなかった。何かしゃべらなければと思い口をひらいてみるが、乾いてしまっていて、それ以上の行動は無理だった。早くこないものか、アイスティーよ。
先に口火を切ったのは中村さんだった。
「えっと…」
「おまたせしましたーアイスティーになります」
ウェイトレスは何食わぬ顔で僕と中村さんの前にアイスティーを置いて、そのままいなくなった。
「えっと、それでね?お礼っていうのは口実で、実はお願いがあるの」
夕焼けの空。
窓から差し込むオレンジ色の光が、中村さんを照らしていた。
中村さんは姿勢を正し、僕の目を見た。
その表情は真剣そのものだった。夕日に照らされた中村さんの肌は透き通るようで、まるでおとぎ話に出てくる白雪姫がよう。
中村さんは一度大きく深呼吸してから、割と大きな声で僕に言った。
「付き合ってください!」
つまり、僕に王子様になってくれ、と。